剣士、再び脱毛の道へ――異世界スキル修行編
こんにちは!今回のエピソードでは、湊に新たな力【マナ・スキャン】が芽生え、その可能性に気づく場面をお届けします。
ただ力に目覚めるだけでなく、「それをどう鍛えるか」に向き合う湊たち。
◆ 未熟な力
フィーナの剣が根差す洞窟に、柔らかな風が吹き込んでいた。
湊は、森で見えた“流れ”のことを相談し、【マナ・スキャン】というスキルが発現していると知らされた。
今もその余韻が体の中を微かに巡っているのを感じる。
だが、フィーナはにこりと笑ったまま、ぴしっと指を湊の額に当てた。
「湊、あんたの【マナ・スキャン】、まだまだ未熟だよん☆」
「未熟……?」
湊は驚き、思わずフィーナを見上げた。
「うん。今のあんたは、大きなマナの流れは感じ取れる。でもね、細かい“流れ”とか“滞り”までは見抜けてないんだ」
フィーナは、空中に流れる魔素の線を指でなぞりながら説明を続ける。
「いい? 湊!」
フィーナはぴょんっと飛び上がると、空中でキラキラした指を振った。
「マナ・スキャンってさ~、ちゃんと鍛えれば、相手の次の一手がガチで丸見えになるんだよ!」
満面の笑顔で指ハートを作る。
「剣振るか~、飛びかかるか~、魔法ぶっぱなすか~……!
体ん中の魔素とか霊素がね、動き出すときに、使う部位でピリッてサイン出すの! それをキャッチできるようになるの☆」
くるくる回りながら、フィーナは続けた。
「しかもさ! ウソつこうとしたり、ビビったりしても、体ん中の流れって絶対ウソつかないから~、
“体も心も未来予知!”って感じで読めちゃうわけ! !」
最後に、ドヤ顔でウィンク。
「だから湊、ちゃんと鍛えなよ? あんた、せっかくレアスキル持ってんだからさ~! 伸ばさなきゃ超もったいないっしょ☆」
リュミアが静かにメモを取る横で、ガルツが腕を組んで唸った。
「……とんでもねぇ話だな。でも、それが自由にみられるようになりゃ確かに強力だな」
湊は黙って、拳を握った。
(勇者を救う旅を続けるには、この力を得る必要がある)
確かな闘志が生まれていた。
「どうすればマナ・スキャンを鍛えることができる?」
フィーナは満面の笑みを浮かべて、元気よく答えた。
「簡単だよ~☆ 細かい魔素・霊素の流れを、ひたすら“読む練習”をすることっ!」
「読む練習……?」
「そう! 滝をじっと見つめて、水の流れの乱れを感じ取るみたいに、魔素や霊素の細かい動きに敏感になる練習だね!」
フィーナは手をくるくると回しながら、さらに続けた。
「できるだけ多くの流れを感じて、異常なところを見極める。数をこなして、精度を上げるしかないっ!」
湊はごくりと喉を鳴らした。
「……でも、そんな都合よく、繰り返し練習に使えるものあるか?」
「うーん、それがね……」
フィーナが頬に指を当て、考え込む。
その時だった。
◆ 思い出された“あの仕事”
「…………あ!!」
湊は思わず叫んだ。
リュミアとガルツが驚いて振り向く。
「な、なんだよ、急に!」
「脱毛だ!」
「…………は?」
ガルツが本気で聞き返した。
だが、リュミアは目を輝かせた。
「……確かに!」
「脱毛って毛根の微細なマナを見極める作業ですよね!」
湊は勢いよく頷く。
「そうだ! 毛根を伝って毛にもマナは流れている! 微細な滞り、異常な成長……それを感じ取って、ピンポイントで処理する必要がある!」
フィーナは手をぱんと叩いて叫んだ。
「それそれ~☆ まさにそれが今、あんたに必要な修行だよ!」
「……いや待て待て、じゃあつまり、俺はまた……」
「マナを診て、毛を読む!!」
フィーナが元気よく宣言する。
ガルツが呆れた顔でため息をついた。
「まさか、また毛に戻るとはな……」
リュミアは真剣な表情で言った。
「でも、今度はただの脱毛じゃありません。
湊さん自身の力を鍛えるための、立派な修行です!」
「そうだな……」
湊はゆっくりと笑った。
「毛でも剣でも、根っこを読むのは同じ。だったら、全力でやってみせる」
◆ 旅立ちの決意
「でも……どこで練習する?」とガルツが首をかしげた。
その時、リュミアがぱっと顔を上げた。
「フィロヴェルに行きましょう!」
「フィロヴェル……?」
「はい。前にお世話になった、ティラ=ノイさんがいます。あの方、今も永久脱毛魔術の研究を続けているはずです」
湊の脳裏に、白衣のローブを翻し、毛根に情熱を燃やしていたティラの姿が浮かんだ。
「……あの、毛根に命を懸けてる変人か」
「ええ、毛のためなら全力投球です! きっと喜んで協力してくれるはずです!」
フィーナも楽しそうに頷いた。
「うんうん、ティラちゃんなら絶対乗ってくれるよ!誰かは知らないけど☆ 」
ガルツが渋い顔で呟いた。
「……あんまり想像したくねぇな……」
◆ 再び、道をゆく
翌朝。
森の出口で、湊たちはフィーナと別れの挨拶を交わしていた。
「んじゃ、また何かあったら遊びにおいで~☆」
「ありがとう、フィーナ。また頼らせてもらうよ」
フィーナはぴょんと跳ねて、にかっと笑った。
「湊、あんたは大丈夫だよ。根っこの想い、ちゃんと見抜ける子だから!」
リュミアとガルツも、それぞれ感謝を伝え、三人は森を後にした。
目指すは、再び温泉町フィロヴェル。
剣を抜くため、想いを護るため。
そして、自分自身を鍛えるため――。
旅は続く。
だがその歩みは、確かに、新たな成長へと向かっていた。
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございます!
湊が手に入れた【マナ・スキャン】。でも、力を得ただけではまだ不完全。
彼は仲間たちと一緒に、再び"原点"に戻りながら、少しずつ前に進もうとしています。




