【婚約】
色々やる事をそれぞれに任せてたっぷりと産休を取った。年が変わって初夏にはクララも四歳になった。旧パッソ領の瘴気問題も解決したので、今まで王家直轄になっていた土地が新たにセレス領に封じられた。領地運営がさらに大変になるから、と言う理由で私は魔道騎士団の団長を退き後任にはハニャス先輩が団長になった。宮廷魔術師から騎士団長ってのは異例なんだけど、それを言ったら魔道騎士団自体が異例づくめだしさ。
そのハニャス先輩を子爵に陞爵するよう王宮に進言し、これが認められて先輩はペダル子爵位を叙爵した。本来騎士団長は上級貴族以上っていうのが決まりだけどハニャス先輩の本業は宮廷魔術師なんで伯爵位相当の権限が認められてる。これだけでも騎士団長の資格は有してるんだけど、他の貴族家の横やりを少しでも防ぐ意味もあって子爵に上げてもらったワケ。
私は今後は、魔道騎士団の指揮権を国王より権限移譲された立場として関わっていく事になる。
「現場の艦隊司令から、内勤の大本営勤務になったようなモンね」
鈴木さんのたとえは相変わらず分かりにくい。気を使ったクララが電子事典を見せてくれてようやく納得した。
騎士団がらみではもう一つ。私の神格がだいぶ高まった事で、以前はハニャス先輩に口止めしてた聖属性魔法について騎士団内に情報解禁した。これにより魔道騎士団は全員が高いレベルの聖属性魔法を使えるようになり、少数精鋭の最強騎士団と言ってもいい存在になった。
この騎士団再編に合わせて副団長から職を辞したいとの申し出があったんだけど、これ幸いと以前から話には出ていたセレス騎士団(俗称)に彼をスカウトした。
「人遣いが荒いのは貴女も一緒でしたか」
そこはまあ、優秀な人材は遊ばせておけないよね。本人も薄々覚悟はしていたようで、騎士団を立ち上げて軌道に乗るまでとの期限付きで了承してくれた。元総騎士団長のコネや私が学園で種(焼きトウモロコシ)を撒いてた事、さらにパッソ領の瘴気災害を鎮圧した手腕から希望者が殺到してるらしい。保有できる兵力には上限があるため選定を行なってくれてる。
そんな中、国王陛下がステアを再訪したいという意向があるとの連絡があった。今回は父上は頼れない。宰相と近衛騎士団長と話を詰める。前回よりもエナドリ飼い葉の性能が上がってるんで、王都からステアまでは馬の最高速のまま駆け抜けられる。これが二時間弱。あとはハニャス先輩に魔道騎士団を動員してもらう事にした。魔道騎士団は全員が聖属性魔法を操れるようになってて防御面ではほぼ万全。これに近衛騎士団の精鋭も加わるんだから申し分ないだろう。って言うかこれで陛下に何かあるとしたらこの国で防げる武力はないよ。
そんな陛下からは王太子殿下を連れてくることと、クララと三つ子もステアにいて欲しいとの要望を受けた。どうやら本気でウチの子を婚約者にするつもりになったらしい。
中村さんにも話を伝えると『案外、気が合うかもしれないし』と前向きに考えてるようだった。
そうして国王がやってきた夜。私は一人だけ呼び出されて陛下と謁見した。王妃陛下も席を外している。
「エリザベス嬢、今回の急な訪問には重大な理由があってなあ。王太子の結婚を早く行ないたいのだ。最低でも今日この場で婚約まではこぎ着けたいと願っている」
おいおいおい。ずいぶんと急な話だな。
「これはごく少数しか知らない話だが、余はもうさほど長くない」
「ご冗談ではなく?まだ気弱になられるご年齢ではないと存じますが?」
「エリザベス嬢にも迷惑をかけた愚息の呪印の事は知っておろう?」
あのモゲちゃったヤツかな?
「その呪印の中にトロイの木馬がおった。モゲる呪いの発動がトリガーとなって余の寿命を日々食らっておるらしい」
オオゴトじゃないかい、ソレ?
「エリザベス嬢が二度目の出産をした頃から目まいを起こす事があってな。医者でも皆目見当がつかなんだ。筆頭宮廷魔術師が必死に調べて、呪印の中に別の呪いを仕込むという回りくどい事をしおったヤツがおる事が分かった。獅子身中の虫が誰かはまだ突き止められておらぬがな」
そんな身体の状態で観光旅行なんてしてていいんかい?
「そこまで心配せんでもあと数年は持つであろう、というのが宮廷魔術師の見込みだ」
あと数年持つからって、それまでに手を打たないわけにはいかない、というワケか。
「そなたに任せた魔道騎士団は今や我が国最強と言ってよい。それに鮮魚物流をはじめとする経済。さらには国教の女神様ときておる。いまや、政治・経済・軍事・宗教の全てをエリザベス嬢が掌握していると言っても過言ではあるまい?」
こんな小娘にそこまで権力集中させちゃっていいんですかねえ?
「オーリスめが王都に鮮魚を持ってきた時からそなたの事は見続けてきた。これでも人を見る目には自信がある」
あー、やっぱり目を付けられてたかあ。暗部かな?
「ははは、許せ。国王としては必要な措置だったのだ」
それは分かりますけど。
「今のままでは王太子がまだ幼いうちに余は他界するであろう。であるならば、余がいなくなった時に民草が混乱しないように先んじて手を打っておくのも王たる者の務め。ゆえにエリザベス嬢には幼い次期国王の摂政として王国の行く末を守ってもらいたい」
いやいくら上級貴族ってもたかが伯爵の小娘が三公爵家を相手取って立ち回れるわけないと思わないの?
「摂政に相応しい地位は余が他界するまでに用意すると約束しよう。オーリスは話せば味方になろう。アヤツの娘に対する溺愛は筋金入りだからな」
あー、うん。それは知ってる。
「セルシオのところは弱体化が進むであろうし、問題があるとすればレクサスくらいだろうな。アクシオ侯爵家は我が妻の血縁ゆえ、敵には回るまいよ」
あ、王妃陛下ってアクシオ侯爵家の縁者だったんだ。
「その他の上級貴族は経済的もしくは宗教的にエリザベス嬢に逆らうヤカラはおるまいて。それで婚約の件はどうであろうか?」
「王太子殿下と同い年なのはクララです。今日も遊び相手を務めていた様子。ですが、マリアは自身が平民上がりの下級貴族である事を後ろめたく感じているところがあります。
私が昨年産んだアンであれば外見も金髪碧眼ですし、私のお腹で育てたことからも他家への正当性の証明は容易だとは思います。どちらが相応しいかはマリアと相談してから決めたいと思いますが、そのためのお時間はいただけますか?」
「うむ。そのくらいであれば待とう。良い返事を期待していても構わぬな?」
「御意にございます」
まあクララが案外王子の事を気に入る可能性を考えたら本人の意思を確認してからじゃないと返事できないよねえ。アンには決定権がまるでなくて悪いんだけどさ。
現代社会では権力を分散して相互抑止というのが大勢ですが、この世界(というか時代)は『権力は極力集中させたほうがいい』というのが権力者たちの常識、という事にしてます。
(実質、国王から後継者に選ばれたからエリザベスにどんどんと権力が集中していってる状況)
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