まじ抜けたいな、そんな感じよ あとロリ言うな
「ミノタウルスだ!!」
俺が掲げた盾が重い衝撃を受ける。
三十七階層までは、ボス以外はランクB程度の魔物だった。
それがたった一階下になった途端に、Cランクダンジョンのボスクラスが闊歩しているとは、Sランクダンジョンはやはり難易度が高いようだった。
ミノタウルスが三体だぜ?
(三人寄ってかしましいのは女だけにしてくれ!!)
「身体強化。耐久力上昇。筋力上昇」
俺の後ろで聖女が唱える。
お陰で俺はミノタウルスの第二打をパリイできた。
ミノタウルスはぐらっと体を揺らす。俺はそれを勢いにして、もう一歩分ミノタウルスを押し戻す。
三体のミノタウルスは俺が押し戻した一体のせいでぎゅっとくっつき合い、俺達に向けた攻撃の拳を互いにぶつけ合った。
「ハハ、まぬけな糞牛が!!アレン、デカいの頼む!!」
「地獄の炎、バルバラの炎よ、業火を纏いし罪を砕く鉄槌となれ!!」
ぎゃあああああおおう!!
俺が押さえつけているせいで身動き取れないミノタウルス達に、アレンの炎魔法がクリティカルヒットする。
その後は、アレンの独壇場だ。
彼は俺の体をジャンプ台にして飛び上り、三体のミノタウルスの首を次々とはねていく。
「アレン。すごいな。ミノタウルス討伐に五分か。三体もいるのにな」
アレンは俺に振り向き、ニコッと笑う。
「君のお陰だよ。ねえ、シャンナ。レットのお陰だよねえ」
俺達のパーティメンバーである聖女シャンナは、聖女とは思えない妖艶な仕草で美しい黒髪を撫でつけた後、そうね、と色っぽい声で答えた。
俺は彼女を見る度、魔女、を想像する。
きっと彼女は清廉な女達ばかりの神殿で、物凄く苦労しただろう。
「このロリって、レットを責めなくて良かったわ。でもね、今回はいい結果になったけど、一つ間違ったら単なる幼女趣味よ?」
「…………。」
(お前を口説かないのは、お前が好みじゃないだけなんだけどな!!)
「ハハハ。酷いなあ、シャンナは。ほら、リィナ。もう出ておいで」
勇者アレンが声をかけると、少し離れたところから俺が拾ったリィナが出てくる。
痩せこけていた体だったので、俺は少年だと思っていた。だが、リィナは女の子だった。食わせて全体はふっくらしたが、まだツルペタの幼い少女だ。
それも、猫族の女の子、という、メチャクチャあざとい種族だ。
リィナは彼女を呼んだアレンの所へではなく、俺の元へ一直線に駆け寄って来た。
「猫族の幸運スキルが発動するの、レットのため。嬉しい?」
リィナは可愛らしく俺を見上げながら舌足らずなセリフをしゃべる。
俺はリィナの頭を撫でながら(もふもふして触り心地良いんだな、これが)、とりあえずリィナにあざとさを仕込んでいる聖女を睨む。
(出会った時は普通の喋りしてたぞ。何してくれとんじゃ、ゴラアアア!!)
「リィナが盗賊職持ちだから助かるよね。アイテムの取りこぼしもないし、アイテムボックス持っているし。レベル上がったら、全ステータスや魔法効果を上昇させる幸運スキルが発動したでしょう。リィナを連れて行くって言い張ったレットサマサマだね」
「うわああ。連れて行くって言い張ったの? 本気でロリじゃない。ほら、リィナ。お姉さんとこ来なさい。その親父やばい奴だよ」
俺は勇者へと視線を向けた。
(お前は俺に何か恨みあんのか?)
俺の視線を受けた勇者は、勇者らしく清々しい笑みを顔に作った。
「君がいてくれて嬉しい。地獄の果てまで一緒だよ!!」
俺は無言のまま、勇者に向かって親指を立てた。
その親指を下に向けたいなあ、なんて気持で。
(地獄なんか行きたくねえよ!!追放しやがれ、ゴラアアア!!)