剣聖教編②
ラネムの町で剣を抜いた湊たち。
その行動は、静かに、しかし確実に剣聖教本部へと波紋を広げていきます。
今回は、教団側から見た湊たちへの追跡命令——"神敵認定"の幕開けです。
旅路に影を落とす不穏な動きを、ぜひお楽しみください。
◆ 神剣に仇なす者
夜。剣聖教本部、石造りの聖堂の奥。かすかな蝋燭の灯りが長い机の上で揺れていた。
集まったのは教団の幹部——「四祈導」と呼ばれる神官たちのうちの三人だった。中央に座るのは、第ニ祈導の男、バルゼ・クローネ。淡い金髪に灰色の法衣、冷たい瞳の持ち主。
「……報告書、確認しました。ラネムの町にて、“加護なき者”が剣を抜いたとのこと」バルゼは報告を読み上げながら静かに言った。
「本当だとすれば、神の試練を穢す行為に他なりません」第三祈導・レファナが眉間に皺を寄せた。やせ細った体に不釣り合いなほど厳しい声。
「また“自称・勇者”か」第四祈導・フルメンはうんざりしたようにため息をついた。「最近多いな。勇者を語ることで名声が得られると勘違いした愚か者たちが」
「しかしこの者……湊というらしいが、実際に剣を何本も抜いてきているようです」バルゼは次の報告書を広げた。
「王都でも同様の騒ぎを起こしていた形跡があります。勇者として召喚されながら、鑑定により“加護なし”と判明し、その後、王城から逃亡——」
「では王家の命令に背いた反逆者でもあるのですね」レファナの声には怒りが混じり始めていた。
「逃亡の際、剣を複数本“破壊”している。抜くだけではなく、封印や抑制の技術も持っているらしい」バルゼは静かに続けた。
「抜いたうえに、封じる……破壊しているも同然です」レファナの拳が机を叩いた。
「神剣の意味を弁えぬ者が、剣を抜くなど、神に刃を向けるのと同じこと」バルゼの声は低く、だが確信に満ちていた。
沈黙が流れる。やがてバルゼが静かに手を挙げた。
「……我々“剣聖教”は、神の代行者として、秩序を守らねばならない。ラネムの町に向けて、第八巡察部隊を派遣する」
「異端者には?」とフルメンが問う。
「神敵として——捕縛。あるいは、斬罪」
蝋燭の炎が揺らぎ、誰かの影が壁に伸びた。
「バルゼ様。現地における捕縛、私にお任せいただけますか?」声の主は、バルゼの側近である巡察隊長エイシャ・グレイヴ。若く、整った顔立ちの青年でありながら、感情のない目をしていた。
「お前に任せる。だが殺すな。記録に残す価値がある」バルゼは冷たく言い放つ。
エイシャは無言で頷き、黒い巡察隊装束に身を包み、すでに出発の準備に入っていた。
夜の鐘がひとつ鳴った。神の名のもと、教団の刃が湊へと向かって動き出す。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
ついに湊が「神敵」として剣聖教に公式認定され、教団から本格的な追跡が始まる展開になりました。
これから、信仰と正義、そして"剣を抜く意味"を問われる物語がさらに深まっていきます。
次回は、巡察部隊との最初の激突へ――ぜひ続きも見届けてください!




