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異世界でも毛根の処理はお任せを。今度は剣を育ててみました

王都を脱出した湊たちは、静かな森で小休止。

今回は「剣の生まれ方」と、「剣を育てる」という新しい試みに挑戦します!

少し不思議で、そして未来につながる一歩のお話です。

◆ 剣の発生と育剣の試み


王都からの逃走後、湊たちは森の中に簡易の拠点を構え、静かな数日を過ごしていた。森には魔素の濃度が安定しており、剣の発芽も観測できる。リュミアにとっては、これ以上ない研究の機会だった。


ある朝、焚き火のそばでリュミアがノートと筆記具を手に湊へと声をかけた。


「そろそろ、湊さんの“永久脱剣”の力を詳しく見せてもらえませんか? 剣がどう生えるかの説明も兼ねて」


「いいよ。俺も自分の力を把握しておきたいしな」


その様子を横目に、ガルツが剣の手入れをやめて顔を上げる。


「俺も興味あるな。正直、剣が“生える”って感覚、未だによく分からねぇ」


リュミアは近くの地面に簡単な図を描き始めた。


「剣の発生には大きく分けてふたつのパターンがあります。一つは、人や魔物の強い想いや未練、祈りといった“心の魔素”が地脈と反応して剣になるもの。これが感情を宿した剣、パターン1です」


「もう一つは、魔素が自然に溜まった土地で発芽する“無感情”の剣。これがパターン2。雑草のように、ただ生えるだけ。たまに地形や建物を壊す厄介なやつだね」


湊はうなずき、地面に生えかけた剣に手を伸ばした。魔素の流れを感じ取りながら、感情反応の有無を確認する。


「これはパターン2だな。感情の揺れがない」


湊は、ゆっくりと手を剣の根に沿わせた。地中に広がる根の魔素を“視る”感覚で捉え、その方向と強さを確認する。


「……よし。これなら、真っすぐ抜ける」


剣をつまむように持ち上げると、ズルリと根ごと剥がれ落ちるように抜けた。地面には穴ひとつ残らず、剣の周囲には魔素の痕跡すらなかった。


「見事だ……」


ガルツがうなるように声を漏らす。


リュミアは手帳に急いで書き留めながら、顔を上げた。


「これが“永久脱剣”。地中に残った魔素の“根”まで完全に除去する技術……まさに、医療処置のような正確さです」


湊は笑いながら剣を手から離す。


「俺の世界ではな、こういうのを“永久脱毛”って言ったんだ」


「……剣と毛を一緒にしないでください」


「でも似てるんだよ。皮膚の下の毛根を熱で破壊して、再発を防ぐ。その根に残った感覚まで察知して、処理する。剣の魔素も似たような構造してる。細くて、繊細で、でもしぶとい」


ガルツはあきれ顔で頷いた。


「妙に説得力があるのが腹立つな」


◆ 育剣の試み


観察と記録を続けていた最中、リュミアがふと思いついたように湊へ向き直った。


「ねえ、湊さん。逆に“剣を生やす”ことって、できたりしませんか?」


「生やす……?」


リュミアは地面を指差しながら、興奮したように続けた。


「剣根は地中に残ってる場合もありますし、魔素が周囲に十分にあるなら、刺激して再発芽させることも可能かもしれません。まるで種を育てるように」


「……なるほど。それ、面白い発想だな。やってみる価値はありそうだ」


(発毛と同じ仕組みかもしれないな。毛根を刺激して、血行を促して、成長因子を……いや、ここは魔素か)


湊は地面に手を置いた。ひんやりとした土の感触の奥に、かすかに脈打つような魔素の“気配”がある。


「……このあたりか。まだ眠ってる……でも、反応はある」


彼は集中し、微細な魔素を一点に集めるよう意識を向けた。医療現場で毛根へレーザーを照射するような感覚。ピンポイントで、過不足なく、静かに“刺激”する。


(こいつはただ抜くより難しいな。魔素を壊さず、でも目を覚まさせる。これ、ほんとに毛根いじってる気分だ)


リュミアが息を潜めて見守る中、土がわずかに揺れた。やがて、湿った土を割って、銀色の細い刃が地表を突き破った。


「……出たな」「……出た」


「生やしたのか……周囲の魔素で」ガルツが息を呑んだ。


「まだ不安定だけど……感覚は掴めてきた。これは“脱毛”というより、"育毛"の感覚だな」


リュミアは感嘆の声を漏らす。


「異世界的発想だけど、ものすごく応用の可能性がある……!」


◆ 焚き火を囲んで


その夜、三人は焚き火の前で静かに話し合っていた。火の揺らめきが木の影を揺らし、遠くでは虫の音が聞こえる。


「剣ってのは、ただの道具じゃないんだな」


ガルツがぽつりと呟いた。


「想いや感情が形になるってのは……正直、まだ信じきれねぇけど。湊の手つきを見てると、本当に“生き物”みたいだ」


湊は小さく笑い、空を見上げた。


「医者ってのは、相手の中に何があるかを感じて、それに向き合うのが仕事だからな。剣にも、そういうものがある気がするよ」


リュミアは微笑みながら、そっと手帳を閉じた。


「この旅が終わる頃には、“剣とは何か”を、もっと深く知れる気がします」


湊は頷き、最後に残った薪をくべた。


「抜くか、育てるか――俺たちの判断が、誰かの人生を変えるかもしれない」


火が静かに揺れ、夜は更けていった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

"永久脱剣"だけでなく、"育剣"にも挑戦した湊たち。

剣がただの道具ではなく、「生きた存在」であることを少しずつ実感していく過程を、丁寧に描きたくて書きました。

次回は、さらに剣と人との関係性を掘り下げる展開を予定しています。引き続き、よろしくお願いします!

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