暴走メーモフ鎮圧作戦
こんにちは!読んでくださってありがとうございます!
前回に引き続き、フィロヴェル牧場での【暴れ毛メーモフ】退治編です!
それでは本編、どうぞお楽しみください!
◆迫る戦いの気配
「……天気、悪くなってきたな」
ガルツがぼそりとつぶやく。
空を見上げれば、どす黒い雲が空を覆い、湿った風が草原を揺らしていた。
俺たちは、フィロヴェル郊外の牧場地帯を抜け、目指す丘へ向かっている。
(……あの丘の上か)
空気は湿り気を帯び、空には遠雷がかすかに響く。
その先頭では、ティラ=ノイが妙にテンション高く飛び跳ねながら歩いていた。
(……そろそろ始まるな)
「はいはいっ! 湊くん、ガルツくん、リュミアちゃん! 暴れ毛メーモフの超重要情報をレクチャーしまーす!」
ぴたっと足を止めたティラは、懐から分厚いノートを取り出すと、嬉々としてめくり始めた。
「まずね! 普通のメーモフは真っ白でもふもふで超かわいいんだけど!」
「暴れ毛化すると、【全身が黒ずんで】【毛が針みたいに硬くなる】の!」
俺たちは無言で頷き、次の説明を待った。
「攻撃方法その①!」
ティラが指を一本立てる。
「【硬質化した毛を超高速で飛ばしてくる】! まるで毛のミサイル! しかも痛い!!」
リュミアが顔を強張らせる。
ティラは指を二本目に増やす。
「攻撃方法その②!」
「【とげとげ体当たり】!! 全身トゲだらけになってるから、ぶつかったらマジで痛い!!」
ガルツが腕を組みながら唸った。
「……硬質化する毛、ということは物理攻撃は簡単には通じねぇってことだな」
ティラは満面の笑みで親指を立てる。
「その通りっ!それに毛には魔素がぎっしり詰まってるから魔法も効きづらいよ!」
(……明るく言ってるけど、それ結構マズくね?)
胸の奥に引っかかるものを覚えながら、俺は曇天に目を移した。
◆作戦の確認
「じゃあ……作戦の確認だ」
俺は言いながら、仲間たちに視線を向けた。
「まずガルツが正面から動きを止める。俺は【マナ・スキャン】で、暴れ毛の隙間にある普通の毛の場所を探し出す」
「リュミアは、そこを狙って睡眠魔法を叩き込む」
リュミアが小さく頷き、ガルツも拳を握る。
ティラはぴょんぴょん飛び跳ねながら、
「完璧ーっ! あとは実践あるのみだよっ!」
俺たちは各自の装備を確認し、武器を手に取った。
そして、重い雲の下、丘へと向かって踏み出した。
風が唸り、遠くで雷鳴が低く鳴った。
◆ 黒い影
「……あれか。」
丘の中腹、風になびく草原の先――
そこに、一際異様な存在があった。
通常のメーモフはふわふわとした白銀の毛並みを持ち、どこか神聖な空気すら纏っている。
だが、あれは違った。
黒い。
毛並みが、墨をこぼしたように黒ずみ、ぼそぼそと逆立っている。
本来、丸く可愛らしいはずの輪郭も、針山のようにとげとげしく歪んでいた。
リュミアが小さく息を呑む。
「……黒くなってる……」
ガルツが低く唸った。
「しかも、全身が……毛、っていうより、棘みてぇだな」
俺は【マナ・スキャン】を起動し、慎重に暴れ毛メーモフの魔素の流れを読む。
(……やっぱりだ)
通常のメーモフとは比べ物にならないほどの魔素を帯びており、さらに暴走しかけている。
しかも、ただ溜まっているだけじゃない。
毛そのものが、まるで意志を持ったように、ピリピリと周囲に向かって波動を放っていた。
「危ないな、あれは」
ティラが隣でメモ帳を取り出し、ぶつぶつ呟きながら記録している。
「うん、やっぱり魔素飽和による硬質化が進んでる……! 毛の硬度は通常比で三倍超え……! そしてあの黒ずみは、魔素の性質変化の兆候……!」
「もっふもふの天使が……うぅ、魔素汚染なんかに……!」
最後にはほぼ泣きそうになりながら、拳を握りしめた。
俺たちはそろって、目の前の現実を見つめた。
(ただの家畜じゃない。……こいつは、武器だ)
遠目からでもわかる。
飛び交う魔素。
地を抉るような空気の乱れ。
次の瞬間、黒いメーモフがピクリとこちらを向いた。
(……気づかれた!)
