【女神降臨】
トーケ先輩の結婚式は盛大に行われた。のはいいんだけど私は大変だったよ。
当然スピーチもしなきゃいけないんで、式の前にトーケ先輩と花嫁を呼んで私とマリアでお食事会。場所はドーバのお店で、なぜか費用は私もちだ。コラそこの熟女、高い酒をガブガブ呑むんじゃない。ところがまあ、ピラー子爵令嬢の惚気がものすごい。『惚気っつうより学生時代のアタックと爆死の独白じゃん』てのはマリアの言葉だけどね。トーケ先輩も苦笑してる。
なんとかスピーチのネタになりそうな話を聞きだして、サムシングボローとして私のハンカチを渡した。ヴィクトリアのお産の時に使ったやつだってことは黙っておこう。
シフトの町には教会がまだないので、式場はシフト男爵屋敷のホールで行なわれた。当然のように呼ばれたナツヒ先輩がなにやら大きな荷物を運びこんでたので嫌な予感がしてたら案の定、女神像だった。それを見たシフトの住民たちが大興奮。まあこの町の住人ってステアから移住してきた人たちばかりだからね。以前のように身体が破裂するんじゃないか、ってなことにはならなかったけどまた一層信仰心が集まってきてる。そろそろマリアのヒロインの力を追い抜きそうだ。
それはともかく今日の主役は花嫁さんなんだからみんなちょっとは自粛して欲しい。スピーチではあえて新郎新婦を持ち上げるような物言いに終始してなんとか乗り切る。その後のパーティは……うん、ステア流?エリザベス流??とにかく貴族も平民も関係なしに、海鮮鍋をつつきながら祝福する。
宰相なんかは白目剥いてたよね。トーケ先輩やナツヒ先輩は慣れたモンで笑ってたけど。花嫁さんは学園での先輩たちの同級生なんで、私の奇行……いやいや、破天荒さって言おうよ……を知ってたからか、あまり驚いた様子はない。
シフトの住民たちはトーケ先輩の人柄が気に入ってステアから移住してきた人たちが多数派だ。だから新しい町の領主が結婚するって言うのは町の発展のためにもなる。
お幸せにね、先輩たち。
◇
クランクの街に新しい神殿が完成した。王都の神殿よりも立派で、ここがカスミ教にとっては聖都となる。その神殿の完成式典に私も呼ばれていた。で、オカン属性を発揮した鈴木さんも同行してる。まあたぶん大丈夫とは言え、聖都での式典だから相当熱心な信者が多数集まることが予想される。また体調異状が起こる事を心配して頑としてついてくるって聞かなかった。
ハニャス先輩は魔道騎士団としてではなく学生時代の友人として参加してる。トーケ先輩夫妻もプライベートでの参加なんだけど、なぜかシフトの町に行ってくれてるマサラが同行してきた。後で私に話があるそうだ。
ナツヒ最高司祭によるありがたい言葉が続く。信者たちもだいぶテンションが上がってきた。
「信仰を忘れ権力におぼれ私利私欲に走って自滅したのが旧教会だ。我々はその事実を忘れずに日々の生活に根差した信仰を心がけなければならない。
このクランクを今日を持ってカスミ教の聖都とする。この町では剣と魔法による秩序ではなく信仰により秩序が保たれる。この街を中心にみなでカスミ教を盛り上げていこうではないか」
信者たちのボルテージは最高潮。ここで除幕式が行われる。ちょっと憂鬱だ。そして幕が取り払われ……
「「「神降臨!!キタ━━━(゜∀゜)━━━!!!」」」
あー、もう滅茶苦茶だよっ!かつてないほどの信仰心が流れ込んでくるのを感じる。幸いな事に今まで徐々に身体を慣らしてきたからか、体調異状には陥らなかった。マサラはその様子をじっと見つめてる。まるで何かを観察してるようでもあり、何かを確信したようでもあった。
◇
その夜は神殿のゲストルームに泊めてもらった。私とマリア、続きの間にマサラだ。別の部屋にはトーケ夫妻とハニャス先輩もそれぞれ部屋を用意してもらってるそうだ。旧パッソ侯爵城はあんな事件があった後なんで一度更地にしてからクランク男爵の屋敷を建て直す予定らしい。
そして部屋にはマサラの要望でハニャス先輩とトーケ先輩が来ていた。
「エリザベス様、まずはこれを見てくれ」
そう言ってマサラがとりだしたのはペットボトルサイズの木像。ってか、例の女神像じゃないかよコレ。
「で、ハニャス様は魔力の流れをよく見ていて欲しい。アンタなら何が起こってるのか目で追えると思う」
「あ?ああ、分かった」
「じゃあトーケ様、頼む」
マサラの言葉をきっかけにしてトーケ先輩が女神像に祈りを捧げる。
「あっ!!」
と驚愕の声を上げたのはハニャス先輩。女神像を中心として半径三メートルくらいの範囲に聖属性結界が張られていた。どういう事だ?これ?
「刻印魔法は俺たちドワーフの独自技術だが、今までは六元素魔法は扱えても聖属性魔法は使えないってのが常識だった。なんでかってぇと、元素魔法なら具体的なイメージが湧くが聖魔法はイメージが抽象的過ぎるのが原因だったんだ」
「なるほど。力を借りる神様の事を具体的によく知ってるなら聖属性の刻印魔法も不可能じゃない、って事かな。この女神像には刻印魔法が刻んであるけどおそらく魔石は使ってないね?祈りを捧げた人間の魔力を使って刻印を起動。起動した刻印が女神様から力を借りて聖結界を発動、って仕組みで合ってるかな?」
「さすがは宮廷魔術師様だな。正解だよ。兄貴からエリザベス様の事を聞いた時から考えてたんだ。そんでトーケ様の結婚式の時に確信して作ってみたんだよ。今は試作で手のひらサイズの木像だが、これを高さ五十センチくらいの石像にしてアチコチに置いたらここいらの瘴気問題解決しないかい?」
ナニソレ、お地蔵様かな?それとも道祖神的ななにかなの?いずれにしても私の石像があっちこっちに置かれるって事??
「たしかに瘴気問題の解決にはなりそうだけれど。この刻印魔法ってエリザベス様と縁の深いマサラたちだからこそできるのよね?そこら中に置くこと考えたら大変じゃない?作るのにも時間かかりそうだし?」
「マリアの嬢ちゃんの言う通り、一から全部俺らで作るとなると大仕事だな。けどよ、石像づくりはあらかたステアとシフトの職人に任せられる。仕上げと刻印魔法だけを兄貴とカルダの三人でやりゃあ、けっこうな量を作れると思うぜ」
なんかみんなして『名案だ』って顔してるけど、それ私の羞恥心が代償だからね?
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