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なんか間違った進化をされている聖女様

「くそ、どうしてだ!!どうして先に進めん!!」


二騎のドラゴンライダーの片方が焦りの声を上げる。

彼は今まで彼らの進軍を阻もうとするどんな障害物も、潰し、あるいは破壊してきた。それなのに、目の前の女性が張る結界をどうしても破れないのだ。


「どんなに魔力があろうと結局は人の精神力だ。ドラコ達の重量に抵抗しきれるものなど作り出せるはずなど無い。どうして上からも横からも防ぎきれるんだ」


混乱中ですな。

シャンナが張っているのが防御魔法の盾だと思い込んでいるのだから、彼らは不思議でいっぱいな事だろう。防御魔法の盾ならば、俺がするように敵方向に向けて作るだけのものでしかない。作り出した盾よりも大きな魔物が、上から、あるいは盾の横幅を越えての攻撃ならば、防ぎきれずに受けてしまうものなのだ。

奴らはそう考えて、シャンナの上から横からと大トカゲに頭突きをさせるのだが、全くと言っていいほど無効ばかりで焦っているのだ。


当たり前だ。

結界なのだから、シャンナの周囲360度、半球型に死角なし、だ。


「浮き足立つな。単なる防御盾を展開しているだけだ!!ドラコの動きは鈍い。動きに合わせて張り直しているんだろうぜ」


「そうか。馬鹿みたいに大きなものを維持しているだけじゃなかったか」


「そうさ。こいつは魔女だろ。人を惑わしてなんぼの薄汚い奴だ」


シャンナの頬がピクリと痙攣した。

俺もそうだ。

シャンナは魔女ではなく、聖女だ。

侮辱した奴らには思い知らせてやるべき。

俺は回復しかけた魔力を指先に集める。

あいつらを土の壁で大トカゲごと弾き飛ばす。


「魔女の結界ごとき、俺の穿孔魔法で開けてやる!!おんなああ、お前のあそこにも大穴開けてやるからなああ!!」


俺が地面にずどんと魔法を送り込もうとした瞬間、下卑た大声が上がった。

俺はハッと顔をあげる。

ドラゴンライダーの一人が、シャンナに向かって右手を翳している。


ばかめ、それは防御盾じゃなくて、結界魔法なんだぞ。

聖女にしか発現できない御業、聖女神域結界、なのだ。


大トカゲ達が頭突きをするたびに散る火花、それが結界を作り上げている神聖古代語が金色に光っているだけだと気が付かなかったか?


バシュン。

「うわあ!!ベチェット!!」


「聖女はそこらの男じゃ貫けねえよ」


仲間にベチェットと呼ばれた男は、シャンナの結界を貫こうと翳した右手の手から強く輝く魔法を放った。しかしその光はシャンナの結界を貫くどころか、ベチェット自身に跳ね返っただけである。

仲間にベチェットと呼ばれた男は、己の魔法によって首から上を失った。その後の彼の首から下の胴体は、力を失ったまま鞍からずるりとずり落ちる。


ぐちゅる、ごきゅん。


命を失った瞬間に、騎手でもパキケファロドラコ達には肉となってしまうのか。

彼の死骸は地面に落ちる前に二頭のパキケファロドラコ達に咥えられ、引っ張り合われて二つになった後、嫌な咀嚼音の後に呑み込まれてしまったのである。


「うぷ」

「おえ」


俺とアレンは哀れなベチェットの最期がたまらないと、片手で口を塞ぐ。

人体からにゅうんと腸がはみ出す様は、くる。


「せりあがってきた」


「吐き出しちまえ。ベチェット君の相棒はしっかり吐いているぞ」


「君も青い顔してるくせに。で俺らがシャンナはって、うわあ、平気顔」


「俺達の聖女様だ。どこまでも凄いさ」


「ハハハ。凄いよね。聖女神域結界。傷を負った戦士にひと時の安息を与えんがために神が聖女にお与えになった癒しの秘術なのに。シャンナが展開すれば、カウンター機能備えた鉄壁の要塞になるんだもの」


