マナスキャンの精度が異常って言われるけど、元は脱毛で鍛えました(ガチ)
こんにちは。今回もお読みいただきありがとうございます。
新たに鍛えた《マナスキャン》の力が、活躍することになります。
ちょっぴり成長した湊たちのやりとりと、小さな戦いの一幕を、どうぞお楽しみください。
◆真・マナスキャン
穏やかな朝だった。
昨日の宴の余韻がまだ体に残っている。肩にかけた《マント》は肌に優しく馴染み、フィロヴェルの人々の手の温もりが、今もほのかに伝わってくるようだった。
「ふぁ〜……風、気持ちいいですね」
リュミアが欠伸まじりにそう言い、髪を指で梳いた。昨夜の“暴走”を覚えていないらしく、ツルツル三兄弟の警戒の視線にもまったく気づいていない。
「お前な……昨日、あんだけ花火ぶっ放しといてよく眠れるな」
ガルツが呆れ顔で隣を歩く。
「え? 花火……? ええっと、そういえばちょっと打ち上げたような……?」
「“ちょっと”じゃねぇ。“爆撃”だっただろ。俺の眉毛まだチリチリなんだぞ」
「ふふっ」
俺は苦笑を浮かべながら、前を見据える。
広がるのは、ゆるやかな丘陵地帯。 緑と風が、疲れを優しく洗い流してくれるようだった。
……だが、平和な時間ほど、ふとした影に気を配るべきだ。
俺は意識を切り替え、【マナ・スキャン】を展開する。
暴れ毛処理を通じて鍛えた感覚が、微細な魔素の“ざらつき”を鋭敏に拾い上げる。
(……あれは)
「湊さん……?」
リュミアが不意に立ち止まった俺を見て、声をかける。
「……ガルツ、前方二十メートル。木陰に三体。魔素の渦が妙に濁ってる」
「ッ、了解。先に仕掛ける!」
ガルツが剣を抜き、音もなく前方へ跳び出す。
バサッ、と茂みが揺れ、数人の影が姿を現した。
――黒衣の軽装。胸元には剣の紋章。
「……剣聖教の下っ端か」
その数は三。 いずれも実力はそこそこだが、組織の命を受けて動いているのは確かだった。
「加護なき異端者・永久脱剣の使い手! ここで討伐させていただく!」
「やれやれ……話し合いって選択肢はないのか?」
口上もそこそこに、敵の一人が魔導短剣を抜いて突っ込んでくる。
(正面、早い――でも、魔素の流れが甘い!)
【マナ・スキャン】の視界で、敵の動きが手に取るように見えた。 地面に残る魔素の軌道、呼吸に合わせた脚の重心――
(右へ跳ぶ!)
読み切ったタイミングで体を傾け、敵の斬撃を紙一重で回避。 すれ違いざまに肩を掴み、地面へ叩きつけた。
「がっ……!」
「一人目、抑えた!」
「二人目、俺がやる!」
ガルツが真正面から剣をぶつけ合う。火花が散り、土煙が舞い上がる。
「ぐっ、くそ、こいつ……!」
「なめんなよ、小物が……!」
ガルツが踏み込み、力任せの一撃で相手の剣を弾き飛ばす。 それでも相手は後方に跳んで距離を取る。
「三人目が回ってきます!」
リュミアが叫んだ。
「任せろ!」
俺が視線を向けるより早く、リュミアは指先から【拘束の魔光】を放つ。 地面に張られた小魔法陣から細い光の鎖が伸び、敵の足を絡め取る。
「な……っ!? しまっ――」
そのまま、ガルツが斬撃を送り、相手の武器を弾き落とす。
あっという間に、三人全員を押さえ込んだ。
「くっ……!」
倒れたままの一人が、奥歯を噛み締めて唸る。
「異端者が……貴様らがこのままのうのうと旅を続けられると思うなよ……!」
「……何が言いたい」
俺が一歩近づくと、男は苦笑しながら口を開いた。
「お前たちは知らないのだな。……王都と剣聖教が、どれほど深く繋がっているかを……」
リュミアとガルツが顔を見合わせる。
「……どういう意味だ」
「もう遅い……真実に近づいた者は、必ず“神罰”を受ける……!」
男はそう吐き捨て、懐から魔導煙玉を取り出し、地面に叩きつけた。
「逃げた!」
俺はスキャンを最大限に展開しようとしたが、煙の中に特殊な妨害魔素が含まれていた。 探知できるのは、残留の足跡だけ。
「……逃がしたか」
ガルツが唸り、リュミアが魔導石を収める。
風が再び吹く。
敵の姿は消えたが、言葉の残響は耳に焼き付いていた。
◆揺れる確信と選択
「……あの男の言葉、気になりますね」
リュミアがぽつりとつぶやいた。
三人の襲撃者を退けたあと、俺たちは安全な林間の休憩所に身を寄せていた。簡易の魔除け結界を張り、水筒の水を回しながら、小さな焚き火を囲む。
「王都と剣聖教が繋がってるって話か?」
ガルツが薪をくべながら眉をひそめる。
「ありえなくはない。……剣聖教は、もともと王国の“守護宗”って位置づけだったはずだしな」
「我が家の食卓にも“聖剣像”が飾られてました。封印や祝福の象徴として、子どものころから自然に受け入れていたんです」
リュミアの言葉には、信仰と現実のはざまで揺れる複雑な想いが滲んでいた。
俺は焚き火の火を見つめながら、静かに言った。
「でも、その“守護”のはずの剣聖教が、異端審問官を出して俺たちを狙っている」
襲撃者の捨て台詞が本当なら、王都はもはや中立ではない。
“永久脱剣師”である俺を、「加護なき異端者」と認識する剣聖教。
その教団と、王都が癒着している可能性。
「……つまり、俺たちは歓迎されない客ってわけだ」
ガルツが口を引き結ぶ。
「でも、王都にしかない情報もあります。勇者の記録、魔素の起源……すべてが、王立魔術図書館に眠っているかもしれませんし、いずれは王都に行く必要があります」
リュミアが真剣な眼差しで言った。
「たとえ危険でも、行かなきゃならない。――でも、どうするかは、湊さんが決めてください」
仲間たちの視線が、自然と俺に集まる。
(選ぶのは……俺だ)
迷いがないとは言えない。だが、進まなければ何も始まらない。
「……行こう。王都には行く。その代わり、行動は慎重に。“誰が敵で、誰が味方か”を見極めるところから始めよう」
「よっしゃ! だったらまずは身元偽装と変装の準備からだな!」
ガルツが張り切った様子で笑う。
苦笑いがこぼれ、静かな空気にわずかな笑いが戻る。
だがその裏には、確実に変わりゆく気配があった。
「剣に傷つく人がいるなら、それを根から取り除くために、俺は進むだけだ」
リュミアとガルツが、真剣な顔で頷いた。
焚き火の炎が、星空の下で静かに揺れていた。
今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
物語は次の段階へと静かに進み始めています。剣聖教、王都、そして“真実”。
この先の展開も、ぜひ見守っていただけると嬉しいです。
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それでは、また次回でお会いしましょう!




