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 明智がコンコン、生徒会室の扉をノックすると、少し遅れて「どうぞ」と、少し低くてよく通る声で返事が返ってきた。


「失礼します」


 扉を開けて部屋に入っていく明智に続き、俺も軽く頭を下げて部屋に入る。

 すると、奥の席で何やら作業をしている高身長イケメンが目に入った。間違いない、あれが東出先輩だ。


 今日は他の生徒会メンバーはいないようで、先輩一人。話を聞くには好都合だな。


「何の用かな?」


 東出先輩は仕事中だというのに、突然現れた俺たちに対して、柔らかいイケメンな笑顔で対応してくれた。

 イケメンなくせに、性格もいいなんて。やっぱり、世の中は不公平だ。


 そんな風に卑屈になっている俺をよそに、明智が口を開いた。


「東出先輩。最近、ラブレターを貰いませんでしたか?」


 明智。いきなりそんな質問をするなんて、ちょっと、単刀直入過ぎないか?

 東出先輩も、明智の突然の質問に、首をかしげている。


「うん、貰ったけど……」


 東出先輩は困惑しながらも、そう頷いた。


 おや? ということは、廣瀬の書いたラブレターは東出先輩に届いたということか?


「それって、いつですか?」

「球技大会が終わってから貰うラブレターの数が多くなったから正確には覚えてないけど、最後に貰ったのは、確か三日前だったと思うな」


 三日前、か。廣瀬は今朝ラブレターを出したと言っていたから、ラブレターを出したのは別の人だろう。


 しかし、正確な数を覚えられないほどの量のラブレターを貰うなんて……やっぱりイケメンはすごいな。

 そこまで凄いと、もはや羨ましさを感じなくなる。


「どうして俺にそんなことを聞くんだ?」


 そりゃあ、いきなりそんなことを聞かれたら不思議に思うのが当然だよな。

 明智は依頼人の秘密を守ると言ったけど、果たしてその約束を守りながら事情聴取を終わらせることはできるのだろうか。

 

「えっと。実は、東出先輩に出したラブレターが奪われたって言っている子がいまして。先輩がなにか知ってるかなと思ったんですけど」


「待って! もしかして、俺にラブレターを出した人って、もしかして茜だったりする?」


 明智は廣瀬の名前を伏せていたのに、東出先輩は、がたり、音を立てて椅子から立ち上がり、いきなりそんなことを訊いてきた。


 いくら明智が探偵としてはポンコツだとはいえ、今の会話だけでラブレターを出した人を言い当てるなんて……

 さすが、イケメンで勉強も運動もできるパーフェクト生徒会長というべきか。


「……さあ……」


 東出先輩から目をそらしながら、そう答える明智。


 しかし、明智はかなり顔に出るタイプだ。目は泳ぎまくってるし、吹けないくせに口笛を吹こうとしているし、明らかにごまかそうとしているのが俺にも丸わかりだ。


 素直で嘘をつくことができないと言えば聞こえがいいけど、今回はそんな明智の性格が完全に裏目に出てしまっている。


「やっぱり、茜なんだね」

「……依頼人のことは、言えません」


 セリフは探偵っぽくて格好いいけど、明らかに明智は追い詰められている。

 いつもは明るい笑顔を絶やさないのに、今は表情を引きつらせているし。


 そもそも、ラブレターの送り主が廣瀬でないのなら、「違う」と否定すればいいのだから、そうしなかった時点で肯定しているようなものだ。


 東出先輩に詰め寄られて、冷や汗を流している明智が、助けを求めるように俺の方を見てきた。俺は黙ってていいって言ったくせに……


 しかしまぁ、今回は明智の事情聴取が下手くそだったというより、東出先輩の勘が鋭すぎただけな気がするし。仕方ないので助け舟を出すことにした。


「……もし、ラブレターの送り主が廣瀬だと、何かまずいんですか?」

「そうじゃないよ。もし、ラブレターの送り主が茜なら、しっかりと返事をしたいからさ」


 俺みたいな人間の質問でも、東出先輩はしっかりと答えてくれる。

 明智といい東出先輩といい、スクールカーストトップの人間はどうしてこう、誰にでも優しいのだろうか。

 なんて、どうでもいいことを考えていると、さっきまで東出先輩に詰められて冷や汗をかきまくっていた明智が、何か気づいたようにハッとした表情になる。


「それって……」

「まぁ、その…… 俺、茜のこと……」


 東出先輩はそれ以上言葉にしなかったけど、人の気持ちを読むのが苦手な俺にも分かる。


 先輩は、廣瀬ならしっかり返事をしたいと言った。逆に言えば廣瀬以外の女子はどうでもいいということだ。



……つまり、廣瀬と東出先輩は、両思いということか。



 明智もそのことに気づいているのだろう。ひまわりみたいな眩しい笑顔を浮かべて、東出先輩に話しかける。


「ラブレターの渡し主が誰なのかは言えませんけど、ラブレターを出した人に伝言をすることはできますよ!」


 明智は探偵に全く向いていないだけで、頭が悪いわけではない。なんなら定期テストでは余裕で学年順位一桁に入るレベルの秀才だ。


 一応廣瀬の名前は隠しつつ、東出先輩がラブレターの返事ができるような方法を、あっという間に考えてみせた。


「じゃあ、茜に教室でまっていてもらえるようにお願いしてもいいか? 俺も仕事を終わらせたらすぐ行くから」


 そう言って仕事に戻っていく先輩。


 明智はそんな先輩に背を向けるようにくるりと俺の方を振り返り、両手で俺の腕を掴んできた。


「さあ、ワトソン君。急いで教室に戻るよ!」


 あれ? そもそも明智はラブレター泥棒のことを調べに来たんじゃないのか? こいつ、当初の目的を完全に忘れている気がするんだけど。


「ほら、早く!」


 まぁ、いいか。先輩も忙しそうだし、そもそも廣瀬は先輩に気持ちを伝えるためにラブレターを出したのだ。二人が両想いだと分かった今、ラブレターの行方はそこまで重要じゃないか。


 俺の手を掴んできた明智の手を振り払う間もなく、俺は廣瀬に連れられて、というは引っ張られて、生徒会室を後にした。

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