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殲滅仕事をするならば、状況開始前に状況を調べること

フランドール国の北部、オルマーニュ伯爵が治める領地に、俺達への指名依頼の元となるAランクダンジョンは存在する。

それは二十年前にとあるSクラスの冒険者達に攻略されるまで、半年ごとにスタンピードを起こす、オルマーニュ地方において災厄でしかない存在だった。


ダンジョンから吐き出されるモンスターのランクはB程度であれど数が多く、単なるスタンピードではなく魔王の軍勢の侵略に思えたそうだ。

だからか、オルマーニュの人々はそのダンジョンを、魔王の住処、と呼ぶ。

ギルドの公式記録でも、ダンジョン名は「魔王の住処」である。


そしてSクラス冒険者に踏破されたはずのそこは、オルマーニュ地方の人間には昔話でしかない存在となっていた。はずだった。三年前まで。


三年前のとある日、息も絶え絶えの青年が領主館の扉を叩いた。

青年はダンジョンに一番近いビソ村の者であり、彼は魔王の住処に大勢の人ならぬものが棲み付いていたと訴え、領主に助けを求めに来たのだ。

領主であるオルマーニュ伯爵伯爵は、私兵を連れて急ぎダンジョンに向かった。


その後、伯爵が王都に届けた報告は、魔王の住処の復活では無い、とだけである。

そこに住まう異形の者達には何の言及もしていない。

また伯爵は、王都には異変無しを報告しておきながら、領地の人間にはダンジョンがある山への立ち入りを禁止したのだった。


ダンジョンに近づくな、では無い。

山そのものを禁域にしたのである。


「王の俺達への指名依頼は、オルマーニュ伯爵が盗掘を行っていると見做したからだな。恐らく、ダンジョンがあった山が金になる何かが出る鉱山だったかで、採掘用に雇った大勢の鉱夫達を隠すのに空のダンジョンが適していた、かな」


フランドール国王は、オルマーニュ伯爵が盗掘して私服を肥やしていると考え、その目的が国家に反逆するための資金隠しとでも思ったのだろう。


「俺達に依頼する前に、伯爵の報告が本当か嘘か、ぐらいは探っていたはずだものな。で、真実を知ったそれでも、俺達にダンジョン住人の殲滅依頼をかけて来たとは。フランドール国王は人として最低だな」


国王がダンジョンに住まう人々を殺戮しようとしているのは、伯爵への、また今後同じことをする者達への、見せしめ、に違いない。


俺は遠くを拡大して見る事が出来る魔道具、魔眼鏡にて、「魔王の住処」の入り口前あたりを眺めている。忌々しいとブツブツ呟きながら。

なぜならば、俺が今見ている風景は、ダンジョン入り口前で遊ぶ子供達や、飯の支度にとりかかっている女性達という、穴倉を住処にせざる得ない身の上の難民の日常だけなのだ。


意味もなく散らして良い命では無い。


「確かに魔物よりの生物、かも、だが」


ダンジョンに住む彼等は、小さいのも大きいのもピコピコ動く獣耳を付けている。

そんな彼らの姿に、俺は捨てたはずの故郷を思い出す。

それは、左右の身頃の布を前で打ち合わせる彼らの衣装がフランドール国よりも俺の故郷の物に近く、彼らの色合いが俺の色合いに近いからであろう。


黒髪に黒い瞳。

俺は焦げ茶色の髪に焦げ茶色の瞳だが、ぱっと見は同じだ。


「妹が産むガキも同じ色合いになるのかなって、うお!!」


情けない驚きの声を上げてしまったのは、俺の横腹のあたりに硬くて丸いものがぐぬっと押しつけられたからだ。

硬くて丸いものは、リイナの頭だった。

なんでか知らないが、彼女は「犬みたい」に俺に頭をぐりぐり押しつけている。


俺は彼女の頭の猛攻を止めるべく手を添えたが、俺の手はピコピコ耳付きの少女の頭を撫でるばかりとなってしまった。


「何してんの?」

(俺こそな!!)


リイナは顔を上げ、にへらと少々間抜けそうに笑う。

可愛い。

うわ、猫シッポをぱしぱし動かしてもいる。


シッポを動かす?


俺は周囲の気配を探る。

猫のシッポ振りは犬の喜び表現と違い、警戒警戒、という意味なのである。

ついでにムカついた時には、鞭のようにしてピシッと叩きつけてくる。


俺はリイナを抱えると、彼女にだけ聞こえるように囁いた。


「リイナ。どうしたんだ? 何か訴えたいことがあるのか?」


「レットが犬ばっかり見てるから、シッポ振る方が良いかなって」


うそ、初めてこいつに刺さったよ。

俺はやばいと腕からリイナを放りだす。


「安心しろ。俺は猫派だ」


リイナは両目をキランと光らせた。

それから、誰もが自分を可愛いと思うはず、と彼女が考えるポーズをとる。


「きゃふって感じで拳にした両手を顎のあたりに添えるそれはナシな。この間のピンクを思い出して冷める」


「くっそ。あのキャラ被りめ」


「おお。俺はこの素なリイナこそいいな」


「ふわあ。レットたら!!」

「レット、今いいかな?」


俺とリイナはアレンに振り返る。

アレンは俺だけと話したい顔付だった。

俺は魔眼鏡をリィナに返す。


彼女はアイテムドロップスキルで色々なものを拾うが、工夫、という盗賊スキルでそれらをより良いものに加工したりも出来るのだ。大きなアイテムボックス持ちな上に魔道具の魔改造能力。リイナは成長すればこんなに凄かったんだと、追放した奴らに自慢してやりたい。

(もうほとんど親心よ。だから断じてロリでは無い)


「リイナ、ちょっとアレンとフケる」


「レットとアレンは仲良しすぎ。あたしやお姉さまがお邪魔虫な感じ」


俺は軽く笑うと、リイナの頭を少々乱暴にぐしゃっと撫でる。

リイナは俺の妹と同じような目(この親父って奴)で俺を見上げ、俺はその目付きこそ嬉しいと、さらにリイナの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。


「レット酷いです」


「悪い、ついじゃれてしまう。俺はお前が生まれた時から一緒って感じでさ」


リイナはかあああと真っ赤になり、ぱっと俺から顔を背ける。

獣耳も照れると赤くなるんだな、先っぽが。可愛い。


「……行ってらっしゃい」


「すぐ戻る」


俺はアレンと歩き出す。

いや、途中から俺はアレンを追う形だった。

珍しく俺達は無口なままで、山の中をしばらく歩いていた。

俺達はどこに行くでもない。リイナとシャンナを残した野営地から少々離れた場所に向かってるだけだ。そこに辿り着けば、アレンは防音結界を張る。


「今回だけは物々しいな」


「あの二人には聞かせたくない」


「だな」

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