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「映画、楽しみだね!」


 明智は人の気持ちなんて知らない風に、ニパっと笑う。

 やっぱり、明智が人の心を読むのが得意なんて嘘じゃなかろうか。



「どうせ明智には、トリックなんて分からないだろ」

「あ! ワトソン君、私をバカにしてるね! 言っとくけど私、本気出してないだけだから!」


 本気出してないって…… 小学生かよ。


「フィクションの謎は、完璧に解き明かしちゃっても、誰も悲しまないからね! だから、私も本気で挑むことができるってものだよ!」


 明智は拳を突き上げながら、自信満々に言う。


 明智の言葉を深読みすると、現実の謎は、解いてしまったら誰かが悲しむから、本気をさせないということか?


 ひょっとして、明智は今回の事件のことを、全部分かってるんじゃないか。全てを理解してなお、あんな的外れなことを言っているんじゃないか。


 そんな疑問が俺の頭に浮かんだ。


 なあ、明智。もしかして……


「ねえ、ワトソン君。映画で推理勝負しようよ。先に犯人を当てた方が勝ちっていう勝負」


 しかし、俺がそう尋ねるよりも前に、明智が人差し指をピンと立てながら、そんな提案をしてきた。


「……映画館では話せないだろ。どうやって自分の考えを相手に伝えるんだよ」

 

 俺がそう訊くと、明智はハッと目と口を大きく開き、間抜けな表情になる。


 まるで、全く考えていなかった。とでも言いたげな顔だ。


 というか、多分そう。人の気持ちを考えるのが苦手な俺でも分かる。


「私の計画にケチつけるなんて…… ワトソン君もやるようになったね!」


 誤魔化すようにへらりと笑いながら、俺のわき腹を突いてくる。


 よかった。やっぱり、明智はポンコツだ。

 


 それに、こいつは現実の事件でも、いつも本気で取り組んでいる。

 たかが捜査のために、レターセットを買うことからも、その本気度が分かるだろう。

 


 それなのに真実にたどり着けていないのだから、やはりこいつは、根っからの謎探偵なのだ。



「は~ 今回の事件も見事に解決しちゃったし、どこかに別の事件が落ちてないかな?」


 そんな十円玉を探すみたいなノリで事件を探すなよ。


「というか、明智、現実の謎よりもフィクションの謎のほうが本気を出せるって言ってたじゃん」

「そうだけどさ。やっぱり、現実の謎の方が解き甲斐があるでしょ? 困ってる人がいたら、助けてあげたいしさ」


 そうだった。

 明智は人を幸せにする探偵になりたいのだった。


 フィクションの謎は解いてしまっても誰も不幸にならないけど、逆に誰も幸せにならない。

 でも、現実の謎は、解いたら誰かが幸せになるかもしれないのだ。

 


 そう考えると、やっぱり明智は、現実で謎探偵をしているほうが性に合っているのかもしれないな。



「俺は、事件になんて遭遇したくないけど」

「そうなの? ワトソン君、事件があるといつも楽しそうに捜査してるじゃん」


「いや。それは……」


 そこまで言いかけて、俺は慌てて口を閉じた。


「それは?」


 途中で言葉を止めたのを不思議に思った明智が、きょとんとした表情で俺を見てくる。


「いや、なんでもない」


 頼むから、詮索しないでくれ。

 そんな俺の願いが通じたのか、明智は「そう?」とだけ言って、校舎の方に歩いていった。


 かと思えば、再びこちらに戻ってきて、俺の腕を掴む。


「ほら、ワトソン君も早く! 無事に事件が解決したんだから、打ち上げしよ! 駅前に新しいカフェができたらしいから、そこに行こ!」


 えぇ、打ち上げって……


 そもそも明智は事件を迷宮入りにしただけだろ。

 しかもカフェって。明智はヒロイン女子だからいいだろうけど、俺みたいなパッとしない男子がカフェに入るなんてこと、できる訳ないだろ。



「ていうかそもそも。明智、今月お金がピンチって言ってなかったっけ?」

「それは大丈夫! 茜から映画のチケットを二枚貰ったから、実質二千円くらい稼いだってことだし」


 その計算、本当に正しいのだろうか。


 というか、映画館に行ったら明智は確実にポップコーンと飲み物を買う。それを考えると、確実にマイナスだ。


「ねえいいじゃん! 一緒にカフェ行こうよ!」

「分かった。行くから、手を離してくれ」


 俺が行くと言うと、明智は「やった!」と言って手を離してくれる。


 はぁ、またこうなった。

 今日も帰りが遅くなりそうだ。


「私、教室に戻って、カバンとってくるね。ワトソン君のかばんも持ってきてあげるから、ワトソン君は駐輪場で待ってて」


 明智はそう言って、足早に去って行く。

 

 俺のかばんを人質に取ることで俺を帰らせない。見事な作戦だな。


 去って行く明智の背中を見送ってから、下駄箱に向かう。


 しかし、さっきは危なかったな。

 廣瀬にしつこく絡まれたせいか、余計なことを口にしてしまいそうになった。


 事件の捜査が楽しい訳じゃなくて、明智と一緒にいること自体が楽しいなんて。

 そんなこと、言えるはずないだろ。

 

 明智が戻ってくるまでに、なんとかいつもの俺に戻らなくては。


 駐輪場に着いた俺は、気持ちを落ち着かせるために、明智から借りた推理小説を読みながら、眩しい笑顔を浮かべてこの場所に来るであろう明智を待つことにした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

もともと短編のつもりだったので、これで完結です。



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