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【ステアの新年会】

 新年を迎えた。つい先日お披露目会をやったばかりだと言うのに、祝賀会がある。


「お子様ねえ。呑める口実が欲しいだけに決まってるじゃない」


 とはアラフォーの言葉。


「いつも言ってるけど三十路だから。それに新年祝賀会は上級貴族だけだからまあ頑張ってきてねー」


 そう言ってる本人は相変わらずの寝正月を決め込んでるんだから気楽でいいよね。


「ナニよお。私だって今年は子育てがあるし授乳の関係で禁酒もしてるんだからね」


 アタリマエだ!


「それよりも終わったらステアに行くから準備よろしくね。マリアだってクララをお披露目したいでしょ?」

「ん、それは了解。まあ国王やら上級貴族にお披露目するのと違ってステアなら気楽だし、みんな喜んでくれるからねえ」



 新年祝賀会は例年通りではあるんだけど、ランクス侯爵から魔道騎士団に瘴気駆除の助力を依頼されてしまった。見返りは用意する、と国王や父上もいる場で公言したのでちょっと吹っ掛けてみることにした。


「実は私も新しく陛下から賜ったシフトの漁港と王都を結びたいと考えておりましたの。シフトが鮮魚供給地として機能するにはまだしばらく時間がかかるとは思いますが、ステアの漁獲量も頭打ちになっていますし、シフトから閣下の治めるレバーの街を通って王都までの直通の街道が新しくできればより新鮮な魚が供給できると思ってますの」


 ランクス侯が目を輝かせる。こりゃ鮮魚をまわしてもらう事を完全に期待してるな。


「そこで我が領とランクス侯の領地を通る街道ではありますが、これを『国道』として王家の管理とするのはいかがかと考えております。魔道騎士団は国王陛下のもの、その騎士団が敷設した道路が陛下のものとなるのが自然かと存じます」


 ランクス侯の顔がわずかに引きつり、後ろのほうで父上がニンマリしてる。


「ハハハ。さすがはセレス卿だな、『国道』という発想は新しくて面白い。その街道計画を許可しよう。ランクス侯もそれでよいな?」


 ヨシ、かかった。国王がそう言ってしまえば誰も否とは言えない。


「それではランクス領の瘴気駆除のかたわらでドコに道路を通すか計画を立てて、宰相とランクス侯に計画書をお渡ししますね」


 トドメにこう言ってしまえばランクス侯も断りづらい。瘴気浄化と街道整備がセットに決まったようなもんだからね。


「田中さんてそゆトコ相変わらずよね」


 屋敷に戻ってマリアと話をしてたらそう言われた。


「でもさあ。ハニャス先輩になんらか称号を付けてあげたかったんだよねえ」

「なんで?ってかできるのソレ?」

「魔道騎士団で道路作って『国道』にすれば、『じゃあ管理者は誰にする?』って話は私にくると思うんだよね。まあ事前に父上にも根回ししておくし」

「それでハニャスの意味は?」


 そりゃもちろん次期魔道騎士団長に推すためだ。一応、ハニャス先輩は宮廷魔術師でもあるので伯爵位相当の権限は持ってるんだけど下級貴族位も別に持ってれば推しやすくなる。って話をマリアにする。


「あと『なんで』に関してだけど、トーケ先輩がシフト男爵になって私の配下になったじゃない。そんでナツヒ先輩はクランクを聖都にするって言ってる。クランクは現状は王家直轄地だけど将来的には私の領地になるから」

「ふーん。元攻略対象を三人も配下に付けようってのが狙いか」

「あと、ヒロインも私のもの」


 っん!


「そこは、エリザベス様が私のモノ、でしょう?」


 そう言って舌を絡ませ合う。ついに完全に堕とされちゃったなあ。でも可愛い娘も作ったんだしもういいか。


「それはともかく。ステアに行く準備済ませておいたわよ。赤ちゃんがいるからセレス家の高速馬車勝手に手配しちゃったけど構わないわよね?」

「それはOK。で乗ってくの私と鈴木さんとクララ。あとは?」

「ミナさんとドーバかしら?シュバルトはアクセルから自力で向かうって言ってたしベグは馬で護衛してくれるって」



「みなさん、新年あけましておめでとうございまあ~す!カンパーイ!!

