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永久脱剣したら魔王軍にスカウトされた件

激戦跡地「黒剣の丘」で剣を抜く湊たち。

今回は、思わぬ相手との遭遇と、予想外のスカウト(!?)が湊たちを巻き込んでいきます。

ちょっとドタバタ、でも確実に世界の影が動き始める一幕です!

◆ 黒剣の丘


目的地への道中、湊たちは「黒剣の丘」と呼ばれる荒地に立ち寄った。ここはかつて魔王軍と王国軍が激突した地であり、今も数多の剣が地面から突き出し、まるで亡霊のように風に揺れていた。


「……魔素が濃い。ここに放置されてる剣は、放っておけば土地に悪影響を及ぼす」


湊は一本の剣に手を当て、魔素の流れを確認しながら脱剣の作業を始める。剣の根を断ち、封じ、静かに地面から引き抜く。


「ようやく一本目……」


その作業を二十本以上繰り返す中、湊は違和感を覚えた。剣のひとつひとつが異様に“重い”。想いの濃度、魔素の密度が段違いだった。


「この場所、ただの戦場跡じゃない……」


「湊、それってつまり何かの“中心”ってことか?」ガルツが剣の鍔に指をかけながら周囲を警戒する。


「可能性はあるね。剣から伝わってくる“記憶”がやたら強い。まるで誰かが意図的に集めたみたいだ」


リュミアは一本の剣に目を細める。「この丘……戦場の跡というより、“墓地”に近いかもしれない。」


「魔素の墓地……か。だから一本一本がやたら重たいわけだ」


湊は剣を引き抜きながら汗を拭った。


「……とはいえ、一本抜くのにこれだけ消耗するってのも珍しいな」


「ねぇ湊さん、それって身体に何か影響ないのですか? 魔素の共鳴とか……」


「多少はあるけど、慣れてる。大丈夫、まだ全然動ける」


「ほんとに“元・美容外科医”なのか、あんた……」とガルツが半ば呆れたように言った。


「まあ、異世界転生ってやつの恩恵ってことで」湊が苦笑する。


「それにしても、ここに生えてる剣……形も様式も時代もバラバラですね。まるで“全軍の墓標”って感じです....」リュミアが静かに言った。


「……だからこそ、抜いて封じてやらなきゃ。剣に宿った怒りごと、土地から解放するんだ」


湊の声は静かだったが、その奥にある覚悟が二人に伝わった。


ガルツが周囲に目を向け、空気のわずかな変化に目を細めた。

「……湊、気配がする。こっちに向かってくる何かがいる」


彼の手は自然と剣の柄に添えられ、すぐに抜ける体勢に入る。

「リュミア、準備しとけ。何か来る。たぶん、ただの通りすがりじゃない」


リュミアは頷き、腰の魔導石に触れて魔素の流れを整える。

「了解です。戦闘になるかもしれませんね」


◆ ザルグ登場


霧が渦を巻き、突如として黒マントの男が姿を現した。肩には黒い小型ドラゴン、顔には左右非対称の仮面。


「はっはっはっ! やっぱりいたな、我が同志よ!」


「……誰だよ、あんた」


「名乗ろう! わが名はザルグ・デュナイン! 元・魔王軍第五軍団副団長! 現在は“魔王復活推進委員会”の会長を務めている!」


「どんな委員会だ……」


ザルグは湊に歩み寄り、手を握ろうとする。


「根から剣を抜く者よ! 君こそ魔王様の後継者にふさわしい! 同志よ! 我らの希望だ!」


湊は手を避けて即答した。「違う。俺はそんなのじゃない」


「なにぃ!? 冗談だろ!? 六十本以上の剣を抜き、数々の高魔素地帯を浄化してる君が!?」


「それは剣が危ないから抜いてるだけで、魔王のためじゃない」


リュミアが一歩前に出た。「湊さんは、土地の安定のために動いているだけです。魔王の復活など考えていません」


ザルグは唇をとがらせ、名簿らしき紙を取り出そうとする。「ちっ、じゃあ“予備軍”ということで名簿に……」


「名簿にも載せるな!!」


◆ 閃光と剣圧


「ふむ、なら実力を見せてもらおうか」


ザルグが手を掲げると、空に雷雲が集まり始めた。その中心から稲妻が走り、大地に轟音が響く。


「“雷刃招来ライギン・ゲヘナ”!」


瞬間、一本の雷が湊たちの足元を貫いた。


「おいおい、マジかよ!」


ガルツが即座に剣を構え、ザルグに突撃。湊も地面に手をついて育剣を開始。剣根から育てた光剣を抜き放ち、二人が連携して突撃した。


「喰らえっ!」


だが——


「“雷鎖反応サンダーネット”」


ザルグの身体を中心に電撃の檻が展開。触れた瞬間、光剣に逆流する電流が走り、湊の身体を襲った。


「ぐっ……!」


痺れる腕を抑えながら後退する湊。ガルツが斬撃を重ねるも、ザルグは軽やかにかわし、逆に拳に雷をまとわせて反撃。


「“雷崩撃らいほうげき”!」


衝撃が地を割り、ガルツは吹き飛ばされた。地面を転がりながらも立ち上がる彼の顔には、苦笑が浮かんでいた。


「くっそ……強ぇな、あいつ……」


ザルグは満足げに笑い、手の中で雷を弄びながら言った。「よし、確認終了。今のところ、敵ではないな!」


「だったら最初からやるなよ!」


「いやぁ、手が滑ってな! 君たちが思ったより強くてさ、ついね!」


湊は剣を杖代わりに立ち上がりながら、疲れたように言った。「……なれなれしくて、強すぎて、ついていけないわ」


◆ 終焉の霧


ザルグは懐から黒い封筒を取り出し、湊の服の中に無理やり突っ込んだ。


「これ、『闇の郵便箱』の座標。何かあったら連絡くれ!」


「誰が連絡するか!」


「また“選択の時”に会おう! 期待してるぞ、同志たち!」


霧が再び渦を巻き、ザルグと小ドラゴンの姿はその中へと消えていった。


雷の余韻が残る丘で、しばらく誰も動かなかった。


「完全に厄介なやつだな……」とガルツがつぶやく。


「もう……できれば会いたくないですね……」とリュミアが同意する。


湊は肩を落としながら黒い封筒を見つめ、苦笑した。


「変なのに好かれるのも、職業病かね……」


黒剣の丘の風は、どこか混沌の香りを含んでいた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

ザルグという"強くて妙にフレンドリーな元魔王軍幹部"との遭遇は、湊たちの旅に新たな不穏な伏線を残しました。

湊にかかる期待(?)と誤解が、これからの冒険にどう影響していくのか――ぜひ見守っていただけたらうれしいです!

次回もよろしくお願いします!

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