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【お食い初め】

 その夜、先輩たちは貴賓客用宿泊施設【竹】に案内した。後から名付けたんだけど最初に作ったのが【松】。ここは国王陛下が宿泊しちゃった関係で他のお客さんを泊められなくなっちゃった。


 【松】は王族と三公爵家の当主くらいしか泊められない。この世界じゃ不敬になるからね。しかも陛下がお泊りになった部屋はもう陛下専用にするしかない。


 そんなワケで一段低い場所に、内装もちょっと安く済ませた宿を新しく作ったわけだ、これが【竹】。さらにもう一段格落ちの【梅】も計画中で、大まかにいって【竹】が上級貴族から下級貴族まで、【梅】は準貴族や平民の豪商なんかをターゲットにしてる。


「いやあ。話には聞いてたけどすごい宿だね」

「いやですねえ、トーケ先輩。それは宰相閣下からお聞きになったので?」

「血縁上は我が父上だけどね。あの事件以降お互いに一線を引こうって決めててね。今回ここに来るまで教えてくれなかったよ。『びっくりするぞ、腰抜かすなよ』とか言われた時は冗談だと思ってたんだが。ホントに腰を抜かすかと思ったよ」

「トーケ先輩にはこれからシフトの町づくりでたくさん力をお借りしますからね。その前払いってことで」

「これは失敗するわけにはいかないな。ハニャスはシフトの再建を主導する立場だったんだろう?後で色々と聞かせてくれよ」


 こら、そこの喪女。(ハニトー、キターー)って顔してんじゃねえよ。


「フフフ。今はエリザベス様がいるから喪女じゃないもんねー」


 あれ?ところでナツヒ先輩はどうしたんだろう?


「ああ、ナツヒなら露天の大浴場が気に入ったらしくてね。ずっと入りっぱなしだよ」

「教祖様がそんな生臭でいいのかしらねえ?」


 こらこらマリア。そこまで辛辣に言わんでも。


「まあまあ、マリア嬢。『教義や戒律で信者を縛り付けるのではない真の信仰を』とか言ってたからさ。私は旧パッソ領でエリザベス嬢に感化される様を見てたらヤツの気持ちも分からなくはないな」

「私も話を聞いただけですけど、そんなにすごかったんですか?この人??二度もぶっ倒れて、私はその看病しかしてないんですけど」

「それはもう。何せ『ドラゴン並みの脅威』と認定された魔人をあっさりと蹂躙してその力をも取り込んだ旧教会の神殿長を一撃でチリも残さずに滅ぼしたからね。私は撤退するしかないと思ってたし、撤退するにしても無事では済まないと思ってたよ。魔道騎士団全員で順に殿を努めてでも団長だけは逃がそうって考えてたくらいだからね」


 ナニその島津の退き口みたいなの。ハニャス先輩たちがそんな事考えたなんて知らなかったよ。


「私もナツヒから聞いてはいたが。改めて話を聞くとすごい活躍だったんだね。そんな人を主として仕えるなんて光栄だな」

「セレス伯爵麾下の男爵と魔道騎士団の団長とその補佐、立場は違えど二人してエリザベス嬢を支えていこう」

「なあ。学園の後輩とは言え、『エリザベス嬢』はまずいんじゃないか?」

「なんだトーケ。お前はまだ知らんのか?『セレス伯爵』とか『エリザベス様』とか言って立てるとすげー拗ねられるぞ」

「その話、ちょっとkwsk」


 やめぃ。まあ先輩に上司扱いされるの嫌がったのは本当なんだけどさあ。



「あ゛~~~~っ、やっぱハニトーてぇてぇ」

「なんなのよお、相変わらずこのアラフォーはさあ」

「三十路。それよりね。BLからしか得られない栄養素があるのよ」

「ねえよっ!」


 先輩たちを宿に残して伯爵邸に戻ってきた私とマリアは二人の寝室に戻っていた。なんかね、もう。抱き着いてくるのはいつもの事だし周囲の人間も不自然に思ってないしさあ。なんか私のほうが思考がおかしいんじゃないかって思えてきたよ。


