可愛いが腐った正義を振りかざす
リイナは呆気にとられた人々の視線の中、決闘用フィールドの真ん中で座り込み、ぐすぐすとあどけない可愛らしさいっぱいで泣いている。
え?
お前決闘中じゃ無かったのか?
だがしかし、誰もリイナに何も言わない。
ぐすんぐすんと幼児のように泣いている姿は、あざとすぎますリイナちゃん、激カワありがとうございます。なのである。
決闘中だよとリイナに注意した奴こそ、空気読めない、と糾弾されそうだ。
ほら、決闘場に立つ騎士達が全員、リイナ方向へ身を捩って、大丈夫かな、と慰めようと上げたはいいけどどうしような右手、という困った格好になっているじゃないか。
「騎士職はロリ嗜好標準装備なの?」
「黙れ、シャンナ」
「ぐす。怖いですうう。あたし、戦闘員じゃないのに、攻撃して来るなんてひどいですううう。どうしてあたしに魔法をぶつけてくるんですかあ」
弱っちお前だからこそだよ、とはピンクは答えられないだろう。
ピンクこそ、今の状況での自分の立ち位置に気が付いたって顔をしている。
これでは守ってあげたい可愛いらしい人、というポジションを守れない。
実際、俺が言うのもなんだが、リイナの可愛らしさは神がかっている。
猫族だからだろうか。
拾った時は謙虚でビビりな可愛い子だったのに、家の子にした途端に十年前からここにいます的な太々しさに変わろうが、リイナは可愛いのだ。
可愛くとも胸に刺さらんが!!
(だから俺はロリでは無い断じて!!)
そう、刺さらないのはロリでない俺だけだ。
王子達の護衛にここにいる六名の騎士達は違う。
リイナの可愛さで洗脳されたみたいじゃないか。
ほら、リイナを慰め(物理的に頭をナデナデし)たくなった騎士達(右手下ろせよ言いたい)の無言の圧力が、のしのしとピンクに迫っている気までする。
リイナに決闘なんか仕掛けたピンクは、なんかやばくない? という顔付きとなった。さすが男を手玉にとれる人だけあって、男の機微には敏感みたいだ。
このままでは自分が、幼い美少女が気に食わないからと魔法で虐めた痛い人、という存在となってしまうと思い当たったようである。危機感マシマシで。
「え、えと、それは、だって、そんな、え? あ、ちがう~!!なしなし。これって無しだから。ただふざけちゃっただけだから、お終い。お終いですうう」
ピンクが、リイナに負けずと可愛い仕草で(くねくねさんと俺は呼びたい仕草だが)、声を上げた。
凄いな、リイナ。
身を切らせて骨を断つって、そうするのか。
これで有耶無耶にしてお終いか。賢いな。
しかし、俺の隣のアレンは、チっと舌打をした。
「あっちが終わり宣言ってことは、勝っちゃったか」
「え? そうなるのか?」
「ああ。どっちがよりか弱くて可愛いか競争になってる。負けた方が勝ちだ。これで、シャンナが勝っても負けても俺は出なきゃだね」
「どうして?」
「あの王子は負けを認められない、からでしょ」
「いや、せっかくだし、うやむやで終わらせようぜ」
「そういうわけにはいかないさ。見てごらん。可愛いを正義にした奴らの末路を。可愛いに流されて思考することを放棄した奴らの愚鈍さを」
俺はうちの猫を見た。
騎士達にいい子いい子されて、なんかお菓子とかハンカチとか色々貰っている。
リイナに贈れる気が利いたものが無い奴は、あ、あの金色に光るのは金貨か? 可愛い子をよしよしするためだけにお前は金を払うのか!!
「騎士道どうした!!踏ん張れ。簡単に頂かせちゃ駄目じゃないか!!」
「違う。俺が見て欲しいのは王子達の方」
俺はアレンの言う通りに王子達へと視線を動かす。
すぐに、ああ、と溜息交じりの声が出た。
あいつらってひどいのぉ、とピンクが王子と灰色に泣き縋っている姿だ。
そして王子と灰色の視線は俺達に、いや、俺とアレンの後ろに向けられている。
ぶち殺してやる、という憤怒に満ちた視線だ。
俺は後ろのシャンナを隠すためアレンに寄り、ついでに彼に肩をぶつけて囁く。
「――お父様に泣きつけないぐらいボコればいんじゃね?」
アレンは俺の肩に肩をぶつけ、ふふっと腹の底が冷える笑みを口元に作る。
俺は聖人君子で無いアレンを久しぶりに見れるとほくそ笑む。
「安心しなさいな。私が終わらせてあげる」
せっかく隠したというのに、俺達の間からシャンナがにゅっと体を出し、俺達の肩を両手で叩いてから決闘場へと歩いていく。
俺達が贈った、バーサク呪いマントをはためかせながら。
「あいつが何考えているのか想像つく?」
「つかないわけない。シャンナは自分が殴られて終わりにする気だ。だが俺はシャンナにかすり傷負わせた時点であいつら全員を潰す」




