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転生ガチャ~悪役令嬢の後日譚  作者: 帆船
第二章:女神編
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【石像】

 年が明けて、子どもを産んでから三年目になった。昨年の挽夏、ステアとシフトの町にはそれぞれ小さなお堂が建てられた。中には全長八十センチほどの女神像が祀られてる。てか私なんだけどさあ、やれやれだよ。

 この女神像はマサラの作り上げた聖属性の刻印魔法をさらに発展させて聖結界の他に加護や回復(ヒール)治癒(キュア)の刻印魔法も組み込んである。もっとも刻印魔法っていうのは人間が魔法を行使する際のプロセスを古代神聖語で記述したプログラム言語みたいなものなんで、人間が魔法を使うように細かい条件設定なんかは難しい。


 ガラムが言うにはパラメータ(?)を増やせばそれなりに複雑な刻印も組めるらしいけどそれには刻印が大規模になるし意図しない挙動をすることもあるんでお薦めしないと言われてる。

 そんなワケで単純な結界と加護、それに回復(ヒール)治癒(キュア)に絞って刻印を刻んでもらった。


 この女神像の刻印は、最初にマサラが考案したものをガラムとカルダも混ざって徹底的に改良がされてる。祈った人の信仰心を刻印魔法を通じて女神()に届ける部分、女神()から聖魔力を引き出す部分のロスを徹底的になくしてるそうだ。さらに信仰心とは別に祈ったひとの保有魔力の五パーセントほどを使って引き出した聖魔力をブーストしてて、聖結界を張るとともにごく簡単な加護を与えているという。

 その日一日くらい盗賊に襲われにくくなったりするそうで、信仰心の篤い人ほど加護が大きいらしい。


 それから年末にかけて街道上の『サービスエリア』にはやはりお堂を建てて一回り小さい全長六十センチの女神像が祀られた。こっちは回復(ヒール)治癒(キュア)はなくて、結界と加護だけ。『パーキングエリア』には約四十センチの女神像が祀られる祠が作られた。

 この結果、王都からステアへの街道はもっとも安全な交通路として広く知られていくことになる。


 さらにステアからシフトまでの街道にも同じように『サービスエリア』『パーキングエリア』を作ってお堂や祠を作った。この結果を受けた魔道騎士団がランクス領の瘴気浄化と街道整備を、年末から本格的に取り組み始めた。



 ここまで順風満帆に進んだわけじゃあない。難関はナツヒ先輩だった。試作品の石像を見せた途端、聖都にある巨大女神像に同じ刻印を組み込むことを熱望された。あんなデカいのにこんな仕組みを組み込んだら私が干からびてしまう。そう言ってなんとか説き伏せた。

 この件に関しては、ガラムとハニャス先輩が中心になって対応を考えてくれた。結界も回復(ヒール)治癒(キュア)もなくして、強めの加護を与える代わりに、祈りを捧げた信者から信仰心と魔力を多めにもらうようにした。これなら私の聖魔力も収支はプラスになるんで、女神の威光を強くしたいナツヒ先輩も納得してくれた。


 ただ信仰に対しては妥協しないのがナツヒ先輩。加護を付与する対象を本人ではなく教会で売り出す女神木像にできないか、と言い出した。木像の大きさは全高二十センチほど。鈴木さんいわくガンプラみたい、だそうだ

 聖都クランクまで訪れる人たちは熱心な信者が多く、王都やもっと遠くからわざわざ足を運ぶ人も多いらしい。訪れた信者が木像を買って巨大女神像を拝む。一年くらいの間、家内安全や商売繁盛のお守りみたいになる。ただのお守りじゃなくて実際に女神の加護がある。となると多くの人が持ち帰って家に祀るだろう。そうして毎日祈ってくれればさらに信仰が大きくなる。


 さらに一年たった木像はクランクに奉納するようにすれば翌年も木像が売れる。あれだね、破魔矢とか達磨の商売と一緒だわコレ。


 これの問題点は木像にも刻印魔法が必要でガラムたちの手じゃあ量産が効かない点だった。ところがこれもマサラが解決してしまう。なんと刻印を焼き印にする新しい刻印魔法を考案してしまった。これならシフトにいる人間の職人でも対応できる。


