再び温泉町へ! 毛だらけの天才魔術師と大騒動の予感!?
こんにちは!
いつも読んでくださってありがとうございます!
今回は、フィロヴェル(温泉町)に再び戻ってきた湊たちのエピソードになります。
マナ・スキャンの修行のためにティラ=ノイさんを訪ねたのですが、
そこには――まさかの毛だらけ天才魔術師の姿が!?
旅の合間のちょっと賑やかな再会劇、
そして次なる大きなトラブルの予感……ぜひ楽しんでいってください!
◆フィロヴェルにて
温泉町フィロヴェル――
あの日と変わらぬ、ふわふわと立ち上る湯煙と、のんびりとした空気が、街道の先に広がっていた。
「おお、戻ってきたな……」
ガルツが腕を組み、懐かしそうに町を眺める。
「やっぱり、落ち着きますね……」
リュミアも微笑みながら、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。
湊もまた、フィロヴェルの景色を目にして、自然と口元が緩むのを感じた。
ただの寄り道だった町――
でも今は、明確な目的を持ってこの地を踏んでいる。
(――マナ・スキャンを鍛えるために、ここへ来た)
湊は拳を軽く握った。
フィーナから教えられたばかりの新たな力。
この力を確かなものにするために、今、ティラ=ノイのもとを訪ねる。
あの、毛根に人生を捧げる魔術師なら――
細やかな魔素の流れを読む修行に、必ず協力してくれるはずだ。
「さて、とりあえずティラ=ノイのところに顔出してみるか」
湊が軽く手を振ると、リュミアとガルツも頷いた。
町へ足を踏み入れると、あちこちで旅人たちの姿が目に入る。
温泉を目当てに訪れる客たちで賑わうこの町は、変わらず人々の笑顔に満ちていた。
だが、その一方で――
「んー、なんか毛の手触り悪いな……」
「暴れ毛が増えてきたって噂だぜ……」
市場の隅から、そんな声がちらほら聞こえてきた。
(暴れ毛?)
湊は眉をひそめた。
何か――ただ事ではない空気を感じ取る。
(……初めて聞く言葉だな)
遠目に見える、丘の上の奇妙な塔。
そのてっぺんには、変わらず「毛根万歳!」と書かれた旗が風に踊っていた。
「……あれ、絶対ティラの仕業だな」
「はい……見間違えようがありません」
「相変わらずの変人具合だな」
ガルツが苦笑しながら肩をすくめる。
湊も小さく笑った。
◆ティラ=ノイとの再会
研究塔のドアを叩くと、中からものすごい勢いでドタバタと駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「はーいはーい、誰!? 今すっごい忙しいけど出るよーっ!」
バンッと勢いよく開いたドアの向こうに現れたのは、――全身毛だらけのティラ=ノイだった。
「……」
「……」
「……」
三人そろって無言になる。
白衣の上にも、ローブにも、もふもふした白い毛がびっしり張り付いている。
そのあまりの惨状に、湊もガルツもリュミアも、言葉を失った。
「うおおっ、湊くーん!!」
次の瞬間、ティラが湊目掛けてダイブしてきた。
「超ナイスタイミングだよーっ!! 助けてくれーっ!!!」
「うお、やめろ!!」
あわててガルツが前に出て、湊とティラの間に割って入った。
ぐいっとティラを肩で受け止め、ずるずると引き剥がす。
「おい、まず毛を払え毛を!! 湊が毛だらけになるだろーが!!」
「えへへ……ごめん、興奮しちゃった☆」
ティラは悪びれもせず、ぱたぱたと白衣をはたきながらにこにこしている。
湊は疲れたようなため息をつきつつ、問いかけた。
「……で、何があった?」
するとティラは、ぴょんっと跳ねながら言った。
「いやぁ~、聞いてよ聞いてよ! 実はね! 近くの牧場で“暴れ毛”が大発生してるんだよっ!」
「暴れ毛?」
リュミアが首を傾げると、ティラは真剣な顔になった。
「うんっ! 本当は超高級な家畜の毛なんだけど、
最近、毛に魔素が変に流れ込んじゃって、暴走してるの!」
「……つまり、毛が暴れてるってことか」
ガルツが半ば呆れたように確認すると、ティラは力強く頷いた。
「そう! 毛が! もう、もっふもふのくるっくるの、バッサバサ!!
おまけに家畜も凶暴化してて、もう手がつけられないの!!」
湊は腕を組み、真剣に考え込む。
「その原因が……?」
「たぶん、牧場に“剣”が生えたせい。剣の魔素が、毛と体に悪影響を与えてるっぽい」
ティラは、毛だらけの白衣の裾を引っ張りながら、悔しそうに言った。
「本当なら私ひとりでなんとかしたいんだけど……このままだと、毛が、毛があああ……!」
「落ち着け」
湊が冷静に突っ込みを入れると、ティラは目を輝かせて手を合わせた。
「ね、ね、湊くん! 今回も手伝ってほしいの!」
「内容は?」
「えっとね―― ・凶暴化した家畜をおとなしくさせる! ・牧場に生えた剣を根っこから永久脱剣する! ・家畜の毛から、暴れ毛だけを選んで永久脱毛する!」
「……盛りだくさんだな」
ガルツがぼそっと漏らし、リュミアも苦笑いする。
ティラは両手を握りしめて、ぐっと前のめりになった。
「お願いっ! 毛の未来は、湊くんにかかってるんだよ!!」
湊は小さくため息をつき、それでも、笑った。
「わかった。力を貸すよ。……マナ・スキャンの修行にもなるしな」
ティラはぱあっと顔を輝かせた。
「ありがとぉ~~~~っ!!」
こうして、フィロヴェルでの新たな騒動が、またひとつ幕を開けたのだった。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!
修行するだけのはずが、やっぱり一筋縄ではいかないのが異世界ですよね……(笑)
次回からはいよいよ、牧場の毛と剣にまつわるトラブルに立ち向かうことになります!
湊たちのドタバタに、引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです!




