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Sランク冒険者な俺と君は脊髄反射な

俺とアレンがグダグダしていたアレン結界のすぐわきを、気味の悪い威圧感を纏った団体様が移動していく。

ドラゴンと例えるにふさわしい、二足歩行の大型トカゲ、丸みを帯びた頭部が石のように硬化しているのが特徴の、パキケファロドラコを使役する団体様だ。


普通であれば戦いなど放棄して通り過ぎるのを待つものだが、それらが俺達の野営地に向かっているならば話は違う。

アレンは空中に魔法陣を呼び出し、彼の大剣を取り出す。

俺は百姓タンクらしく土属性の魔法を使い、地面から盾と闘気を引き出した。


闘気はパーティメンバーを気分高揚させ、クリティカルを生み出しやすくさせる魔法だ。

騎士職である俺は、実は補助魔法も使えるのだ。

聖女であるシャンナのような、馬鹿みたいな効果は与えられないがな。


「シャンナがいねえ。回復も肉体強化もいつものようにできねえぞ」


「初心に戻るプレイも楽しいさ。殺気丸出しのドラゴンライダー数騎。俺達二人の相手としては役者不足、とも言えるけれど」


「数騎って、数ぐらい数えろよ」


「いつものあれで一気に蹴散らす。ならば、数なんか無意味でしょ」


「だな。だが、あれか。一気に蹴散らせ無ければ、MP不足の即死プレイだな。ちっ。闘気は使うんじゃ無かった。MPの無駄使いになっちまった」


「失敗した場合は決死で行く。闘気は必要だ」


アレンは大剣を横に一振り、己が作り出した結界を斬った。


ザアアアアアアアアン。

こんな音など起きなかったが、アレンによってそんな感じで空間が裂けた。

これでドラゴンライダー達の視界が晴れたはずだ。


森の木々があったはずの風景が消え、少々開けた空間が姿を現す。

そこには、大盾を構えた鎧騎士と松明の炎の輝きのように金髪を煌かせた美貌の剣士が立っている。


そう、そして俺はタンクだ。

敵の的となるべく、敵を嘲笑い、敵の憎しみを駆り立てる者。


シャンナ達のいる野営地に、お前らデカブツを向かわせるかよ。


ヒャアア、ハッハアハハハハハ。


俺は鬨の声をあげる。

挑発効果のあるそれは、頭が固いだけで中身が無いパキケファロドラコを猛らせ、彼らに乗るライダー達を浮足立たせる。


いや。

ライダー達は、俺に憎しみを抱いた。


「潰せ!!」

「あいつを潰せ!!蹴散らせ!!」

「単なるタンクだ!!」


ドラゴンライダーはパキケファロドラコ達に発破をかける。

俺を踏み潰せと。


グギュル。ギュル、ギュル。


爬虫類らしい鳴き声で騎手達に応えたそれらは、俺を踏みつぶそうと俺達目掛けて突進してきた。


俺は盾を地面に叩きつける。


ドオン、ドオン、ドオン。


俺が呼び出した土の壁の出現だ。

縦三メートル横五メートルほどのそれは一枚ではなく、次々と地面から隆起して俺達の周囲に半円を描くように展開していく。


向かって来たパキケファロドラコ達は、出現した壁に次々に頭をぶち当てる。


ズウン、ドオン、ズウン、ズン、ズウン、ドオオオン。


(俺の盾は抜けらんねえぞ)


俺は口の端に笑みを作る。

俺の土壁で視界を防がれたパキケファロドラコ達には、壁向こうの俺の姿こそ見えないだろうが。

ああ、大トカゲでしかないお前らには、考える頭こそ無かったな。


ギャアアア、グギョオオオオ、グワアアアアア。


森を揺るがす断末魔の叫び声。

それは大トカゲ達の猛り声か、大トカゲから振り落とされ踏み潰されたライダー達の悲鳴であるのか。


俺は、はあっと息を吐く。

どんだけMP使ったと思ってんだ。

大魔法など久しぶり過ぎて、視界がちかちかしやがるぜ。


「レットの大盾を見るのは久しぶりだ。最近は手抜きばかりってよくわかる」


「言っとけ。お前の久しぶりも俺に見せてくれよ」


「お望みのままに」


「では、一気に壁を落とす。そしたら、わかるな!!盾の三度目はないぞ!!」


「任せて!!」


ダンダンダンダンダン。


次々とギロチンの刃が落ちるようにして俺が立てた壁が地面に落ちて行った。

壁が消えれば視界はクリア。

パキケファロドラコ、二足歩行するだけの大型トカゲも俺達が見えた。


騎手を失った大トカゲ達は、彼らに踏み潰されて死んだ騎手への餞の如く、一斉に俺達に向かってきた。


アレンは詠唱が終わるや剣を地面に突き刺す。

俺も彼のその動作と同時に、再び盾を地面に叩きつけた。


ドオン、ドオン、ドオン。


再び土の壁が聳え立った。

先程と同じ扇状で、しかし先程よりも半径が小さめとなっていた、が。

けれど、それは俺の魔力が足りなかったからでは無い。

これこそ罠。

助走距離って必要だろ?


俺とアレンは大トカゲにクリティカルヒットとなるインパクトを与えることは可能だが、俺とアレンの力技でわざわざインパクトを与える必要など無い。

自分自身の最大出力で壁にぶち当たってもらえばいいだけだ。


その衝撃に俺のMPと身体精神力が持ち堪えられれば、の話だが。


ズドオオオオオオオオオン。


ギャアアア、グギョオオオオン。


大トカゲ達は、俺が作った壁に再びぶち当たる。

だが、彼らが受けたダメージは先程とは全く違っていた。

俺の土壁にぶち当たった瞬間に、彼らは一瞬で真っ黒焦げとなったのだ。


アレンが詠唱していたのは電撃を生み出す(いかづち)魔法。

彼が剣を地面に刺せば、剣先から彼の(いかづち)が地面の中に波紋みたいに広がる。

そして雷魔法がしみ込んだ大地から、俺が大盾を引き出したのだ。


出現した俺の土壁は、アレンの電魔法によって高圧電流が流れる大型生物用の殺戮兵器となっていた。


俺とアレンのここぞという時の必殺技。

最終手段の最後の大技。


「久しぶり過ぎて足がガクガクだ。アレン、俺を背負ってくれないか」


「奇遇だね。俺もだよ。おんぶしてよ、お兄ちゃん」


「ばかやろ。ふう」


俺の土壁は一気に崩れ落ち、俺達に俺達が為した結果を見せつける。

大トカゲもそれに乗っていた人間も死に絶えた、それどころか俺達のせいで風景が一変していた。俺達はこの焼け焦げ荒涼とした森の様子を目の当りにし、思わず溜息を吐いた。


「俺は殺戮が好きじゃ無いんだけどなあ」


「俺もだよ。死んじゃったら口なしだ。何者か聞くの忘れてたね」


「俺達って脊髄反射だからなあ」


「きゃああああああ」


脊髄反射の俺達は、女性の悲鳴に反射的行動を取っていた。

悲鳴が起きた場所に駆け付けるのだ。

とりあえず、同じ敵なら今度こそ目的や正体を突き止められる。


――同じ敵なら?

もう大盾は出せないぞ。

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