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冤罪は非のない所には立たない

俺とアレンは指名依頼について、シャンナには辛いのではないだろうかと思いやった。そんな俺達に対し、シャンナは笑顔を返す。


「心配なさらなくとも、王子への気持など一片も残ってませんから大丈夫ですわ。それに王直々の依頼ならば、勇者チームの私を投獄するなんてできないでしょ」


え? とアレンはシャンナの返しに固まる。

俺こそ驚いて上ずった声が出た。


「投獄って、王子を殴った程度でか? 灰色も王子も君がちゃんと怪我を修復してやっただろう? そもそも決闘で負けてごねる方がみっともないというのに。フランドール国はそんな腐った国なのか?」


「そっちじゃなくて、私が国外追放される理由にされた冤罪があるから。三年前に王妃主催のティーパーティで毒が盛られて、参加者の全員が食中毒になった事件があったの。その犯人が私だそうよ。それで私は貴族籍を失い国払いになりました。めでたしめでたし」


「で、まだ冤罪は晴れていない、と? それで婚約破棄されたのか」


「違うわ。婚約破棄の方が先。王子の方が有責だって本当はみんな分かっていた。だから邪魔な私を国外追放にするための冤罪よ。あの頃あの国で起きた悪いことは、全部私のせいにされたの。本当に針の筵だった」


「シャンナ」


「でも食中毒事件だけは私のせいかも。だって、ピンクが持ち込んだムースケーキが腐っているってことを誰にも教えなかったもの。でも、お茶会の出席者全員がその腐ったムースケーキを食べて苦しんだって聞いて、胸がすっとしたのも事実ね。あの時の私はまだ十六歳だったのだもの。ざまあな気持ち全開だったわ」


…………。

俺は改めてシャンナを見つめ返した。

彼女は当時のことを思い出したのか、とっても楽しそうにクスクス笑い出した。


「ふふ。凄まじかったそうよ。気取り返った貴婦人達が塩をかけられたナメクジみたいにうねうねして、上から下から汚物を垂れ流していたんですって。ざまあ」


たぶんアレンも、いや、ここにいるシャンナ以外の全員が、俺と同じような感じでシャンナを見つめていると思う。

やばい奴、と。

ほら、ギルマスなんて、顎が外れた様な顔になっている。


「うわあ、ヤな奴ら全員ざまあだ。でも、どうしてピンクのケーキが腐っているとお姉さまだけがわかったの?」


……シャンナの手下のリイナが、シャンナに呆気に取られるはずなどなかった。

シャンナよりも恐怖の対象となりたいのか、彼女はもっと知りたいとウキウキ顔をシャンナに向けている。

シャンナこそリイナに笑い返す。


「夏の暑い最中よ。生の材料ばかりのムースケーキが翌日まで持つと思う? それも壊れた保冷庫に一昼夜入れっぱなしだったそれよ。ケーキが傷んでいると考える人が私一人しかいなかった事で私こそ驚きよ」


「ねえ、保冷庫が壊れていることをピンクは知らなかったの?」


「あの人はケーキを作れないの。でも凄い目立ちたがり。だから珍しいムースケーキをこれ幸いと盗んでしまったのでしょうね。盗んじゃったどうしよう。そうだ、誰も使ってなさそうな保冷庫に隠しましょう。かしら。誰も使っていないのは壊れているからなんて、どうして考えなかったのでしょうね。泥棒する人って浅はかね。いいえ、浅はかだから泥棒するのね」


シャンナは憐れむ口調ながらも楽しそうであり、左手中指に嵌っている魔石つきの指輪をわざとらしく弄っている。これは言外に、自分が城の保冷庫の魔石を抜いたか壊してやった告白かな、と俺は何となく理解した。


恐らく「ピンクに腐りやすいケーキを盗ませて壊れた保冷庫に隠させる」まで、シャンナの仕込みのような気がする。

そしてシャンナが実行した、ケーキ腐らせ誘導と保冷庫ぶっ壊しの件については、未だに誰にもバレていないらしいということか。


そんな悪党が、「毒混入」など誰にでもできる犯罪の犯人だと吊るし上げられたのならば、かなりプライドを傷つけられただろう。


「冤罪で苦労したね」


「ええ。やってもいない事で責められるのは本当にムカつくわ。責めるんだったら、腐ったケーキを出した恥知らずピンクだって言うのに。あ、いいえ。いくらケーキが酸味がある材料による仕立てでも、口に入れても傷んでいるのもわからない馬鹿舌の方々こそ責めるべきね。犬でさえ食べないでしょうに」


ニコニコって微笑んだシャンナは無駄に善良そうで、尚更に怖かった。

これならばフランドール国に連れて行っても大丈夫かな、と俺だけでなくアレンもギルマスも考えたようだ。

その後はいつもの俺達と思えない、茶々も無いまま指名依頼についての話し合いが執り行われた。

もとAランクダンジョンに住まうしかない身の上の集団を排除するクエストなど、反吐が出そうだと思いながら。


ああ、冒険者を辞めてえ。

なぜ婚約破棄されたシャンナが王城にいたのかは後々本人に言わせますが、今後の物語で別に重要では無いので追記します。上でシャンナ自身が言っていたように、当時の彼女は悪い出来事あれば全部彼女のせいだとされていました。実際何もしていないので、シッポが掴めない(当たり前)。よって監視しやすいように王城に幽閉し、しかし悪さがしやすいように(証拠掴むんだ)監視つけた状態で城内で自由にさせていた、です。

監視の目をかいくぐって本気で悪さをしたシャンナさん凄い、とレットが脅えた回でした。

というか、王子の婚約者がシャンナが作ったムースケーキを盗んだ現場を目の当りにした監視役が、それ報告できるかって奴ですね。

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