ギャル妖精に教わる異世界理論!
エイシャとの激闘を経て、湊の中に生まれた微かな異変。その違和感をきっかけに、彼は自らの成長を確かめるため、懐かしい妖精・フィーナのもとを訪れます。
◆新たな力への兆し
森を歩いていた湊は、ふと立ち止まった。
木々の隙間から漏れる光の中、一本、地面から生えかけた剣に視線が吸い寄せられる。
(……なんだ?)
剣の輪郭が、ほんのわずかに"滲んで"見えた。
いや、それだけではない。剣の根元から、大地に向かって流れる魔素と霊素の筋――まるで、血管を透かし見たような感覚があった。
(こんな感覚、今までなかった……)
湊は剣に手を伸ばさず、そのまま周囲を見回した。
すると、森の地面そのものにも、淡い脈動のような流れが見える。
(魔素の流れが……視える?)
直感的に「異常」だと分かった。
だが、恐怖よりも、妙な興奮が湧き上がってくる。
その晩、焚き火を囲みながら、湊は打ち明けた。
「なあ、今日、変なものが見えたんだ」
ガルツとリュミアが顔を上げる。
「変なもの?」
「森の木や飛ぶ鳥の中を流れる魔素が、ぼんやり透けて見えた。……いや、見たっていうより、"感じた"ってほうが近いかも」
リュミアは真剣な顔で考え込み、ガルツは眉をひそめた。
「それって……大丈夫なのか? 呪いとかじゃねぇだろうな」
「分からない」
湊はしばらく黙った後、ぽつりと提案した。
「……一度、フィーナに話しにいってみるか」
「フィーナ?」リュミアが首を傾げた。
「誰、それ?」ガルツも怪訝な顔をする。
湊は少し気まずそうに、焚き火の炎を見つめながら答えた。
「……俺が最初に異世界に来たときに出会った妖精だ。剣に宿る存在で、剣のことにも詳しい。力のことなら、彼女に聞くのが一番早いと思う」
リュミアとガルツが、ぽかんと湊を見つめた。
「よ、妖精って……伝承にしか出てこない存在じゃ……?」
「本当に、そんなのが実在するのか?」
「まあ、フィーナはちょっと……ギャルっぽいけどな」
湊が肩をすくめると、リュミアは手帳をばたんと閉じて真剣な顔になった。
「すごいです、湊さん。伝説級の存在と普通に知り合ってるなんて……!」
ガルツも苦笑しながら、頭をかいた。
「もう、お前が何を言い出しても驚かねぇ気がしてきたわ……」
湊は小さく笑い、立ち上がった。
「明日、フィーナのところへ行こう。……あいつなら、何か分かるかもしれない」
火の粉がぱちぱちと弾ける音が、静かな決意を後押しするように響いていた。
◆ ギャル妖精、再び!
森を抜け、懐かしい洞窟にたどり着いた湊たち。
薄暗い空間の中心には、今も変わらず一本の剣が静かに根を張っていた。
剣から漂う柔らかな光の中、ふわりと現れたのは――
「おーっす☆ 湊じゃーん! 久しぶり~!」
フィーナだった。
ピンクメッシュの髪に、軽いノリの笑顔。
だが、その背後に漂う優しく温かい気配は、紛れもなく“本物の妖精”だった。
湊が手を振り返すと、隣のリュミアとガルツは目を丸くして固まった。
「え、ええ……ほんとに妖精……」
「初めて見たぞ、マジで……」
フィーナはくるりと宙返りして着地し、リュミアとガルツの目の前に降り立った。
「へへっ、よろしくぅ☆ 湊の仲間ってことは、うちの仲間みたいなもんだねっ!」
にこにこしながら差し出された手に、リュミアは戸惑いながらもそっと握手した。
「わ、私はリュミア・ストレイルと申します。こ、光栄です……!」
ガルツも苦笑しながら手を合わせる。
「ガルツ・ブレナンだ。……なんか想像と違うが、まあ、よろしくな」
フィーナはぱちぱちと手を叩いた。
「んじゃ本題! 湊、今日は何しに来たん?」
湊は真剣な顔で言った。
「俺のステータスを、もう一度鑑定してほしい。……なんか、力が変わった気がするんだ」
「へいへーい、任せなっ!」
フィーナは空中に指を走らせ、軽やかに魔術式を描く。
「【鑑定(Appraisal)】発動~☆」
青白い光が湊を包み、淡い魔素の輪が広がった。
しばしの沈黙の後、フィーナが目を丸くする。
「……ちょっ、え!? あんた、めっちゃレアスキル持ってんじゃん!!」
湊とリュミアとガルツが身を乗り出す。
フィーナがにっこり笑って宣言した。
「おめでとう、湊。スキル【魔素・霊素診断】、覚醒してるわ☆」
湊は思わず息をのんだ。
(やっぱり、あのときの感覚は――本物だったんだ)
◆ 霊素?
フィーナは空中でくるりと回り、湊たちに向かってふわりと指を立てた。
「んじゃ、改めて教えてあげる☆ あんたが今、感じられるようになった“流れ”についてね」
湊も、リュミアも、ガルツも、真剣な顔で耳を傾ける。
フィーナは空に淡い線を描きながら話し始めた。
「この世界には、基本的に“素”って呼ばれるエネルギーが流れてるの。
それが《魔素》と《霊素》――ふたつに分かれるのよ」
リュミアが驚いた声を出す。
「……そんな、エネルギーが2種類あるなんて聞いたことがありません」
フィーナはにこりと笑った。
「簡単に言うと、想いが“聖なるもの”か、“悪意あるもの”かで、どっちになるかが決まるの」
聖なる想い、生きる力、祈り、愛情――それが《霊素》。
悪意、怨念、破壊衝動――それが《魔素》。
「どっちも元は同じエネルギーだけど、想いの質で分かれるってことだね☆」
ガルツが腕を組んで唸る。
「つまり、剣に宿る想いが清らかなら霊素、汚れてたら魔素ってことか……」
フィーナは指をぱちんと鳴らした。
「その通りっ!
でね――《霊素》は人間とか妖精みたいな生き物の生命エネルギーにもなるの。
逆に《魔素》は魔物たちのエネルギーになるの」
湊が、ふと気になったことを尋ねた。
「じゃあ、人間や妖精も魔素に当てられたら……?」
フィーナの顔が少しだけ曇った。
「うん、そう……。
強い魔素に侵されると、本来霊素だった存在が魔素に変わり、魔物化しちゃうことがあるんだ」
リュミアが息を呑み、ガルツも表情を引き締めた。
フィーナは優しく微笑んだ。
「でも大丈夫。あんたたちはちゃんと強い心を持ってる。
それに――あたしの剣も、全部霊素で育った剣なんだ。
生きた想いがちゃんと宿った、あったかい剣だよ」
湊はそっと目を閉じて、魔素と霊素の流れを感じた。
(俺が今、学んでいるのは――ただの“力”じゃない。
生きた想いを診て、守る力なんだ)
湊は静かに頷いた。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!
湊が新たに手に入れた《魔素・霊素診断》の力。それは、単なる戦いのためではなく、"想い"を見極め、守るための力でした。次第に剣と想いの深い関係に気づき始める湊たち。ですが、魔素と霊素の世界には、まだ知られざる真実が隠されています。
次回も引き続き、湊たちの旅路を見守っていただけたら嬉しいです。どうぞお楽しみに!




