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第2話 『魔物の森』


 ティオが、森の中で生きるための知識を私に教えてくれることになった。


 彼の大きな体と、低く落ち着いた声が妙に安心感を与えてくれる。


 王都にいたときは冷たい視線ばかりを感じていたのに、今はこんな風に受け入れてくれる存在がそばにいる。

 それが、ただ嬉しかった。


「この森はな、人間からは『魔物の楽園』と呼ばれている。私たち魔物にとって、ここは数少ない安住の地だ。しかし、人間たちは時折ここに踏み入れ、無闇に私たちを傷つける」


 ティオは、森の木々を見つめながら静かに説明を続けた。

 王都の奴らはきっとここが『魔物の森』だと分かっていてここに私を置いていったのだろう。悪い奴らだ。

 

 彼の話を聞いているうちに、この森がただの自然の場所ではなく、魔物たちにとって特別な意味を持つ場所なのだとわかってくる。


「私はここで暮らしていても……いいの?」


 ふと、不安げに尋ねてしまった。

 異世界に来たものの、聖女としての力も発揮できず、王都から追放された私には、ここで生きる資格などないのではないかという気がしていた。


 だが、ティオは迷いなく頷き、私に向かって優しい眼差しを向ける。


「君は、私を癒してくれた。この森の魔物たちにとって、君の力は大切な存在だ。だからこそ、ここで共に暮らすことは歓迎されるだろう」


 その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

 初めて、自分がこの世界で役に立つ存在でいられるかもしれないという希望が湧いてくる。


 もしここで、魔物たちの役に立てるなら、そして少しでも癒しを与えられるのなら──それはきっと、私がここにいる意味になる。


「わかった、ここで生きることにする!でも、森の生活は私には未知の世界だから…色々と教えてくれると嬉しいな」


 ティオが「もちろんだ」と頷いてくれた瞬間、なんだか心が軽くなった気がした。

 そうして私の森での生活が始まった。



 


 ******



 


 ティオはまず、森での生活に必要な基本的なことを教えてくれた。


 例えば、どの植物が食べられるもので、どの果実が危険なのか。

 初めて見る奇妙な形の果実や鮮やかな色のキノコに驚きつつ、ティオの指導で一つずつ覚えていく。


 おかげで、森の中で食べ物を見つけられるようになった。


「君がこれを食べると良い。食べ過ぎると少しお腹を壊すが、少量なら問題ない」


 彼が教えてくれた赤紫色のベリーは、少し酸っぱく、どこか懐かしい味がした。


 こんな風に、私が生きる術を学ぶ日々が続いていくうちに、私は少しずつこの森に馴染んでいくのを感じた。

 森の空気は王都とは違い、どこか温かく、心が落ち着くような感覚がする。


 そしてティオが水場へと案内してくれた。森の奥には清らかな小川が流れ、澄んだ水がキラキラと輝いていた。


 私は無我夢中で顔を洗い、手ですくって飲んでみた。ひんやりとしていて、体中がリフレッシュするような感覚が広がる。おいしい……。


「ここが君の住み家になるのなら、この川の水は欠かせないだろう。私もここでよく水を飲む」


 ティオは楽しげに言い、私にとってもここが新たな生活の拠点となることを実感した。

 ここにいれば、十分に暮らしていける。そんな自信が少しずつ湧いてきた。


 そしてティオとの時間が増えるにつれて、私の心の中にあった孤独感や不安が、少しずつ和らいでいくのを感じた。

 夜になると、彼は私のそばで体を丸め、体温を分け合うようにそっと寄り添ってくれる。

 彼の存在があるだけで、私は森の中でも安心して眠れるのだ。


 そんなある日の夜、私はポツリと呟いた。


「ティオ……、ありがとう。追放されて一人ぼっちだと思っていたけど、あなたがいてくれて…ほんとに助かってる」


 ティオはしばらく私の顔をじっと見つめてから、低い声で優しく言った。


「私も君がいてくれて嬉しいよ、人間。君の癒しの力で、私の中にも新しい力が芽生えた。今度は君が困った時、私が助けてやろう」


 その言葉に、思わず涙がにじんだ。ティオに出会えて、本当に良かった。


 王都にいたときの孤独な日々はもう過去のことだ。私はティオと一緒にいることで、確かに心が救われている。


 その後、日々は静かに過ぎていった。ティオがいない時間は、私は森を歩き回り、新しい発見をするのが楽しみになっていた。


 森には、初めて見る植物や生き物がたくさんいて、毎日が新鮮だ。何よりも、この場所で、私は誰からも無視されず、追い出される心配もない。


 私は森での生活を通じて、少しずつ自分の力に自信が持てるようになっていた。

 ティオや、この森の他の魔物たちと共にいると、私は決して「無力な存在」ではないと感じる。

 魔物たちにとって、私は癒しの存在なのだから。


「ここでなら、私……本当にやっていけるかも」


 そう思えるようになった時、私は本当に森での生活に馴染んでいた。


 この森は、王都から見放された私にとって、かけがえのない居場所となりつつある。そして、ここで生きていく決意が、心の底から湧いてきた。








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