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第5話 『さらに快適にスローライフ!』


 森での生活に少しずつ慣れてきた頃、知恵を得た魔物たちがさらに役立つ知識や技術を教えてくれるようになった。

 彼らとの暮らしは、以前の寂しかった日々が嘘のように充実している。


 ある日、ポルカが私のそばで跳ねながら森の中で食べられる果物を教えてくれた。


「聖女さま、こっちにおいしい果物があるよ!」


 ポルカが元気よく私を導いた先には、ツルで生る青いベリーがたくさんあった。

 私がベリーを摘もうとすると、ポルカが


「これは甘くておいしいけど、赤いツルの方は苦いから気をつけてね!」

 

 と教えてくれた。見分け方を学び、果物を摘む楽しさを知った私は、ポルカと笑い合いながら収穫を楽しんだ。


 果物を集め終わると、ガルムが持ってきた植物の葉を見せてくれた。


「この葉は火を起こすのに適している。乾燥しているからすぐに燃えるんだ」


 ガルムは蓄えられた知恵を活かして、焚き火を起こす方法を教えてくれた。


 私は初めて自分で火をつけることに挑戦し、彼が教えてくれる手順通りに葉を並べて、火を起こすための木を削る作業に取り組んだ。


「おぉ……できた!」


 火がふっと灯り、温かい炎が私たちを包む。炎を見つめながら、ここでの生活が少しずつ安定し、安心感が広がっていくのを感じる。


 ガルムは大きな体で静かに笑い、「よくやった」と励ましてくれた。


 その日の夕方、シオンが何かを口に咥えて帰ってきた。よく見ると、それはキノコや小さな果物の山だ。


「これは安全な食べ物だ……夜食にどうぞ」


「わっ……シオン喋った」


「そんなに驚かなくても……」


 シオンは寡黙ながらも、私のことをしっかりと気遣ってくれているのが伝わってきた。

 シオンが喋るのは珍しいことなのでなんだか喋るのを見るだけでこっちは嬉しくなってしまう。


 シオンの持ってきたキノコは料理に使えそうだったので、私はそれを少し炒めて食べることに挑戦することにした。


「うーん、料理なんて前はあまりしていなかったけど……どうやるんだろう」


 試行錯誤しながら、シオンが見守る中でキノコを少しずつ火にかけてみると、ふわっと香ばしい匂いが漂ってきた。


 夜になると、仲間たちと共に収穫した果物やキノコを囲んで、私たちはささやかな食事会を開いた。


 ポルカが「この果物おいしい!」と嬉しそうに体の色を変えたり、ガルムが「森の恵みは素晴らしいものだ」としみじみ語ったり、シオンがそっと側で目を細めて微笑んだりする姿が、私の心を和ませてくれる。


 ティオも静かに私の隣で笑みを浮かべ、「君がここに馴染んでくれて嬉しいよ」と言ってくれた。その言葉に、胸の奥が温かくなる。



 


 ******



 


 次の日、森の奥から新しい魔物が私を訪ねてきた。

 小柄なリス型の魔物で、「メル」と名乗った彼は、驚くほど機敏な動きで木々の間を駆け抜けている。


「君が聖女さま、だよね?前は知識をくれてありがとう!その時のことあまり覚えてなくて……森に来た人間って聞いて、ちょっと驚いたけど……仲間のために頑張ってるって聞いて、会いに来たんだ!」


 メルは活発で愛嬌があり、森の隅々まで知り尽くしているらしい。

 彼は森の実りの場所や安全なルートについて教えてくれ、彼のおかげで私はさらに快適に森の中を探索できるようになった。


 また別の日には、カラスのような魔物「クロウ」が私のもとにやってきた。

 鋭いくちばしと光る目を持つクロウは少し皮肉屋だが、実はとても頼りになる存在だ。


「聖女さま、森の向こう側で怪我をした魔物を見かけた。癒してやってくれないか?」


 クロウの言葉を聞き、私は急いで傷ついた魔物のもとへ向かい、癒しの力を施す。

 クロウは私の手伝いをしながら、


「森には危険も多いが、君がいればきっと安心できる」

 

 と小さな声で呟いた。

 普段はそっけないクロウだが、そんな彼見せた一瞬の優しさが嬉しく、彼とも少しずつ絆を深めることができた、そんな気がした。


 毎日が新しい発見と学びに満ち、魔物たちとの絆が一層深まっていく。


 それぞれの仲間が持つ知恵や技術が、私の生活を支えてくれている。

 彼らが私を家族のように受け入れてくれたことで、森での生活は心から楽しくなっていった。


 夜になると、私の小さな住まいに集まってくる仲間たちと一緒に焚き火を囲み、今日の出来事を語り合ったり、静かな時間を共に過ごしたりすることが日課になった。


 王都で無力だと冷たく扱われ、心が傷ついた日々が遠い昔のように思える。

 今では、ここで一緒に過ごす仲間たちがいることが私にとっての支えであり、安らぎそのものだ。

 この森でなら、私は必要とされていると心から感じることができる。


 ティオが、ゆったりとした口調で語りかけてくる。


「君がここでこうして私たちと過ごしていること、それが何よりも嬉しい」


 その言葉に、私の心はさらに温かくなる。

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