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第2話 未来少女の正体と、明日への不安

「信じられない」

 俺は首を振った。

「そもそも、あんたが未来から来た証拠もないし、俺の運命を知ってる証拠もない。ただの変な美少女かもしれないじゃん」

 できるだけ冷静に言ったつもりだったが、声が上ずっているのは自分でもわかった。

「証拠になるかはわかりませんが……」

 セリアは申し訳なさそうに呟くと、髪に付けていたヘアピンを外して手のひらに乗せた。

「これをご覧ください」

 そう言いながら、指先で軽くヘアピンを転がし始める。その動きは優雅で、まるでピアニストみたいだった。

 すると――

「うぉぉぉ!?」

 ヘアピンが、俺の目の前で小さなドローンに変わった。わずか数秒の出来事。銀色のヘアピンが形を変え、小型のドローンとなってセリアの掌の上でふわふわと浮いている。

 プロペラの音すらしない。

「なんで!? なんで!?」

 俺は目をゴシゴシ擦った。見間違いかと思ったけど、やっぱりドローンはそこにあった。

「私は手のひらサイズの物質を分解し、同じ質量で別の物体に再構築することができます」

 セリアはそう説明しながら、ドローンを再びヘアピンに戻した。あまりにも自然な動作で、まるで魔法みたいだった。

「う、うそだろ……」

 あり得ない光景を目の前で見せられても、まだセリアの話を信じたくない自分がいた。自分が死ぬなんて、受け入れられるはずがない。

「あんたが只者じゃないのはわかった。百歩譲って、未来から来たのも本当だとしよう。でも、それが俺が死ぬことの証明にはならないだろ!」

「おっしゃる通りです。ですが、私は嘘は申しておりません」

 セリアの青い瞳が真っ直ぐに俺を見つめる。その瞳には、嘘を言っているような感じがまったくなかった。

「じゃあ、どんな事故が起こるのか教えてくれよ。未来を知ってるんだろ?」

「……詳細はわかりません」

 初めて、セリアの声に迷いが混じった。何か隠してることがあるのかもしれない。

「はっ? ますます証明になってないじゃん。馬鹿馬鹿しい、俺帰るから」

 怒りを込めて吐き捨てると、セリアは心底申し訳なさそうな顔をした。でも、その瞳の奥には何か強い意志のようなものが見えた。

「あの……少々お待ちください」

 帰ろうとする俺の袖を、セリアが軽く引っ張った。

「なんだよ」

「明日、学校の理科室で小規模な爆発が起こります。怪我人は出ませんが、それが私の言葉の証明になるはずです」

「理科室で爆発?」

「はい。詳細はわかりませんが、それは確実に起こります」

 俺は眉をひそめた。理科室で爆発なんて、そんなバカな話があるか。でも、セリアの真剣な表情を見てると、嘘を言ってるようには思えない。

「わかった。もし明日、本当に理科室で爆発が起きたら、あんたの話を信じてやる。でも、なにも起きなかったら、二度と俺に近づくな。いいな?」

 セリアは静かに頷いた。

 それから俺は家に向かって歩き出したんだが、なぜかセリアが後ろをついてくる。

「おい、なんでついてくんだよ」

「私は颯太様の命をお守りする義務がございますので」

 さも当然といった様子で、セリアは答えた。

「守るって言っても、今日はなにも起きないんだろ? 理科室の爆発は明日なんだろ?」

「はい、そうですが……」

「なら帰れよ」

「それは……できません」

 セリアの表情が曇った。何か言いたそうだけど、言葉を選んでる様子だった。

「はぁ……わかったよ」

 断ったところで、この子はついてくるだろう。それに、もし本当に未来から来たんだとしたら、話を聞いた方がいいのかもしれない。


 十分後、俺たちは家に着いた。

「随分と……コンパクトなお家ですね」

 セリアが俺の家を見上げて言った。築三十年の古い一軒家。外壁の塗装も剥げかけてる。

「失礼なことをサラッと言うね。まあいいや、上がりなよ」

 家の中に入ると、セリアは辺りを見回していた。六畳の洋室と四畳半のリビング。キッチンとトイレと小さなバスルーム。生活感のない、簡素な部屋だ。

「ご両親は?」

「いないよ。一人暮らし」

「あら、記録では……」

 セリアが何か言いかけて、すぐに口を閉じた。

「記録?」

「いえ、なんでもありません」

 変だなと思ったけど、それ以上は聞かなかった。冷蔵庫から麦茶を出して、グラスに注ぐ。

「なんか飲む?」

「結構です」

 つっけんどんだなぁ。美人なのに愛想がない。

 でも、そんな美人が、俺みたいな平凡な男のために未来からやってきた? なんで?

 明日になれば、すべてがわかる。

 そう思いながら、俺は複雑な気持ちでセリアを見つめていた。

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