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元王子よ、オルマーニュ伯爵に聞くべきはそれじゃない

「あなた方に共闘を願い出るならば、まず真実から話した方がいいかな」


バルメキア・オルマーニュ伯爵、半年前に父親から爵位を譲渡されたばかりの少年領主様は、十二歳という年齢に見合った子供の声で子供らしくない語り口で会話を切り出してきた。


俺達がバルメキアの誘いに乗って彼の居城に素直について来て、そして彼の話を彼の執務室で聞いている、という状況を選んだのには訳がある。


その一、ダンジョンにお住みの野犬軍団は、今やシャンナさんの飼い犬となった。

その二、リイナによって大トカゲと一緒にミンチになったドラゴンライダーの持ち物を確認してみれば、彼らの所属がフランドール国ではなく世界平和機構であると分かった。


その一は良いが、その二は大変ヤバイ。

俺達は思いがけずドラゴンライダー隊をせん滅し、世界平和機構の顔に泥を塗ってしまった。……となる。


世界平和機構が実際は銭ゲバなだけの組織であろうが、表向きは世界の平和を守る目的を掲げる人に優しい組織である。

そんな奴らに弓引いてしまったのならば、あとは、わかるだろう?

(ケツに火ぃついてますよ!!冒険者辞めたい。ウラアアアア)


以上の状況を鑑みれば、俺達は伯爵の申し出を受けるしかなくなっただけだ。

それで今の状況だ。

俺達はバルメキアと今後の話し合い、という最中だ。


図書館のように本棚ばかりで広い執務室には、ゆったり本を読んだりできそうな応接セットが設置されている。俺達は仕切りのない広々としたソファに座り、長方形のローテーブルを挟んだ向いには、一人で座る少年伯爵だ。


俺とアレンは目線を交わし合うって、近!!


俺の右側にシャンナが座っているせいか、俺の左側に座るアレンの距離が近い。

大柄な俺達には四人掛けぐらいできるソファは狭いかもしれないが、俺がリイナをだっこしなければいけないぐらいに狭いはずは無い。


――どうして皆して俺にくっつくんだ?


せっかく館に着いてすぐに、身だしなみを整えて、とバルメキアの好意で風呂と着替えを与えられてさっぱりしたはず、なのに。

なんか俺はしっとりしてきたぞ。


さて話は戻すが、バルメキアの後ろには彼の従者が控えている。

あの胸当てしてた人は女性だったか?


「ああ、彼女は僕の侍女です。彼女は誰よりも信用できる者ですからこの場にいる事をご容赦願いたい」


「それは全く構いませ――」

「どうして侍女がメイド服着ているの?」


俺のセリフの最中に、アレンが囁いて来た。

アレンの言葉に何か暗号でもあるのかと、俺はメイド服侍女を見つめる。

灰色の長い髪を垂らした彼女は無表情で人形みたいで、家具にでも擬態できそうな様子から使用人としてかなりの鍛錬を積んで来た人だと俺は思っただけだった。


「彼女は大丈夫な人だろ?」


「そうじゃなくって、俺が納得できないの。いい? 侍女ってね、従僕の女版。主人より目立ってはいけないから地味な服を纏うけど、私服オッケーな職種だよ。それでもって、男性は侍女を持たない。独身男性は使用人を男性で揃え無ければならないんだよ。それなのに、侍女がいて、メイド服って、おかしくない?」


「――お前の国と文化違うみたいだし、お前はちょっと黙ろうか」


今は、バルメキアが言う通りに、真実を知らねばどうにもならないじゃないか。

状況を一つでも見誤ったら、俺達は生き延びられない崖っぷちなのだ。


侍女なのにどうしてメイド服って、どうでもいいんだよ!!


「あの、いいですか?」


「ああ、すまない。うちの馬鹿は気にせずにお話の続きをお願いします」


「ありがとう。だがええと、どこからの方が分かりいいかな。あなた方がギルドやフランドール国王から聞いていたことを最初に伺った方がいいのかな」


「いいえ。あなた側のお話を、まず聞きたい。そうですね、ビソ村の若者が領主館の扉を叩いたところからお願いしたいです」


俺達がギルマスから受けた説明はそこからだ。

アレンのセリフを聞いたバルメキアは、子供の癖に表情をかなり歪めた。

反吐が出る、そんな風な大人がする表情に。


「もしかしてそこから嘘でしたか?」


「いいえ。ビソ村の若者が我が館の扉を叩いたのは事実です。間違いは、まずダンジョンの住人は、三年前どころか二十年前からあそこに住んでいるということ。その理由は、公式記録では踏破されたダンジョンですが、事実は未だ踏破されていないから、です」


「ああ。スタンピードを防ぐダンジョン管理人として住まわせているのか」


寄る辺のない異国の難民ならば、ダンジョンモンスターへの生贄には最適、という事か、と俺は理解した。聖女(シャンナ)を救世主の如く崇めて慕っていた彼らの姿を思い出しながら、胸のうちに苦い何かが湧き出ていた。

決して飲み下せない、俺の負の感情だ。


「はい。もともとダンジョンから出て来た人達です」


「え?」

「え?」


俺とアレンが素っ頓狂な顔で聞き返したのは当たり前だ。

あの黒毛狼族は、他所の国から流れて来た難民ではなく、ダンジョンモンスターだった? とお子様伯爵が真顔でのたまったのだ。

俺の胸のうちで渦巻きかけた黒い感情なんか、すぽーん、だ。


「ダンジョンから出て来た、え? モンスター?」


俺は自分の腕の中で熟睡しているリイナを見下ろし、この子を起こして「ケモ耳の人って自然発生するの?」と問い詰めた方が良いのか、としばし悩んだ。

リイナの寝顔が怖いくらいに可愛いのは、この子がモンスターだからか?


「くぅ」


右肩に重みを与える頭部から微かな鼾が鳴った。

本格的な鼾は冷めるが、このぐらいだと可愛らしさマシマシになるのはなぜだろうとシャンナの寝顔を見つめ、――何でこんなに無防備な顔してんだ?

俺は再びバルメキアに顔を向ける。


「うちの聖女が手下にしたのは、ダンジョンモンスターの皆様でしたか?」


真実は確かめねばならない。

そうだろう? やばいのはその一の方だったとは!!


(もう全部投げ捨てて逃げちまいたいよおお)

個人的に、侍女がメイド服、気になります。

そして侍女は個人秘書的な存在だと考えると、どうして床掃除したりしているんだろう、それって一番下のメイドの仕事なのになあ、と気になって気になって。

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