瞬間、俺たちは無言で頷き合った。
剣を、想いを、そして未来を護るために。
今、この暴走を――止めなければならない。
◆ 戦闘開始
「来るぞ!」
ガルツが叫んだ。 丘の上――黒ずんだ異形のメーモフが、怒り狂ったようにこちらへ突進してきた。
全身に逆立つ針状の毛が、まるで怒涛の嵐のように波打っている。
「避けろ、左だ!」
俺は【マナ・スキャン】を展開。
暴れ毛の間を流れる魔素の動きを凝視する。
毛が飛ぶ直前、魔素の密度が偏る――
その「予兆」を捉え、すかさず仲間たちに叫んだ。
ガルツとリュミアが素早く身を翻し、鋭い毛の束が彼らを掠めて地面に突き刺さる。
乾いた音とともに、地面がバラバラと砕けた。
(……動きが読める。でも……!)
スキャンできるとはいえ、暴れ毛の量が多すぎる。
一撃かすっただけでも致命傷になりかねない。
「ガルツ、回り込んで抑えろ!」
「任せろッ!」
ガルツが一直線に駆け、分厚い腕で、飛び交う毛の嵐を強引に受け止めながら突っ込む。
だが。
「ぐっ……!」
体当たりしてきたメーモフの毛が、ガルツの肩に深く食い込んだ。
耐える彼の背中に、俺は必死に魔素の流れを読み続ける。
(こいつは……ただの家畜じゃない!)
さらに追い打ちをかけるように、暴れ毛メーモフが毛束を一斉に飛ばしてきた。
ビュン、ビュンッ!!
空気を裂きながら鋭利な毛が飛翔する。
俺たちは地を這うように避け、ギリギリの攻防を続けた。
(まずい、持たない……!)
それでもガルツは踏ん張り、リュミアは魔法で毛を弾き、俺も指示を飛ばし続けた。
――しかし。
そのときだった。
「――湊、見ろ!!」
リュミアの叫びで顔を上げた俺は、信じられない光景を目にした。
黒いメーモフが、天へ向かって毛束をぴんと伸ばしている。
その毛束は、ぐねぐねと不気味にうねりながら、空の雲に向かって細く伸びていった。
(……何を……?)
疑問が浮かびきる前に。
バリバリバリバリッ――ッ!!
上空を引き裂くような轟音。
そして。
ドォン!!
雷光が直撃した。
メーモフの天へと伸びた毛束が避雷針のように雷を呼び込み、
全身へ電撃が流れた――!!
「ぐあっ……!」
ガルツが飛び退き、俺も咄嗟に地面に伏せる。
リュミアも、身をかがめて叫んだ。
「……電気を……纏ってる……!!」
雷をまとったメーモフの毛は、さらに硬質化し、紫電を纏った棘の塊と化した。
一歩近づこうものなら、体ごと感電し、焼き尽くされかねない。
「クソッ……近づけねぇ!」
ガルツが地面を殴る。
彼のような豪腕でさえ、雷をまとった毛の壁には手出しができない。
リュミアも、魔導石を構えたまま、歯を噛み締める。
「……魔法も、雷にかき消されます……!」
電撃による妨害で、魔法すらまともに当てられない。
(……こいつ……雷を武器にしてる!?)
俺は苦い汗をにじませながら、必死に思考を巡らせた。
(このままじゃ打つ手がない……)
空を見上げれば、なおも雷雲は厚く、雷鳴が響いている。
(雷を……止める? 無理だ。なら……)
俺は地面に手をつき、仲間たちに叫んだ。
「――育剣だ! 剣を生やして、雷を誘導する!!」
「えっ!?」
リュミアが驚きの声をあげる。
「剣を、避雷針代わりにするってことかよ……!」
ガルツも目を見開いた。
「やるしかない!」
俺は迷わず術式を展開した。
「育剣――発動!」
バチバチと大地が震え、空気が揺れる。
そして、
銀白の剣が、轟く雷雲へ向かって一直線に伸びた。
(頼む――落ちろ!!)
荒れ狂う嵐の中、俺たちは運命を賭けた一手に出た。
◆ 避雷針作戦・発動
天を裂くような雷鳴。
俺が生やした剣は、雷雲に向かって真っ直ぐそびえていた。
次の瞬間――
バリバリバリバリッ!!
