接待冒険で楽しいですかと王子の頭を踏んづけたい
ダンジョン前に王子達もやって来た。
俺が驚いたのは、ダンジョン前まで馬車で彼らがやって来た事だ。
「馬鹿なの、死ぬの?」
呟いたのはアレンだ。
アレンはシャンナの言い回しが気に入ったようだ。
俺も言いそうだったけどね。
大型馬車の扉は開き、最初に降りてきたのは赤毛だった。
タンクな俺と似たような鎧姿であるが、鎧がきれいすぎて借り物のように見える。
鎧の重さにヨロっていないかと、俺は意地悪に思う。
そして赤毛は自分が騎士だと自負しているからか、次に降りてくるだろう仲間達の盾になるような形で扉の前に立つ。すると馬車を守っていた騎士の一人が、赤毛を守る盾になるようにそっと移動した。
うーん、この動きはタンクとして見習わなきゃなあ。
「さあ手を、僕の聖女」
「もう、殿下ったら!!」
あ、いつの間にか王子も降りていたか。
王子は白金のきれいな胸当てに腕や膝も同じ金属出来ているガードをつけている。
勇者というのは騎士みたいながっちり鎧姿になってはいけない、そんな縛りがあるのだろうか。うちの勇者アレンも似たような装備だ。
アレンは俊敏性を生かすための、それ、なのだけどね。
さて、目の前の王子様がエスコートしているのは、勿論彼の恋人であるピンクだ。
ピンクにはプリンシヴァルという名前があった。
プリンシパルじゃないのか? と一瞬思ったが、さして重要な人で無い気がするのでプリンシヴァルでいいし、ピンク呼びでいいんじゃね、と意地悪く考える。
「むう。キャラが被る」
俺のちっこいのがなんか憤慨している。
確かにピンクはこの世の可愛いを体現したような格好をしていた。
自称聖女のためか白を基調とした組み合わせであるが、そこにはピンクと水色などのパステルカラーの指し色があるので華やかだ。ホーンウサギの白い毛でトリミングされたひざ丈のマントの下には、大き目のリボンで装飾されたブラウスと前身ごろはふくらはぎ丈で後ろは足首まであるというフィッシュテールスカートを着用している。足元はミルクティー色の編み上げブーツという拘りようだ。
――戦闘するんだよな? っていうか、SSダンジョンに潜るんだから、こいつらは戦闘経験ぐらいあるんだよな?
俺は思わずシャンナを見返す。
が、あ、と今さらに気が付いたことで言葉を失った。
シャンナが俺達が買ってやった魔女マントを着ているじゃないか。
出会った時のシャンナは、地味で毛羽立っている茶色のドレスの上に、焦げ茶色の飾りも無いマントを羽織っていた。
当時のシャンナが今では想像できないみすぼらしさだったのは、俺達と出会うまでソロで冒険していたからだろう。粗野な男達に襲われないように、その美貌を隠す必要があっただろうからだ。
俺とアレンはそんな彼女を幼気だと感じ、彼女の親か兄みたいな感覚となった。
それで自分達のチームに迎えた祝いとして、彼女にマントを贈ったのである。
防汚と魔法防御と物理軽減魔法が付与されているそれは、ダンジョン探索時にも汚れないように黒地だが、フードのふちや袖口などに蔦と花の刺繍がある。これなら可愛いと喜ぶかなと、俺とアレンは思った。
実際、シャンナはとても喜んでくれた。
だが俺達は、今では贈るんじゃ無かったと後悔している。
シャンナがそのマントを大事にしてくれるのは分かるが、それを纏うのは明日は生きて無いかもしれない、そんな過酷な戦闘がある時にこそなのだ。
勝負マントにするぐらい大事にしてくれるのは嬉しいが、そんなに大事にしなくてもいいよと、彼女が黒マントを羽織るたびに俺もアレンも思う。
だってさ、どの戦闘時も魔物にマントが汚されるや、汚しやがったなああ、と身体強化しまくった状態で魔物を殴りに行くんだよ。
危ない、危ないって!!お前補助系だろ!!
俺もアレンもそんな感じだ。
だから俺とアレンはシャンナに贈ったマントについて、呪いのバーサク黒マントと影で呼んでいる。
「レット。今日は様子見って奴だよね」
アレンが俺にこそっと囁く。
アレンも同じ気持ちだったかと、俺はアレンにそうだと頷く。
いや、せっかくだから祭にしてみようか。
俺は王子様達の前に出ると、彼らが見上げなければならない長身を生かして、思いっ切り馬鹿にしてやった。
「ようこそ。王子さま。補助はどのようなものをご希望ですか? 俺達が先を歩いて全ての魔物を倒して赤じゅうたんを敷いて差し上げる? それとも、適当な魔物を捕まえてご討伐できるようにして差し上げましょうか?」
王子ハルバードはかっと頬を赤らめた。
それから望む通りの大声を上げた。
「貴様らの補助などいらん。我々だけで潜る。お前らこそ僕達が倒した魔物の落とし物でも拾って喜んでいれば良いのだ」
「そうだ。この痴れ者が!!殿下を侮辱してタダで済むと思うな。いや、俺達を馬鹿にしやがって。デカいだけのただのタンクが!!」
おお、赤毛までかかったか!!
俺は笑いをかみ殺しながら、いや、にやけてやった方が良いのか?
職種がまだ騎士見習いの青年に対し、俺は彼の虚勢を剥がす台詞を放つ。
「君はまだタンクにもなれないのに?」
「酷い侮辱だ!!決闘だ!!お前に決闘を申し込む!!」
騎士団長の息子で次期騎士団長となるらしいが、ユーリス君は団長になれないよ。
浅はかすぎる。
タンクは騎士であってこそ得られる職種だ。
どうして水のみ百姓の倅でしかなかった俺が、ただの戦士から騎士にまで進化できたのかわからんがね。
「レット。ユーリスの剣の腕は、フランドール国一なのよ」
俺は俺を心配してきたシャンナに囁き返した。
「幸運を祈ってくれ」
ザザっと周囲の騎士達が俺に殺気を向けながら動き、俺と赤毛の為の闘技場となる輪っかとなるように立つ。
俺達は互に視線を向けながら(赤毛は俺を睨んでいるが)その輪の中心へと歩む。
「俺の剣で冒険を諦めねばならない体になっても恨むなよ」
「ハハ。神の御心だと受け入れるさ」
俺は最近引退したい気持ちな人だし。
俺達は、開始の合図など必要なく同時に剣を構えた。