「だよな。どうしてそうなった感がすごいよ」


グギャオオオオ。


大トカゲ二体が突然身を捩って叫んだ。

シャンナの追撃か、と俺達はシャンナへと意識を向ける。なんと増援だ。それは敵側でなく、シャンナに、だった。


シャンナの前面に槍(普通の両刃のものでは無く反り返った片刃の刀身が付いているもの)を構えた獣人戦士が並んでいるのだ。


「姐さん、あとは我らが!!」

「さあ、姐さんという大将を得た我らだ。いざ!!」


…………。

さす聖女。

ダンジョンに住まう獣人全員を手下にしました。かよ!!


「どうして俺はレットがご機嫌伺いに行こうとしたのを引き留めたんだ。レットだったら、犬族の女の子一人拾って来て終わりだったのに」


「聞き捨てならねえこと言ってないで、俺達も行くぞ」


「レットは動けるの?」


「人喰いトカゲをストップさせて、前足一本切り刻めるぐらいなら回復した」


「じゃあ、行こうか」


あっちは今のところ守りしかできねえんだ。

俺達が斬り込まないでどうするんだ。


「シャンナ!!用意できた!!みんな、下がって下がって!!」


リイナ?

リイナの呼びかけにシャンナの前に並んでいた槍戦士が一斉に左右に分かれ、そこに灰色に鈍く光る円筒を抱えた男達が飛び出て来た。

なんかバチバチと火花も散ってないか?


「いち、にい」

巨大金属筒の後ろ側に立つリイナが、カウントをとりながら何かのレバーを全身を使って引いた。

「行けええ!!」

ドオオオオオオオオオン。


リイナの発破の声と同時に起きた暴発。

すごいね、大トカゲ二体が一瞬でミンチになっちゃったよ。


「アレン、リイナの持ち物にあんなんあった?」


「レットが知らないんだったら俺が知るわけ無いでしょ」


「わお、すごい。古代魔導武器の使い方を知る人がいたなんて、僕も驚き」


俺達は第三者の声に振り返る。

勇者アレンのように胸当て程度の鎧を付けている少年が、数メートル先に立って俺達を見ていた。緑がかった明るいアッシュブラウンの髪は少女の様なおかっぱであるが、オレンジ色の雫が添加されてる緑の瞳は老練な策士の輝きだ。幼い外見の彼は俺達と目が合うとニコッと笑い、彼と同じ様な格好の中背の従者だけを引き連れて俺達の所へと歩いてくる。


彼らの後ろには、馬に乗った鎧騎士団が控えているのだ。また騎士達は俺達に殺気を向けているだけでなく、物々しく旗だってはためかせている。


少年が何者か示す紋章入りの旗を。


「お初にお目にかかります。オルマーニュ伯爵」


アレンが胸に手を当てて礼を取ると、まだあどけない年齢のオルマーニュ伯爵は年相応の朗らかな笑みを返した。


「あなた方を歓迎します。つもる話もありますし、これから僕の家にいらっしゃいませんか?」

聖女神域結界

もともとはダンジョン探索や戦場にて使用される、聖女職種にだけ使用可能の全体回復魔法。

聖女神域結界を行っている間はその空間には敵が侵入できなくなるため、一定の時間だけだが安息を得られる。(通常のRPGバトルはターン制。よってヒール最中に敵に邪魔されることはない。だが、あれがリアルだったらと考えると、魔物達がなんて優しい、お母さんか!!になる。そこで、侵入されないのは魔法の効力ってことにしてみた)

シャンナはヒール行為の部分を取っ払って、敵の侵入が無い、そこだけを特化。

レットに間違った聖女の使い方と揶揄されるゆえん。

また敵に関しては、シャンナさんが敵だと思った相手に適用。

犬族の皆様とリイナが出たり入ったりできたのはそのため。

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