 ナツヒ先輩がクランクで信者たちに作らせた木像をシフトに運び込んで職人たちが焼き印を押していく。一体あたり小銀貨二枚。日本円にしたら二千円だね。これを聖都では小銀貨五枚で売り出すそうだ。あくまでも商売じゃなくてお布施扱いで。トーケ先輩とも相談して割と軽い気持ちで引き受けた。


 そうしたら……どうもナツヒ先輩の試算では年間参拝者が五十万人くらいになりそうで、せっかく遠くから来たんだからと八割の人がこの木像を買っていくそうだ。という事は……五十万の八割で四十万体の木像が売れて一体あたり小銀貨二枚。金貨にして八千枚の収入がシフトの町に入ってくる。それも毎年。木像に焼き印を押すだけの簡単なお仕事で?


「毎年金貨八千枚。年間八億円相当だよ?さすがにボッタクリって言われないかなあコレ?」

「何言ってんのよ。小銀貨五枚は木像のお金じゃなくて女神様の加護の代金って考えたら破格じゃないの。家内安全や無病息災、安産祈願から商売繁盛、旅行の安全なんかも加護のうちでしょう?」

「まあそうだけどさあ。黒猫馬車の年間利益が金貨一千枚いかないんだよ?」

「そんだけ宗教ってのは儲かるんだろうねえ。まあナツヒなら怪しい壺売ったりはしないだろうから大丈夫じゃない」

「教会側の取り分は木像一体につき小銀貨三枚だから年間金貨一万二千枚の収入なんだよねえ」

「まあこの世界には宗教法人の免税なんてないから、そんだけの高額だと八割以上は税金で王家に持っていかれるんじゃない?」

「その割には黒猫馬車の利益にはほとんど税金がかかってないんだよねえ」

「それは前例がないから税率を決めかねてるんじゃない?そんで決める前に王都で鮮魚を食べられる利点のほうが大きい事に気づいて高額の税率をかけられなくなった、とかじゃないかな。『そんなに税金持ってかれるならヤメる』って言われたら王家の支持も揺らぐレベルだし」


 まあそれは確かに。


「あと田中さん、黒猫事業始める前に王家にネゴったんでしょ?オーリス公爵まで使って。それってかなり効いてると思うよ」


 なるほど。あの根回しは無駄じゃなかった、ってことか。



 夏になるとシフトからレバーを通って王都までの『国道』が完成した。合わせてレバーからシフトへ向かう途中で分岐してクランクまでの直通路も作られた。これらの『国道』には『サービスエリア』や『パーキングエリア』も作られて、そこにも女神像がそれぞれ設置されてる。

 これによりランクス領内の瘴気問題もあらかた片付いた。


 ただ『国道』が完成した事でセレス領内の街道利用がまた減ってしまった。王都からクランクまで聖都巡礼に行くなら、ランクス領を通ったほうが近いからね。ボヤいてたのを聞きつけたトーケ先輩がナツヒ先輩に話をしたらしい。


 『クランク巡礼の際は往路と復路は別の経路を通る事が望ましい。これは教義ではなくより多くの地を見て信仰を広げて欲しいからだ』


 という声明が出された。この結果、王都の信者たちはレバー周りでクランクを巡礼した後、ステアに立ち寄ってちょっとした観光気分を味わうスタイルが確立していった。鮮魚を食べたり、豪商などは貴賓客用宿泊施設【梅】を利用する人たちが増えている。


 そんなある日、ステアに立ち寄った時にカルダが私の執務室にやってきた。


「なあ姫さん、思いついたんだがよ。マサラの兄貴が作った女神像の刻印魔法をアレンジしたら、あの飼葉づくりにも使えると思うんだがどう思う?」


 天才あらわる!


「すごいアイディアじゃない。でも……うーん。『サービスエリア』には置けないわねえ。騎士団以外の馬が高機動力持っちゃうと王国にとっての脅威になりかねないし、黒猫馬車のライバルをわざわざ作る事にもなりかねないし。

 ただ、私が使う分と魔道騎士団で使う分なら問題なし……って言うより大歓迎よ」

「あー、そうか。そういう問題もあるんだなあ。俺たちドワーフは物づくりっきゃ考えないからなあ。んじゃあステアの町で作ってる分をまずはやってみるかい?」


 それでお願いする、と言うとカルダは満足した顔で帰っていった。



反応があると励みになります。よろしければリアクションや感想等いただけると嬉しいです。

これからもお付き合いいただければ幸いです。

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