神との約束
エイシャとの激戦の後、湊は意識を失い、深い眠りに落ちます。
その夢の中で、かつて交わした「神との約束」を思い出すことになります。
――なぜ剣を抜くのか、なぜ旅を続けるのか。
湊自身の原点を見つめ直す、大切な回想エピソードです。
◆ 夢の中、再びあの光景へ
闇。深い闇の中を、湊はただ漂っていた。
意識も身体もあいまいなまま、ただ一つ、心の奥から呼びかける声が聞こえた。
『……湊』
柔らかく、温かな声。
(この声……)
光が差し込む。
白く満ちた世界の中に、あの日、出会った“神”の姿があった。
――異世界に送り出される直前、すべてが始まったあの場所。
『勇者を救え』
湊は、無意識に頷いた。
(そうだ……俺は、ただ異世界に来たんじゃない。)
(あの日、あの存在と、約束を交わしたんだ――どうしてこんな大事なことを忘れていたんだ)
◆ 神との約束
『この世界には、剣が生える。
それは、人々の想いや記憶、祈りや絶望が、形となったものだ。』
神は静かに語った。
『中には、負の想いに変質して人々を苦しめるものもある。
また、正しき願いであっても、形を持てば時に災いとなる。』
『だからこそ、剣を"根から"抜き、想いを解き放たねばならない。』
湊の胸に、あの日と同じ熱が蘇る。
『そしてもう一つ――
この世界のどこかで、傷つき、迷い、まだ戦い続けている"勇者"がいる。』
『彼を救うことも、お前に託した使命だ。』
勇者を救う。想いを解放する。
困っている人々のもとへ行き、剣を抜くことで道を開く。
それが、自分の役割。
この世界に与えられた、自分だけの意味。
◆ 目覚め
「……っ!」
湊は飛び起きた。
焚き火の小さな光が、まだ夜が明けきらぬ森を照らしている。
リュミアとガルツは、少し離れた場所で静かに眠っていた。
湊は、胸に手を当てた。
(俺は……忘れかけていた。)
ただ剣を抜くだけじゃない。
"抜くことで、人々を救う"。
"想いを解き放つ"。
(そして、勇者を見つけて――助けるんだ。)
深く、強く息を吸う。
たとえ自分が異端と呼ばれようとも。
(俺は剣を抜く。俺はこの手で、道を開く。)
夜明け前の空に、湊の決意は静かに溶けていった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
今回は湊が「剣を抜く意味」と「旅の目的」を改めて心に刻む場面でした。
少しずつ、湊の信念が深まっていく姿を、これからも見守っていただけたら嬉しいです。
次回もどうぞよろしくお願いします!