白銀の剣に、雷が一直線に落ちた。
剣全体が眩い光に包まれ、地面に雷が逃げる。
大地が一瞬、震える。
(成功だ――!)
暴れ毛メーモフは避雷毛を失い、全身を包んでいた紫電も、弱まっている。
「今だッ!」
俺は叫び、仲間たちに合図を送った。
◆ 反撃開始
「うおおおおッ!」
ガルツが正面から突撃する。
雷の加護を失ったメーモフの正面に、豪快なタックルをぶちかました。
ドゴォッ!!
メーモフの巨体がぐらりと揺れる。
リュミアがすかさず後衛に回り、魔導石に魔力を集中。
「湊さん、今です!」
俺は【マナ・スキャン】を展開し、暴れ毛の中から“正常な毛”の流れを探る。
(あった――!)
「リュミア、左肩の付け根だ!」
リュミアが魔導石を起動し、淡い眠りの光をメーモフの肩に撃ち込んだ。
シュウウ……。
ピタリ、と。
メーモフの動きが鈍る。
「今だ!」
俺たちは一気に駆け寄る。
◆ 毛根オタク、出撃!
「はいはい、そこ退いて~!」
元気な声が飛んだ。
振り返ると、ティラ=ノイが、両手に特製の魔導ピンセットと永久脱毛魔術陣を携えて走ってきた。
「ふっふっふ……暴れ毛の永久脱毛、いっきまーす!!」
ティラは魔導ピンセットで、暴れ毛の束を的確に掴み――
「――エネルギー根絶式・発動!」
ぱしゅっ!
微かな音と共に、暴れ毛の根本が無害化され、毛がしおれるように脱落していく。
「よしよし、いい子だね~……毛根よ、静まれ……♡」
異様な集中力で、ティラは暴れ毛だけを次々に無力化していく。
(さすが……毛根オタク……!)
俺は思わず心の中で唸った。
ティラの動きは正確無比。
メーモフの負担を最小限に抑えながら、着実に"暴れ毛だけ"を抜いていく。
やがて――
メーモフの体から、すべての暴れ毛が取り除かれた。
◆ 救われた毛
ふわり、と。
黒ずんでいた毛並みが、柔らかく、元の白へと戻っていく。
メーモフが小さく、くうん……と鳴き、穏やかに横たわった。
リュミアがそっと手を握り締めた。
「……よかった」
「……ああ」
俺も小さく頷く。
ティラは汗だくになりながら、魔導ピンセットをくるくる回した。
「ふふふ……毛根レベルで暴れ毛排除、パーフェクト成功! 私、天才かも!!」
(……いや、確かにすごかったけどな)
思わず突っ込むのをこらえた。
◆ ひと段落
「ふぅ~……」
ティラがほっと息をついた。
暴れ毛が無事に取り除かれ、メーモフは静かに眠っている。
辺りには、柔らかい風が吹き抜けていた。
もう雷の気配も、荒れ狂う毛の脅威もない。
ガルツが腰に手を当てながら、にやりと笑った。
「これで……ひとまず一段落、ってとこだな」
「ああ」
俺も頷き、少しだけ肩の力を抜いた。
リュミアがそっとメーモフの頭を撫でた。
その手つきは、どこまでも優しかった。
「湊さん……次は、永久脱剣ですね」
「そうだな」
俺は空を仰ぐ。
雲はすっかり晴れて、夜空に星が瞬いていた。
ティラがパタパタと駆け寄ってきて、ノートを抱えながらはしゃぐ。
「剣の位置はね、ちゃんとマーキングしてあるの!
脱毛が済んだら、今度は湊くんの見せ場だよ!」
彼女は嬉しそうに笑った。
ガルツも軽く拳を突き合わせる。
「派手な戦いは終わった。……でも、こういう地道な仕事も大事だろ」
「ああ、そうだな」
俺たちは歩き出す。
眠るメーモフたちを後ろに、
静かで、でも確かな使命感を胸に。
穏やかな夜の草原を、俺たちは進んでいった。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
今回は、雷と毛と剣が大暴れ(?)のドタバタ展開でしたが、
無事にフィロヴェルの平和を取り戻すことができました★★
引き続き応援していただけたらうれしいです!
また次回の更新でお会いしましょう!




