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冒険者達の矜持

「我が名はユーリス・ガルバンス。フランドール国を守護する騎士団長であるユーゴ・ガルバンス伯爵が嫡男である。お前も名を名乗れ。墓も無く野ざらしになっては憐れだからな!!」


剣を構えた赤毛剣士君は、戦場の騎士がするように名乗りを上げた。


「バカかお前は」


「な、なにを言っている。これは正当なる決闘の手順――」

「だからよ、俺達のこれは、国家間戦争(陣地取りゲーム)での代表騎士同士の決闘では無いだろ。単なる冒険者同士のボコり合いだろうが」


「ハハハ。そうだな。下衆なお前には誇りも家名も無いと考えるべきだった」


…………。

こいつは、賢くなったら死ぬ生き物らしい。


そもそも、冒険者になった者は家名など名乗らない。

実家と紐づけられれば、非力な実家が恨みや金目当てで襲撃されて悲劇に遭う。

あるいは、元奴隷、元罪人など、身の上を隠し合うため。


互に家名を名乗らないのは、冒険者の暗黙のルールなのだ。

冒険者になってすぐに叩き込まれる、絶対的な常識でもある。


探るな、名乗るな。


俺とアレンは親友だが、互いのファミリーネームは互いに名乗り合っていない。

水のみ百姓の家の倅だった俺には、最初から苗字なんてもんは無いけどな。

だが俺の妹の結婚で俺の素性をアレンは知っているし、アレンと組んだことで自分がタンク職に変化した理由となるアレンの素性を俺も知っている。

なのに俺達は、互いについて聞かれたら、よく知らない、と答える。

だからあのピンクが、シャンナの素性をギルドで大声でべらったことについて、全くの悪意と俺は考えた。


「ほんっきで世間知らずなお子様だったとはな」


「なにおう!!」


赤毛の坊主は俺に剣を振りかぶる。

剣筋は確かに美しい。

フランドール国の御前試合で優勝できるほどの腕前だと良くわかる。


ガキィン。


俺の剣は赤毛の剣を流しただけでなく、赤毛の剣を弾いた。


「うっ」


自分の勢いをそのまま返された格好となった青年は、ほんの少し体を強ばらせる。

その一瞬は、攻め時であり、彼が受けるべき死刑宣告だ。

俺は剣を持ち換え、剣先ではなく柄で赤毛の喉元を叩く。


「ぐはっ」


青年は勢いよく俺の前から姿を消した。

宙を飛んで行った彼の体を受け止めたのは、俺達の決闘場のポール代わりになっている鎧騎士の一人だった。兜を被っているから誰が誰だがわからねえ。

俺に向けての殺気も同じだ。


俺はこの六人ものしていいのかと、俺の中の残虐な部分がざわついた。


パアン。

両手を打ち合わせた音が響き、俺と騎士達の一触即発な場を壊す。


「はい。勝負あり。お終い、お終い。シャンナ、赤毛君を起こしてあげて」


アレンが手を打って、終了を告げたのだ。

シャンナはアレンの頼みだからという風に、けだるそうに一歩踏み出した。

動いた?


「私が回復します」


歩き出しかけたシャンナを制したのは、砂糖菓子の様な格好のピンクだった。

ピンクはたたたと軽い足音を立てて俺達の方へと駆け寄って来て、わざわざ赤毛の前にて膝を折って座り込む。


「可哀想に。今すぐ痛みを取ってあげるね」


「うわあ。ピンクなお姉さんは力が弱いのね。近くに行かなきゃヒールできないなんて。戦闘じゃ使えない」


「しぃ、よ。リィナ」


「でもお。ここSSダンジョンだよお。能力ひっくい回復士じゃ荷が勝ち過ぎるってか。ああそうか。それで凄いお姉さんがいるあたしらに共同探索の話が来たんだねえ」


「あらあら。私を褒めすぎよ、リイナ。ピンクさんはフランドール国が認めた聖女なのよ。私なんかよりもきっとお力をお持ちのはずよ」


「でもお。男の子を元気にするのが上手でも、ほんとのヒールでサポートするのは違うじゃん。だってほら、フランドール国一番の剣士様こそ、あたしらのタンクに一瞬でのされちゃってんだしさ。ピンクさんの認定も忖度ある気がする」


はい。うちのあざとと怖い姐さんの小芝居が始まりました。

どうやら次はキャットファイトが始まりそうだ。

ピンクが可憐の演技を忘れている。

物凄く歪めた顔で、リィナとシャンナを睨んでいるじゃないか。


ピンクはすくっと立ち上がると、シャンナ達に向かって指を指して声を上げた。


「本当の聖女ってものを教えてさし上げます」


どうしてピンクはリィナを指さしてんだろう。

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