「だからとっとと割り切りなさいなって言ってたのに」

「それでもさあ。やっぱり日本人の常識ってヤツがあるじゃないのさ」

「子まで産んだんでしょう私たち?今さらよ」


 まあそれを言われると言い返せないんだけどさ。それにヴィクトリアを連れた父上が来たらいよいよお披露目会だ。


「ドーバがね。最高の料理を作ってくれるって張り切ってるよ」

「ん?お食い初め?」

「うん。それプラスお披露目会ね」


 また頭をわしゃわしゃと撫でられた。鈴木さんが魔力を放出して私はヒロインの魔力に包まれる。


「ゆっくりと休んでね、いつも大変なんだから」

「うん」


 素直にうなずくと、そのまま深い眠りに引きずり込まれた。



 そんな日々が数日続き、オーリス公爵家の馬車がステアに到着した。エナドリ飼い葉の事は父上には最初に知らせたので、父上の馬車も普通よりも早そうだ。


 そしてお食い初め。立派な鯛が二匹、焼かれて出されている。なんでも誰が出すかで漁師たちの熱い闘いがあったそうだ。と言っても殴り合うわけもなく、単なる釣り勝負だったらしいんだけどね。


 他にも前世で縁起物と言われていた食材が並ぶ。『めでたい』は知ってたけど、多幸のごろ合わせでタコの酢の物とか、おっぱいをちゃんと吸うようにお吸い物とか。てか喪女って自称してる割には鈴木さんが詳しかった。


 クララとヴィクトリアに食べさせる真似だけしたらあとは大人たちの時間。父上も上機嫌で呑んでる。私とマリアは授乳があるんでお酒はNG、私は別に平気だけど鈴木さんは修行僧のようで面白かった。


 その後はついにステアの人たちにお披露目。ここには元攻略対象の三人もスペシャルゲストで呼んでる。場所は宿泊施設【松】の一階大ホール。父上は公爵家の当主だから昨夜はここに泊まってもらった。町の人たちは初めて中に入った人も多い。私としてはもっとフランクにしたいんだけど、さすがに国王が宿泊した場所、となると普段のようにはいかない。


「オギャー・オギャー」


 元攻略対象の三人を見てクララが一層大きな声で泣き始めた。マリアがなだめるも泣き止まない。仕方がないのでマリアにクララを連れていったん控室に戻ってもらった。


 三十分ほどして泣きつかれたクララが眠ってしまったのを見計らってマリアがそぉっと戻ってきた。そうしてお披露目の再開。町の住民たちがお祝いしてくれる。マリアが聖結界を張ってるんで病気を感染される心配もないし、邪悪なものが入ってくる事もない。


 赤ちゃんに障るといけない、という事でヴァイスが仕切ってくれてお披露目会は短時間で終了した。伯爵邸に戻ると、クララとヴィクトリアを鈴木さんに任せて、私は父上と黒猫馬車やその他の懸案事項について話し合う。


 旧式の黒猫馬車二台を買い取ってもらう事と、馬車一台分の鮮魚、仕入れ値にして金貨二枚を血抜きとワタ取りして金貨五枚で買い取ってくれる事になった。ただし馬車馬にはエナドリ飼い葉をこちらで用意する事が条件だ。父上はこれをオーリス公爵領内とアクシオ侯爵領、リーナ領領で売るそうだ。


 王都とセレス領内での販売は私に譲ってくれた。他にランクス領に新しく卸すのも私が優先権を持つことになった。親娘でパイを食い合ってもいいこと無いし住み分け大事。


 寝室に戻るとマリアがクララに母乳をあげてた。やがてマリアはクララを私に手渡した。続きは私が授乳しろってか?仕方ないなあ。やっぱり年増は疲れるのが早いのかね?


「年増言うな」


反応があると励みになります。よろしければリアクションや感想等いただけると嬉しいです。

これからもお付き合いいただければ幸いです。

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