三年前じゃなく、今更、なわけ
バルメキアはアレンの言葉に対して力なく微笑んだ。
マカミ族の娘達をビソ村の男達に襲わせ、オルマーニュ伯爵とマカミ族との間にある不可侵条約を破棄させる。その行為が三年前のシャンナと第二王子の婚約破棄騒動に端を発しているのか? という質問というよりも確かめだった。
バルメキアが微笑んで返したのは、それは正解だ、という答えなのだろう。
「ですがそれとマカミ族に何の関係があるんですか?」
「王には王たるべく伝説が必要なんです。例えば、魔王討伐。あるいは難攻不落のダンジョンを踏破した、など。二十年前にAクラス冒険者として活躍していた現王ですが、魔王の住処を踏破するまで王位継承権は三位でした」
バルメキアのやるせなそうな声による答えに、俺とアレンは全てわかった。
二十年前に魔王の住処の踏破などなかった事実。
第二王子を勇者にしたのはなぜなのか。
親馬鹿王が第一王子ではなく第二王子を王座に就かせるためだ。
「三年前、第二王子は婚約破棄によってかなりの評価を落としました。王家から離れていく貴族も多かった。そこで、魔王の住処を復活させることに決めたのです。マカミ族は同族愛が強い。娘が襲われ攫われたとなれば、武器を持ってダンジョンから出てくるでしょう。あのダンジョンが魔王の住処と呼ばれることになった二十年前の再現です。正義の名のもとに彼らを殺戮して、第二王子のお力で脅威は消えたと広告するつもりだったのです。できるはずでした」
「だが、君の父上が上手に収めた。第二王子は名前を上げるための舞台を失い、たくさんの命を守った君達伯爵家は、フランドール国王から反逆者として監視される立場となった」
「腐ってんな。だが、それは三年前だろ? どうして今、なんだよ」
バルメキアは俺の右側を布団状態にしている聖女をちらりと見た後、俺に真っ直ぐに視線を向けた。チームリーダーであるアレンではなく、俺に、だ。
「第一王子が亡くなられたからです。半年前に」
「――第一王子は死んでいたのか? 半年前って、もしかして君の父上も?」
バルメキアはコクリと頷く。
「半年前に。申し訳ありません。我々が彼を守り切れなかったから」
悪いのは暗殺を指示実行した奴だろうに。
この子は生まれながらに領主としての重責を知っているし、それを背負う事を当たり前だと思って頑張って来たんだな。
「君こそ被害者だ。頭を下げるべきじゃない」
「――ありがとうございます」
俺に微笑んで謝意を述べたバルメキアの瞳は、零れそうな涙で煌いていた。
俺は彼の幼気さに、会った事も無ければ、名も知らない王子のことを想った。
同じ兄弟でありながら、弟は愛され、兄である自分は父親に人知れず殺されるのは、どんなに辛かっただろうと。
俺はアレンの右手を左手で掴んでいた。
殺されてしまった第一王子とアレンが重なってしまったのだ。
「レット」
「――それで伯爵様。それでフランドール国王がなりふり構わなくなったんだな。ようやく愛息子のこの世の春だ。どうやって華々しい逸話を作ろうってことか。反吐が出る。だが、そんな考え方が簡単にできるのは、二十年前は自分こそがそうやって王座に就いたからなんだろうな」
「はい。あのダンジョンが攻略された公式文書を作れるのは、冒険者ギルド。そして、紛争あれば首を挟んで勝手に調整者になる、世界平和機構、です」
バルメキアは俺を見つめる。
俺に答えを求めるかのように。
「お願いです。僕と共闘していただけませんか?」
少年伯爵は、震えていた。
父親を亡くしている半年前から、彼はずっと自分もそうなるかもしれないと脅えていた事だろう。全てを捨てて逃げ出したくとも自分は領主だからと、押し寄せる死の恐怖を必死に抑え込みながら。
だが俺は、すまん、とバルメキアに返していた。
「そう、ですか。そうですね。僕側は完全に積んでいる負け組です」
「そうじゃなくてよ、チームリーダーが俺じゃないんだよ。申し訳ないけれど」
「ええ!!あなたこそ要じゃなかったの!!」
「いや。俺はお父さんかお兄さんポジなだけで、パーティとしての行動決定は俺の左にいるお兄さんだよ。うちのチーム名は勇者チームなんだし。なあアレン」
アレンは照れた感じで、こくんと子供みたいに頷く。
お前のその振る舞い、お前がリーダーという説得力が無くなるから止めてくれ。
そう言おうと思ったが、俺はアレンの右手を握っていた、そういえば。
右側に寝とぼけた聖女、腕の中にはやっぱり爆睡中の少女、そして左側の勇者は俺に手を握られて照れている。
俺が要だと勘違いするなという方が、変、か。
「あの、」
「ああ。俺個人は共闘しよう、だ。でもって、君はダンジョン潜れるか?」
「あの?」
「魔王の住処をまず破壊しよう。本物の冒険者である俺達がこれから作るダンジョン地図が、二十年前のなんちゃって冒険者達が作ったものとは全く違うはずだ。二十年前の嘘はそれで暴ける」
そうだ。
冒険者ならば、ダンジョンに潜ってなんぼだ。
冒険者ならば、冒険者のやり方で糞共の思惑を台無しにしてやるべきなのだ。
って、俺が方向性を勝手にきめて良いのか?
「あっと、アレン。相談も無く勝手に突っ走っちゃったが、お前は言いたい事は無いかな? 駄目とかでもいいぞ」
アレンはニィと、子供の様な笑顔を俺に向けただけだった。




