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第1話 平凡男子高校生、突然の非日常に遭遇する

 俺の名前は有村颯太。どこにでもいる平凡な高校二年生だ。

 成績は可もなく不可もなし。運動神経も普通。顔も……まあ、鏡を見る度にため息が出るほどでもないが、女子にキャーキャー言われるレベルでもない。要するに、徹底的に「普通」な男子高校生である。

 でも俺は、この平凡さが気に入っている。

「颯太、もっとなにかに打ち込めよ〜。青春がもったいないって!」

 クラスメイトにはよくそんなことを言われるが、俺にとって平凡な日常こそが最高の贅沢なのだ。波風の立たない毎日。変わらない日常。これ以上何を望む必要があるというのか。

 富も名誉も必要ない。美人な彼女なんて、俺には不釣り合いだ。愛だの恋だの刺激だの、そんな面倒くさいものは御免被る。

「このままでいいんだ」


 放課後、いつものように学校から家へと続く道を歩きながら、俺はそんなことを考えていた。十七年間、この平凡な人生を送ってきて、何の不満もない。

 ただ一つ、幼い頃の事故のことを除けば――

 そのときだった。

「……え?」

 俺の目の前に、突然黒い点が現れた。最初は小さな点だったそれは、みるみるうちに大きくなり、直径一メートルほどの円形の穴へと成長していく。

 まるで、空間そのものが裂けたみたいに。

「な、なんだこれ……」

 十七年生きてきて、こんな経験は初めてだ。というか、普通はない。絶対にない。

 俺はその場で固まってしまった。平凡に定評のある俺には、この状況に対処する術なんてない。逃げ出すという選択肢すら頭に浮かばず、ただ呆然と黒い穴を見つめることしかできなかった。

 周りを見回すと、他に人影はない。この異常事態を目撃しているのは俺だけらしい。

 スマホで撮影しようとポケットに手を伸ばしかけたが、震える指がうまく動かない。心臓の鼓動が妙にうるさくて、額に冷や汗がじっとりと浮かんでいた。

 どのくらいそうしていただろうか。数十秒だったのかもしれないが、俺には永遠のように感じられた。

 そのとき、穴の中から微かな光が漏れ始めた。最初は一筋の光線だったものが徐々に広がり、穴全体が眩しく輝き出す。

 俺は思わず目を細めた。

 すると――

 音もなく、穴の中から一人の美少女が現れた。

「えぇええ!?」

 思わず声が出てしまった。だって、穴の奥から歩いてきたというより、突然そこに出現したって感じだったんだから。

 そして美少女が現れた瞬間、あれだけ俺を混乱させていた黒い穴が、まるで最初からなかったかのように綺麗に消えてしまった。

 光の粒子がキラキラと舞い散り、風もないのに少女の長い銀色の髪がふわりと揺れる。

「……うわぁ」

 目の前に立つ少女は、俺の学校の制服によく似た服を着ていた。でも、どこか違和感がある。生地の質感が明らかに違うし、胸元には見たことのない複雑な模様の校章が光っている。

 何より、その美貌が尋常じゃない。

 透き通るような白い肌。水晶みたいに澄んだ青い瞳。そして月明かりのように美しい銀髪。よく見ると髪や服の所々に焦げた跡があるものの、まるで異世界の住人みたいに神秘的だった。

 俺はただ呆然と、その美少女を見つめることしかできなかった。

 だって、こんな美少女が突然目の前に現れるなんて、ラノベの世界だけの話だと思ってたんだから。

「初めまして、有村颯太様」

 少女が口を開いた。声も綺麗だった。鈴を転がすような、透明感のある声。

「私は高峰セリアと申します。未来から、颯太様をお守りするためにやって参りました」

「……はい?」

 俺の脳みそが完全にフリーズした。

 未来? 俺を守る? 一体何を言ってるんだこの美少女は?

「えっ? えっ? 未来ってなに? 俺を守るってなに? 一体なに言ってんの? というか、あんた所々焦げてるけど大丈夫?」

 我ながら情けないほど取り乱していた。一方、セリアと名乗った少女は、まるで天気予報を読み上げるかのように淡々と答える。

「混乱させてしまい、申し訳ありません。私は颯太様の命をお守りするためにやって参りました。なお、焦げ跡はタイムワープの副作用ですので、ご心配には及びません」

「命? 俺、死ぬの!?」

 ついさっきまで平凡な日常を送っていた高校生が、突然「死」について考えることになる。現実味がなさすぎて、逆に笑いそうになった。

「はい。颯太様は近い未来、学校で発生する大事故に巻き込まれ、命を落とされる予定となっております」

 セリアの口調は相変わらず事務的だった。それがかえって恐ろしい。

「予定ってなんだよ、それ……」

 俺の平凡な人生が、そんな非日常的な終わり方をするなんて。求めてもいなかった展開に、軽く絶望した。

 平凡でいたかっただけなのに。

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