 えーと、去年は私個人的に色々あってこの町に全然関われなくてごめん。今年は頑張るからよろしくねー」


 どっと歓声が上がる。


「それから今年の新年会はスペシャルゲストがいまーす。私の学園時代の先輩でナツヒ先輩。腐敗した教会を廃し新しい信仰を広める若き高位司祭様だよ。

 それから新しく私の領地になったシフトの町を治めてもらうシフト男爵のトーケ先輩。この人は今の宰相の息子さんで新しく増えた領地の運営のために私の手助けをしてくれることになりました。

 次に知ってる人も多いと思うけどハニャス先輩、魔道騎士団での私の右腕ね。三人とも後日行なわれる娘のお披露目のために駆けつけてくれました。よろしくしてね」


 またわー、っと盛り上がる。「これは……うーん」「話には聞いていたが……」「私は何度かこの町の住人と交流があるからな」先輩たちの反応もそれぞれだ。


「あーごめん。忘れてた。『ついでのゲスト』マリアさんでーす」

「ちょっとお。ひとをオチに使わないでよ」

「お酒飲んでぐうたらしてるダメな大人でーす。みんな叱ってやってね」


 それからはもう無礼講の大騒ぎ。ハニャス先輩とナツヒ先輩は、魔人との決戦での私の活躍を住民たちに聞かせてる。もちろん機密に反しない範囲での配慮はしてくれてるようだ。


 そして私とトーケ先輩はシフトの再建について話をしていた。


「エリザベス様、職人組合は俺がまとめようと思う」

「え?マサラ、行ってくれるの?」

「ああ、俺の新しいモノ好きはエリザベス様も知ってるだろう?幸いにも魚探のほうも理論的には完成しててあとは細かい調整だけだ。そういうのはカルダのほうが得意なんで任せる事にした」

「それで付いていきたいって職人たちはどうなのかな?」

「兄貴のお眼鏡にかなったのしか組合にはいないからな。腕のほうは心配しないでもいい。そんなヤツの中で俺と気が合うヤツばかりが手を上げてる」

「つまり新しいモノ好きばかりって事か……」


 マサラが苦笑してる。


「漁師たちの反応はどうかしら、ヴァイス?」

「ステアでの漁獲高の頭打ちに危機感を持った者たちが新しい漁場として期待しておるようです。その中にはドーバ殿の元で魚の下処理を直接修行した者もおりますので、シフトでの鮮魚事業も比較的スムーズに立ち上がるかと」

「今のところシフトからステア周りで運ぶしか道がないから普通の馬車で八日かかる距離があるの。従来の黒猫馬車なら五日弱くらいかな……ってあ、マサラ、新型の馬車ってもうすぐできるんだよね?」

「ああ、問題ない。王様がこの町に来た時の改良した足回りを組み込んで、魔道騎士団からもノウハウをもらって車体も補強してある。あの飼い葉使って飛ばしても問題ないんじゃないか?」


 それなら時速六キロ十時間で一日に六十キロは余裕かな。


「ならステア周りでも四日で王都まで行けるね。実は昨日決まったことなんだけどさあ。シフトからランクス領を突っ切って王都までの新街道を整備する話が魔道騎士団に来る事になってね。これが出来れば朝早くにシフトを出れば翌日の午後には王都に着けそうなんだよね」


 おおっ!とどよめきの声があがる。私の黒猫馬車やエナドリ飼い葉の事を知ってても、やはりインパクトは大きいか。


「まあ新街道ができるのはしばらく先になりそうだけど、もし出来たら王都での黒猫馬車の価値はもっとあがるかな」


 がめついと言うなかれ。シフトの再建にはそれだけお金がかかる。私から直接話を聞いたことで迷ってた人たちも行くか残るか決断したようだ。あとトーケ先輩と直接逢って人となりを知ったことも大きいだろう。

 ステアで堅実にやる人。新天地でハイリスクハイリターンを狙う者。それはそれぞれの判断だ。領主権限で強制移民みたいなことはやりたくない。


 そうしてステアでの新年会は盛り上がるのだった。


反応があると励みになります。よろしければリアクションや感想等いただけると嬉しいです。

これからもお付き合いいただければ幸いです。

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