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【シフト再興財源問題】

 翌日、父上はヴィクトリアを連れてホイールに帰った。ハニャス先輩とナツヒ先輩もそれぞれの本拠地に戻っていったけどトーケ先輩はもう少しステアに滞在するようだ。今日もマサラと漁師組合の組合長、それにうちの家令のヴァイスの四人で色々と話を詰めてくれてるらしい。


 ステアからシフトまでは通常四日の距離がある。魔道騎士団なら半日で駆け抜けてしまうし私の赤兎馬なら一時間半なんだけど、今回は領民たちの引っ越しになるのでそうはいかない。この人たちの移動は魔道騎士団で受け持つ事にした。陛下が私に騎士団の指揮権を委譲したのは旧パッソ領復興のためでもあるし、王宮に一報入れておけば問題ないだろう。


「エリザベス嬢、ひとつ相談があるんだが」

「なんでしょう、トーケ先輩?」

「以前、あのバカのお守で滞在したギアの村があるだろう?あそこからシフトに農作物を支援してもらいたいと考えたんだが収穫量的に可能だろうか?」


 うーん。そこそこ自活できるようになった、とは報告を受けてたけど果たして他所に出すほど収穫出来てるかな?


「いくつか問題がありますね。まず、サレナのやらかしで領内はとても酷い状態だったので、セレス領になってから最初の三年は税を免除する方針をすでに各町村に伝えてあります。

 そのため大まかには把握してますけど税務官を派遣して収穫量を細かく調査するようなことはしてないんです。為政者としては間違ってるかもしれませんけど、前任がワルすぎましたからね。委縮しないでやってもらいたくて」


 なるほど、と先輩が相槌を打つ。


「別の問題として財源があります。さっきの話ともつながりますが村には三年の猶予を与えてるので、もし作物をシフトに出すなら対価が必要になります。領民から税を徴収してない以上、セレス領の運営は私が個人で始めた黒猫馬車と味噌・醤油が主ですね。

 街道の通行税やアクセルの創薬もありますが、こっちはアクセル男爵の権限なんで」

「つまりマリア嬢にも相談しないとダメという事か」

「そうなりますね。ただ、トーケ先輩、さすがに宰相のご子息ですね。目の付け所はすごくいいと思います」


 とにかくはマリアとまず相談だ。その後はギアの村を見に行こう。



「うーん。実はさあ。私も産休してて把握が遅れちゃったんだけど、街道の税収は落ちてきてるんだよね」

「なして?」

「簡単じゃない?パッソ領が無くなっちゃったから」


 そうか。私は王都とステアを直線で結びたくて街道整備したけど、ステアまで来る人はさほど多くない。となると今までの通行税はパッソ領に行きたい人たちが払ってたってことか。


「あら?田中さんにしては見通し甘かったみたいねえ」


 ぐぬぬ。


「だからステアの観光地化したかったんだよねえ。これも魔人のせいだ」

「はいはい。人のせいにしない。でさあ。通行税収入上げる方法、ひとつあるのももしかして気づいてない?」


 え?なんだろう??


「ねえ田中さん。断罪回避できて腑抜けちゃってるんじゃないの?……まあ、魔人の件とか出産とかあったから仕方ないか。アクセルとホイールを直線で結ぶ話あったじゃない。魔道騎士団の行軍路演習にする、っていうから黙ってたけど本当はシュバルトがやりたがってたんだよね」


 そうだった。これも魔人騒ぎで頭から抜けてた。腑抜けと言われても反論できないや。


「魔道騎士団はパッソ領でずいぶんと行軍路敷設実践でやっちゃったし、これからシフトと王都を直接つなぐ街道の敷設もあるから……ハニャス先輩たちとは相談しなきゃだけど、ホイールに行く街道はマリアにお願いしたほうがいいかもね」

「早く決めてくれると嬉しいわね。シュバルトももう歳だから早く引退したいらしいの」


 お年寄りに無理はさせられないし、明日にでも魔道騎士団のベースキャンプに行って話をまとめてこよう。あそこからならついでにギアの村も視察できるな。


「オーリス公爵との調整はよろしくね。それとできればミナさんを貸してほしいんだけど」

「それはOK。あ、クララの世話ってどうする?」

「そうねえ。アクセルの使用人でも大丈夫だとは思うけど、ステアのほうが安心かな」

「んじゃ、こっちも信頼できる使用人に言伝てとく」

「あー、そうそう。創薬のほうは利益出てるからある程度は支援できるよー」


 おお、それは朗報。


「ほら、第二王子が産まれたでしょ?陛下が私の作った薬を宣伝してくれてねえ」

「え?でもマリアだって産休だったでしょ?」

「だから私の魔力を込めた物をブレンドして薄めて『ハッピーストライクLite』として貴族や豪商に売ってる」

「そんな事してたんだ。でもその利益はアクセルの為に使うべきじゃない?」

「大丈夫。アクセルの暮らし向きがよくなったのはアクセル男爵の力じゃなくてその裏でセレス伯爵が奮闘してたからだってみんな知ってるよ」



 翌朝、私は赤兎馬に飛び乗って魔道騎士団ベースキャンプを訪れてた。


「副団長、長く任せきりにしちゃってごめんなさい」

「いえいえ。次代を育むのも大事な仕事ですし、それが貴女のような優秀な人材の子であればなおさら重要ですよ」

「そう言ってくれると助かります」

「それにハニャス殿から聞いた話ですが、可愛らしい双子だそうで?」


 この世界の人には『腹違いの双子』って違和感ないんだろうかねえ?それはともかく本題に入る。


「なるほど。確かに魔道騎士団としては今さら行軍路演習は不要ですね」

「それにシフトから王都への新街道敷設も我々が請け負うのでしょう?だとしたらホイールへの新街道はマリア嬢にお任せしてもいいんじゃないかな?」


 副団長とハニャス先輩の意見を聞いて決めた。魔道騎士団としてのホイールへの行軍路演習は正式に白紙に戻す。


「それはそれとして、留守の間の状況を教えていただけますか?」


 六つの部隊でローテーションしてるそうで、一つはシフトの管理と修道院跡の定期的な監視。二つめはクランク近郊の仮拠点の維持。そして沿岸警備に一部隊、このベースキャンプ近辺に避難してきた人たちの町づくりに一部隊。最後に二部隊が火葬用魔道具を持ってまだ遺体が放置されている廃村を回っていると言う。


「ステアからシフトへの移住希望者もだいたい決まりました。彼らの安全が確保されるまでは一部隊はシフトに駐留させる必要があります。

 それから、ランクス侯爵からランクス領の瘴気浄化も依頼されてます。こちらは火葬用魔道具が必須になるでしょう」

「その上で王都への街道整備ですか。陛下も相変わらず人遣いが荒いことですな」


 取り合えず各部隊の役割分担の変更とローテーションの作成を副団長にお願いした。


「クランクの支援部隊は引き上げても構わないかと思います。もう一部隊は火葬用魔道具を使って周辺の廃村を回ってる部隊を回しましょう。どのみちランクス領の遺体が放置されたままでは私たちの瘴気浄化にも悪影響を出しますからちょうどいいと思いますよ」

「旧パッソ領でランクス領に組み込まれた土地を北から南に浄化していくイメージですね」


 それから私は後の事を副団長に改めてお願いして次の場所に向かった。


反応があると励みになります。よろしければリアクションや感想等いただけると嬉しいです。

これからもお付き合いいただければ幸いです。

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