Aダンジョンへ行こう
翌日の昼頃には俺達はダンジョンに潜る準備を済ませ、マカミ族が住んでいる「魔王の住処」の前に立っていた。
もちろん、ダンジョンに潜る前の決まり仕事、探索申請書は作ってある。
それを糞王がいるフランドール国の冒険者ギルドに送った。だが受け付ける可能性が低いので、フランドール国以外の国々のギルドにも送ってある。
どこに送ったのかが一目でわかるように、全て送付先リストもつけてな。
これは世界に向けた俺達の意思表示、宣戦布告みたいなものだ
俺は仲間達を見回した。
特に、シャンナとリイナを注意深く。
このダンジョン探索とオルマーニュ伯爵との共闘について、彼女達が寝とぼけている間に(俺が独断で)決定した事だからだ。(一応は目覚めた後に説明し、二人の気持も聞いたけどね。妹が後でグチグチ煩かったと思い出すとさあ)
俺は(仲間達への)駄目押しと、決意を込めて声を上げる。
(あとで本当はついて行きたくなかった、とか言われたらいやじゃない?)
「もしかして俺達は冒険者ギルドに除名を受けるかもしれない」
シャンナとリイナはうんうんと頷いただけだ。
アレンは、なぜか自慢そうな顔をしている。
おい、いいのかよ、と思う俺に、三人のさあ続けろって威圧のある目付き怖い。
いいのか、いいんだな?
「だが俺達はまだ冒険者でSランクの勇者チームだ。ギルドの許可など必要なく見つけたダンジョンに自己判断で潜っていける特権持ちだ。行くぞ」
「くどったらしい。いちいち言わなくても分かっているの。大体私は世界が認めなくても自分が聖女だと胸を張るわ。あなたの聖女だってね!!」
「俺限定?」
シャンナは顎を上げたまま偉そうに頷くと、その上げた顎でアレンをしゃくる。
アレンは俺にコクリと頷き、総意だ、と素晴らしい声で言う。
「総意?」
「ああ。俺達はレットが望む限り、勇者で、聖女で、ちびっ子なんだ」
「ちびっこって、ひどい!!あたしは盗賊から探究者にジョブチェンジしたんだからね。あと、あたしをちびっこと言って可愛がって良いのはレットだけだ!!」
「すごい信頼ですね」
「悪ふざけばかりだよ。俺達のチームにようこそ」
「光栄です」
俺は自分の横に立って、俺を見上げる少年伯爵の頭を撫でてやる。
リイナの、フー、という威嚇音が聞こえた気がする。
だが、瞳を輝かせているバルメキアが見れたのだから、後でリイナの機嫌を取らねばならない面倒くささは捨て置ける。
昨日までのこの少年の顔付きは、人生が終わった大人みたいなものだったのだ。
「姫、我が先導します!!」
場を読まないウキウキ声は、マカミ族の青年だった。
彼が頭を下げたのは、俺達ではなく、シャンナに、である。
マカミ族こそこのダンジョンのエキスパートだ。
彼らが俺達の探索の先導役を買ってくれたのはありがたいが、彼らが先導したいのは彼らが救世主と認めるシャンナだけだった。
俺とアレンなど完全にいないものとして振舞う奴らには、いくら温厚な俺達でも面白くないと感じる。
戦闘中は仲間扱いだったはずなのに今や眼中に入れて貰えないリイナなど、族長の息子のリクに対して、ケっと唾吐きしそうな顔付で睨んでいる。
俺もケッとなりそうだ。
身長は百七十程度のリク君だが、かなり見栄えの良い男なのだ。
顔立ちが整っているのは言うに及ばず、鍛えられた肉体は黄金律とも言えるスタイルの良さである。美しいシャンナと並ぶと、絵本の一場面みたいだ。
黒き魔女と黒犬っていうね。
リクは肩までの黒い髪は後ろに一つ髷にし、彼ら独特の民族衣装に胸当てを付けている勇ましい姿だ。もちろん、片手には彼の身長の1.5倍ある薙刀(片刃の反り返った剣先が付いた槍はそう呼ぶのだそうだ)を握っている。
だが俺は、黒狼に変化できる彼らが薙刀を武器にしているなぜよりも、シャンナへの呼びかけが姐さんから姫に変化しているなぜの方が気になっている。
そんな二人が小劇場を始めたならば、俺はしっかりと聞き耳を立ててやろう。
「我らが居住区にしている所を外れれば道は険しくなります。姫のおみ足を痛めるぐらいならばご命令を。狼に変化して、あなたを背に乗せましょう」
「まあ嬉しい!!でもお姫様呼びは、少しくすぐったいわ」
シャンナは笑みを青年に返す。
リクはシャンナの妖艶な微笑によって頬を赤くする。
「い、いえ。あなたは我々を救って下さった尊いお方。姫と呼ばずになんとしましょう。我らはお慕いする女性を、姫、と呼ぶのです」
「でも、一緒にダンジョンを攻略する仲間になるならば、私は姫ではなく名前を読んで頂きたいわ。お嫌かしら?」
「光栄です」
「若、そろそろ」
リクに彼よりも筋肉質で年上のマカミ族の青年が声をかける。
彼はアギ。アギの後ろ、しっかりリクの背を守る位置にいる無言の青年はジキ。
アキとジキはリクの護衛だ。
リクが族長の息子ならば、護衛が付くのは当たり前。
そして、と、俺はもう一度バルメキアを見つめる。
彼の横には彼の侍女が立っていた。
それからもう一人、護衛騎士である全身鎧姿のベルネルだ。
バイザーを上げている今の彼は、目元だけだしか見えないが、聞いていた年齢よりも若く見える。
ベルネルは俺の視線に気付くと、薄い青色の瞳で俺を一瞥した後、兜のバイザーを下げて目元を隠した。
(なんか不穏要素抱えてる気もするが)
「さあ、この総勢九人の即席パーティで、魔王の住処を攻略するぞ!!」
「おおおおう!!」
俺の大声に、仲間達が雄叫びを上げて応える。
俺は、マカミ族の三人も、先陣だと一気に駆け出す。
タイムリミットは、三日。
オルマーニュ伯爵領がフランドール国王の軍と世界平和機構の兵団に完全包囲されるまでの、早くとも、の想定期限だ。
三日でダンジョン攻略は無理か?
俺達はSクラス冒険者、だぜ。
二十年前のエセ冒険者、フランドール国王とは違うって教えてやるよ。
お読みいただきありがとうございます。
短編が書きたくて三話だけをかき上げて完結としましたが、登場人物達にもう少し会話させたりしたくてここまで書いてしまいました。
お付き合いいただきありがとうございます。




