表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/25

散歩をどんなに頑張っても疲れるのは飼い主だけ、と思い出す

森の中に響いた女性の悲鳴は、当り前だがシャンナやリイナのものではなかった。

そもそも声が違う。

そして悲しいことに、シャンナもリイナも絹を裂くような悲鳴など上げない。


シャンナは悲鳴を上げるが、悲鳴と一緒に悲鳴を上げさせた対象に拳を見舞うので、闘魂の籠った野太い悲鳴だ。

うおあああい、て、可憐な女の子が出していい声じゃない。

リイナは猫だから、フー!!だな。

それで、思わずのフーにハッとして照れる、という小芝居(あざとさ)も付く。


よって俺達は悲鳴を上げた者が一般人の女性だと理解したので、とにもかくにも悲鳴が上がった現場へと急がねばならん。――アレン頼むよ。


なぜアレンに俺が期待しているのか。

答え、俺が動けないからである。


知っているか?

体が無傷で健康状態良であろうと、MPが切れるとふらふらになるんだぜ。

つまり大盾を二度も呼び出して魔力枯渇している俺は、恰好良く森の中を駆け抜けるなんて芸当など現在出来ない状態であるのだ。


足元がぐらぐらして、情けないほどに覚束ない状態だ。

体が不自由しない程度に魔力が自動回復するまで、五分は掛かるな。

アレンは大丈夫か、と彼を見て俺は、スン、となった。


アレンは規格外だった。

生きている大トカゲ(パキケファロドラコ)三体を一瞬で感電させた上に丸焦げにしてしまう全体攻撃魔法をぶっぱなしたというのに、まだまだ彼のMPゲージは七割以上残っているのである。……成長しやがって。


「アレン、先に行ってくれ」

「レットを置いていけない」


間髪入れずに否定してきた勇者様だが、お前は全然平気なご様子じゃないか。

俺を置いてきぼりにしっかり成長しているお方だろう!!

いや、だからこそへなちょこ状態の俺を守りたいのだろうが。


「行け。置いてかれても俺はしっかり大丈夫だ」


「魔力枯渇のせいで、君が意識不明になったらどうする」


「そこまで枯渇してない。ふらつきで全速力出せねえって程度だ。行け」


勇者動かず。


おい。


俺のそばを離れたがらないアレンに、そう言えば彼は犬だったと思い出す。

あれだ。はしゃぎすぎる犬をどうにかしたくて激しい散歩をしたところで、犬は全く疲れていないって、愛犬家が嘆くあれだ。人間はくたくたでもう動けないのに、もう少し一緒に走らない? と犬に期待の目を向けられる飼い主の気持を俺は今体験しているんだ。


アレンは、そうだ、犬なのだ。

疲れ切った飼い主に期待で瞳を輝かせて見上げる犬だ。ちゃんとお前の勇姿見ていてやるから走ってこいと言っても、絶対に飼い主から離れないお犬様なのだ。


お子様なだけ、とも言うかもしれないが。


「人は、すぐに死ぬ」

(はい、重いの来ました!!)

「俺は一応S? ランクなお人なんだけど?」


「その侮りでたくさんの冒険者が死んじゃったじゃないか!!」


って、ギルドの初心者講習では言うね。

でもって侮って死んじゃうのはEからDに上がったばかりの、ようやく底辺突破したぞって奴ね。あと、底辺突破してもそこから上に上がれないって腐った奴ね。


「――確実に俺はお一人様でも大丈夫だって、おわっ」

「舌噛むよ。黙って」


彼は実力行使に出た。

俺をひょいと担ぎやがった。

恋に恋する女の子ならお前に恋するが、鎧着たおっさんな俺には羞恥プレイだ。


嘘、恥ずかしい、止めて!!

そんな俺の恥じらいばかりの心の声がアレンに聞こえるわけはなく、奴は俺を抱いたまま、凄いスピードで足場の悪い森の中を駆け抜ける。


確かにお前は凄い機動力を持っている。

勇者様だよ!!

「だがしかし、お姫様だっこは止めてくれよ!!」


俺は恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆う。

きっとさらに恥ずかしい絵面になっているはず!!

恥ずい、嫌がらせかよ、アレン!!


「背中に背負ってたら、俺が剣を抜けなくなる」


「お前は空間から剣取り出せるだろ。ああ、こんな姿シャンナやリイナに見られたら、なんて言われるか」

「レット、その俺達の聖女が。見て!!」


「ああん?」


森の緑が切れれば、そこには黒毛犬達が生息しているダンジョン入り口だ。

俺達の聖女様が、黒毛犬族団体様という「無辜の民」を守っていた。


ああ、シャンナは必死だ。

誰も通さぬ意思で両腕を開き、肩幅に開いた足は地面に踏ん張っている。

歯を食いしばり頬を紅潮させ、瞳は脅えが見えないどころか真っ直ぐにトカゲ達を睨んでいるその顔は、幼気でもあるが頼もしくもある。

こんなに良い女はいないって、俺が見惚れるぐらいに。


俺とアレンは同時に、ほう、と感嘆の吐息を吐き出す。

そのすぐ後に、息を吸い込み闘気を満たす。

シャンナに襲い掛かっているのは、騎手を乗せたパキケファロドラコ二体。


「二体まだいた? 他に撃ち漏らしは無いか?」


「たぶん。ドラゴンライダー隊は多くて六騎のはずだから」


「おい、それじゃあ一騎足りないじゃないか」


「多くてって言った。六騎だとしてもここにはいないし、気配もない。まずは目の前の二体」


アレンは俺を放り出して剣を取り出す。

俺は――枯渇中。

しかし回復次第大トカゲ二体を下から突き上げる土壁を出してやると、俺は地面に両手を突いて大トカゲ達を睨む。


キイン。

クワアン。


パキケファロドラコ達の頭部が弾かれた。

なんと、奴らはその石頭をシャンナ目掛けて振り下ろすが、閃光が散るだけでシャンナに近づく事も出来ないようである。


「聖女神域結界」


アレンの呟きの声には、称賛よりも呆れが入っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