さあダンジョン攻略だと意気込むや舞い込む指名依頼
王子チームはギルドに苦情を申し立てたようだが、互いに起きたことは無礼講と王子も認めていたということで不問となった。てか不問にした。
盗賊職のリイナ様が、王子がシャンナにメタメタのボロボロにされるさまを隠し撮りしていたからだ。
美貌の男が顔を腫らした姿で土下座をし、泣きながら謝罪をする姿はかなりくる。
一生の黒歴史になるだろうと想像できるぐらいに。
さすが盗賊職。
盗み撮りした記録を魔石に保存できるスキルがあったとは!!
リイナよ、お手柄だぜ。
しかし俺達にお咎めは無くとも、ギルド的には何かあったかもしれない。
ギルマサの剃り込みというかM字禿げが、さらに深く尖った気がするのだ。
だが彼はもともと野獣系の強面が売りな人なので、彼の前髪の後退に俺達の誰も罪悪感を抱かなかった。同情してもギルマスのM字に補填される毛など、今後出現することは無いだろうし。
「君達と私は長い付き合いだ。君達がどういう奴らかは知っている。だが私は一地方にあるギルド支部のギルドマスターでしかない」
今さらかしこまってどうした?
ギルマスは彼の前に座る俺達の前に、羊皮紙を叩きつけた。
「新たな指名依頼だ。王子接待という前回の指名依頼は王子側が引き下げたが、その代りとしてフランドール国王直々に依頼してきたものだ」
アレンは羊皮紙に書かれた依頼内容を目にして、今から通り魔になりそうな凄みを帯びた陰鬱な顔つきとなった。
たぶん俺もそうだろう。
「君達のお陰で第二王子に任せるはずの討伐が出来なくなったと仰せだ。王子達よりも実力がある君達ならば達成できると期待しての、これ、らしい」
ギルマスの声にも皮肉が籠っているなあ。
フランドール国王が俺達に課した指名仕事は、王子の件に対しての単なる報復依頼であった。
内容が嫌がらせこの上ない。
フランドール国の北方にある踏破済みのAランクダンジョンに、三年前から居座ってコミュニティを築いている集団がいる。彼等への殺戮殲滅作戦であるのだ。
「だが断る」
「お前には聞いてない。アレン。指名依頼が蹴れないことは君にはわかるな。そこのデカブツには分からなくともな!!」
指名依頼を受けることは、駆け出し冒険者には憧れだ。
指名されるのは名前が売れているが前提であるし、指名だからこそ依頼者からの厚遇を受けられる上に貰いが大きいからである。
ああ、俺も勇者チームみたいに指名を受けたい。
指名を受けられるようになったら、同じパーティのあの子と結婚するんだ。
そんな死亡フラグを心に抱き、実際に指名を受けるようになって夢は人が見る夢であるから儚いと理解するのだ。
それは指名依頼というシステムが、銭ゲバな人でなしが考えただろうとしか考えられないぐらいに、冒険者側には「糞」でしか無いからだ。
達成できなければペナルティ料の支払いが発生するのは普通のクエストと同じだが、依頼を断るだけで依頼料半分のキャンセル料というペナルティが付く。
依頼達成まで依頼主の犬になれと?
「ばあか。断るよ。キャンセル料? 俺達全員冒険者を辞めりゃいいだけだ。その場合はチャラだろ? なあ、アレン。誰もいない辺境行って、自給自足生活でのんびりスローライフ。憧れねえか?」
アレンは微笑んだ。
夢見るような微笑み方で、俺こそどうしようもないな、と覚悟を決めた。
俺はお前に追放されない限り、こうしてズルズルいくんだろうな。
「わかった。お前も一緒じゃ無きゃスローライフは楽しめねえ。つきあうよ」
「ありがと」
「いいよ」
仕方が無いじゃないか。
俺が冒険者を辞められても、アレンは勇者を辞められないんだ。
それで俺は同じテーブルについている仲間二人に振り返る。
「お前らは残れって、痛い。こらシャンナ、脛を蹴るな!!」
「私達はチームじゃないの」
「あたしらを置いてくなんてレットの鬼!!」
「だけどよ」
「俺もレットと同じ気持ちだ。この依頼は危険すぎる。リイナとシャンナはここで待っていてくれ。それにシャンナ、君はフランドール国に帰りたくは無いでしょう? 無理をしなくていいんだよ」
シャンナはアレンに感謝いっぱいの笑みを返した。
(俺には? アレンと同じ気持ちである俺への感謝の視線はどうした!!)
その笑みは子供っぽく、王子達に傷つけられる前のシャンナがいた様な気がした。
きっと彼女は王子達の心無い仕打ちさえなければ、こうして花のように笑える可憐な伯爵令嬢でいられた事だろう。
「心配なさらなくとも、王子への気持など一片も残ってませんから大丈夫ですわ。それに王直々の依頼ならば、勇者チームの私を投獄するなんてできないでしょ」
え?
投獄ってやばくね?




