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その勇者、必要ですか?

ギルマスが俺達チームを呼んだのは、指名クエストを説明するためだった。

齢四十のギルマスは元冒険者だった頃と変わらぬ筋肉質の体を持ち、よく嫁さんが貰えたと思う程のひげ面の悪人顔だ。


ほんと、よく勇者様に魔物と間違えられて討伐されなかったもんだぜ。


「これは、我がギルドの栄えあるチーム、勇者チームにしか出来ない依頼だ」


勇者チームと言いながら、ギルマスの視線はアレンだけを捉えていた。

俺達はいいのか、というか、アレンは勇者様でチームリーダだから、いいか。


「フランドール国の第二王子が冒険者となっているのは知っているな。彼も勇者の称号を持っている。ただし」


俺とアレンは同時に右手をギルマスの方へと掲げる。

ちょっと待て、というストップの意だ。


「受けられません。俺達はもう少しでSSダンジョンを踏破できそうなんです」


「親ばか王が王子に勇者バッチあげちゃったって話だろ。肩書きがあっても実績がない。それに見合った成果を俺達が作れってやつだろ? 断る」


ギルマスは、アレンではなく俺をじっと見つめ、失礼なことを言った。


「お前は意外とお喋りだよな。アレンぐらい空気読んだ断り方しろよ」


「空気も何も、あんたの言いたいことを先読みしての言だよ」


「ばあか。ここでの会話は記録されんだ。ここまで内情読んだ奴が無罪放免されるわきゃないだろう。ああ、残念だな。依頼は断れんぞ。俺だって念願のダンジョン踏破を俺のギルドで出来ると期待してたのによ。ああ、お前のせいで依頼を断れなくなっちまった」


俺はギルマスだけでなく、自分チームによる視線という名の殺気を受けた。

よし、この勢いで追放しても良いぞ。

…………。

あれ、俺のギルド?


「ギルマス。俺のギルドってどういうことだ? 俺達はあれを制覇するまで動かねえぞ。なら、あんたのギルドで変わらないだろ?」


「ばかやろう。お前のせいでご破算なんだよ。フランドール国の王子様勇者殿が、お前らが攻略中のお山が欲しいとご所望だ。つまり、一緒に潜って手柄を王子様にあげようね、というくそ依頼なんだよ」


ギルマスは、さも、苛立たしいことだぜ、という風に言い捨てた。

俺は自分のせいだと反省しろか?

だが俺は反省などしない。

反省する時間があるならば、現状打開に動くべきなのだ。

よって、ギルマスの腕の下にある羊皮紙を俺はひょいっと引っ張り出した。


今回の依頼の契約書だ。

既に締結してある上に、俺らからダンジョンを奪っても良しと判断したらしい黄金色が見えるぜ。


「おい、返せ!!」


「うるせえ業突く張りが!!ほい、アレン、読め」


「なにこれ、むっかつく!!はい、シャンナって、シャンナ?」


シャンナはいつもの俺達のノリに乗らなかった。

ぐすって、泣いていたのだ。


「どうした?」

「どうしたの?」

「あねさま」


ちなみに、リイナのシャンナへの呼びかけは、「お姉さま」のような家族愛的なものでは無く、百合愛とかでもなく、犯罪組織が兄弟の盃的とかで「にいさん」と呼びあうような、それ、である。

シャンナはかなりの影響力をリイナに及ぼしてやがる。


「どうしたんだよ。あのピンクが言った――」

俺は自分のお喋りな口を叩くようにして手で塞ぐ。


言えねえ!!婚約破棄を思い出したのか、なんて言えねえ!!


そしてギルマスルームに静寂が落ちる、が、それも数十秒程度だった。

シャンナは弱くとも強くあろうとする女だ。

ついでに、義理堅い。


「私のせいです。フランドール国の第二王子は、私の婚約者だったの。私を追い払って喜んでいたんでしょうけど、私が勇者チームで活躍しているって知って、それで嫌がらせに来たんだわ!!」


「えーと、それって、王子はまだ君に執着してるっていうか、恋している?」

「もしかして、君とやり直したいだけかもね」


「あ~アレンもレットも違うよ。あのピンクがマウントしたいだけだって。だから、王子を接待しながら、あのピンクと王子を仲たがい、というか、ピンクが二度とシャンナを笑えないように潰しちゃえば良いんだよ!!」


俺とアレンは、あざといちゃん(だった子過去か)を同時に見つめる。

リイナは腰に両手を当てて胸を張り、ふんすふんすと鼻息荒い。

女のドロドロを理解できてた、とは。

成長したな、というよりも、それを隠して俺にあどけない子アピールしてたのか。


そんなんだからあざとい過ぎても俺に何も刺さらんのだ!!


俺は、きっとアレンも、リイナがあざといだけの方が良かったなあと思いながら、やり手ババア進化中リイナ製造者へと目線を移した。


「お前、泣く暇あったら、お前が育てたこの悪辣生物を修正してくれ!!」

「あの女の子が男で自分の価値を測る子なら、俺達も王子様をマウントしよう。君もリイナの言う通りにあのピンクをやっつけちゃえ」


俺と同時に喋ったアレンのセリフを聞いて、俺とアレンの人間性の間には深い深い溝があった事を知った。きっとアレンもそうだ。

俺達二人、見合って、え? え? と間抜けに言い合ったのだから。

だが、泣き顔のシャンナが噴き出したのだから、まあいいだろう。


「ありがと。あんたらは良い男だよ。私の男じゃ無いけどね」


「お前だって、俺の趣味じゃないよ」


「ひっどおおおおおおおおおい」


シャンナはまた泣き崩れた。

俺はシャンナ以外から冷たい視線を浴びた。

ああもう、家出してえ!!

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