表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/25

追放もしくは通報して

俺の職種はパラディンのタンク、である。

完全なる前衛職で、大魔法をぶっ放す前の時間稼ぎ、大物と一緒に湧き出てくる雑魚キャラが大物倒しの邪魔にならないように防ぎきる、など、つまり壁役だ。

戦闘においては有用職だ。


そんな俺が憧れるものは、パーティからの離脱、追放だ。


そもそも俺は戦闘なんかしたくない。

寒村で生まれた俺は、やせた土地を一生耕すだけの貧農になるか、貧農な親によって人買いに奴隷として売られるか、ぐらいの未来しかなかった。

ならば、村から逃げ出して冒険者になる方が良い。

冒険者だったら金持ちになれるかも、だろ。

その金で土地を買ってさ、畑を作ってねって、ハハハ、真面目に親の後を継げって話だな。


だが俺には村から逃げる道しかなかった。

二つ下の妹が口減らしで売られることになってね、どうせだからって逃げたんだ。


それで、今はそれなりに稼いだからさ、俺は引退したい。

ああ、追放してくれないかな。

ソロプレイもいいよね。

ほら、スローライフとか、採取生活で自由気まま、とかあるでしょ?

俺はそっちがしたいんだよ?

もう疲れちまった。


「お前は今日からクビだ」


俺は天からの言葉に喜び勇んで振り返ったが、その素晴らしき宣告を受けたのは俺では無かった。

俺が飲んでいたテーブルのすぐ横、おしめが取れたばかりのガキみたいに騒いでた奴らが、仲間外れにしていたらしいメンバーに向けた言葉だった。

リーダーらしき小汚い男に俺の夢の言葉を投げつけられた人物は、フードを被っているので顔などは分からないが、それでもやせっぽちな体つきがわかるので十代前半ぐらいの子供であろう。


「ど、どうして。今日だって言われた通りに」


冒険者登録したばかりの子供は、安全の観点から一人でクエストなど受けることができない。クエスト受けられなきゃ賃金が発生せず、飢え死になんだけどな。ギルドは人道的ってところに拘る。

だが思いっ切り現状を見ていない。

今の目の前で起きていることのように、子供は年上に食いものにされるのだ。

目の前のガキは見るからに、死なないために奴隷奉公に甘んじているのだろう。

あああ、俺も覚えがあるから嫌な感じだ。


「そんくらいの使いしか出来ないからだよ。そんな奴はここには必要ねえ。俺達はちゃんと戦えるメンバーが欲しいんだよ。お前抜かせば代りを入れられる。いいか、お前がいるせいで大事なメンバー枠を塞いじまってんだよ」


「じゃ、じゃあ、約束のお金ぐらい出して!!」


「うるせえんだよ」

ガタン!!


そいつはやせっぽちの仲間だったはずの相手を蹴り上げた。

その子はボールのように簡単に蹴り飛ばされ、壁に激突するところだった。


「おっと」


俺が子供の体を抱き留めたのだ。

この程度の肉体で壁に激突してしまえば、死ぬか後遺症が残る怪我が残るだろう。

子供を蹴ったリーダーは、子供が怪我をする事こそ希望だったようだ。


「なんだ、てめえ。邪魔す――」

「ばかばか、勇者チームのタンクだ」


いきり立ったリーダーを抑える男が、俺の正体に気が付いたらしい。

ならば、と俺の腹は決まった。

騒乱を起こして、クビ、いいねえ。

俺は子供を抱いたままそいつの前に出ると、そいつを蹴りあげた。


ドオオオオン。


そいつは天井にまで飛んで、そして床に落ちた。

そいつのパーティは青い顔をして俺を見るばかりだが、俺こそこの結果に呆然だ。


「お前ら、パーティの仲間ぐらい受け止めてやれよ」


「いや、あの」


「俺はこいつを上に飛ばしてやっただけだろ。お前らが受け止めてやらなかったから、こいつは骨折多数の大怪我になっちまったじゃないか」


「いや、ああ、あの」


「この程度も動けねえで冒険者気取んな。邪魔なんだよ」


俺は友達がいが無さすぎる奴らを一瞥すると、面倒だなと思いながら子供の体を抱き直して身を翻す。

拾っちまったのだから、治療院にぶち込むぐらいはしないといけない。


「バイヤン。酒代は迷惑料込みで置いてくぞ」

(二度と来るな。ギルドに通報するぞ、キタコレ、でお願いします)


「レット。お前は相変わらずだな。だがそこがいい」

(なんだとう!!オケ行為だったか!!)


赤毛のひげ面の店主が俺が投げた銀貨を受け取り、珍しくつり銭代わりのものを俺に投げ返して来た。

俺は面倒だと思いながらそいつを受け取る。

小さなリンゴは痩せっぽちのガキには丁度いい。

俺の腕の中の子供は気絶中の癖に、リンゴの香りに鼻をひくつかせた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