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第22話 『新しい居場所』


 翌朝、冷たい朝露が森を覆う中、私はリュカやポルカ、そしてメルたちと一緒に傷ついた難民たちのもとを訪れた。


 彼らはやはり疲れ切った様子で横たわっていたが、私たちが近づくとわずかに目を開き、安心したような表情を浮かべる。


「聖女さま……どうか、また助けていただけませんか?」


 年配の男性が申し訳なさそうに私に頭を下げる。


 よく見てみると彼の腕には傷が残り、動かすたびに顔を歪めていた。


 彼だけでなく、他の難民たちも皆、王都から逃げる間に負った怪我や病気に苦しんでいる様子だった。

 

 私の癒しの力は魔物だけ、人間には効かない、そう思いながらも少しだけ試してみたくなった。

 この人たちを、苦しんでいる人たちを助けてあげたいってそう思った。


「ここで少し、私の癒しの力を試させてください」


「……」


 私は静かにそう告げると、傷ついた難民たちに手を伸ばし、集中して癒しの力を発動させた。


 王都にいた頃は誰にも効果がなかったこの力。


 しかし淡い光が私の手から放たれる。


 じわじわと温かい力が広がり、彼らの傷が癒えていくのが感じられる。

 

 今ここで彼らの痛みを和らげ、傷を癒すために使われることが、何とも言えない不思議な感覚をもたらしていた。

 

 難民たちは驚いたように体を動かし、痛みが和らいでいることに気づいて涙を流し始めた。


「こんなに素晴らしい力を持っているなんて……本当に、あなたは真の聖女さまなのですね」


 年配の男性が震える声でそう言い、私の手を握りしめて感謝の言葉を伝えてくれる。

 その手の温かさと感謝の気持ちが、胸の奥深くまで染み渡った。


 その後、他の難民たちも、私が癒しを施したことで体が楽になり、次々と感謝の言葉を口にする。

 幼い少年も、体が軽くなったことに気づいて嬉しそうに笑顔を見せてくれた。


「ありがとうございます……ここまで来た甲斐がありました。ここが私たちの新しい居場所になれば……いえ、ここに勝手にそちらのご厚意で止めて貰ってる身なのでそちらに一任します……」


 ここに住みたい、そのような言葉を言いかけたが、遠慮なのか、言葉を取り消した。


 しかしそんな彼らの言葉に、私はふと使命感のような感情が芽生えた。


 私はこの癒しの力が、この森の魔物だけでなく、人間にも必要とされている瞬間を初めて体験した。

 ここで皆と共に新しい平和な暮らしを築いていきたいと強く感じたのだ。


 メルやポルカたち魔物たちも、難民たちを温かく見守っている。

 ティオは黙って食料を用意し、シオンは少し離れた場所で見張り役を引き受け、リュカは冷静に全体の状況を見渡している。


「聖女さま、俺たちもここで新しい生活を築いていこうよ。人間も、魔物も一緒にさ」


 何かを察したのかメルがそう言ってくれた時、私の心には一つの確信が生まれた。


 この森が、人間と魔物が共に暮らす新しい形の平和な居場所になる可能性があるのだと。


「分かりました、じゃあ皆さんここで私たちの新しい生活基盤を、村を作りましょう!そしてみんなで仲良く暮らしましょう」


「ほんとですか……!ありがとうございます聖女様、なんとお礼を申し上げたら良いか」


 こうやって頼りにされるのは案外悪くない。

 王都にいた頃とは大違いだ。





 ******



 


 その夜、難民たちと魔物たちが焚き火を囲んで共に食事を楽しむ姿が見られた。


 最初は恐る恐るだった難民たちも、メルやポルカ、リスたちの親しみやすい性格に助けられて、次第に打ち解けていく。

 幼い少年は、メルに抱きついてはしゃぎ、年配の男性も、ポルカが差し出した温かなスープをゆっくりと味わっていた。


 焚き火の炎がゆらめく中、難民のひとりが静かに口を開いた。


「……この森でこんな風に皆さんに支えられていると、本当に自分たちにとってもここが新しい居場所であるように思えてきます」


 その言葉には、かつて追い出された王都への未練は感じられず、新たな生活への期待が込められていた。


 私は彼らの表情が、心からの安心と希望に満ちていることに気づき、魔物たちも同じように穏やかな笑顔を浮かべているのを見て、胸が温かくなった。


「──これからも、みんなで力を合わせてここで暮らしていきましょう。人間も、魔物も、関係なく一緒に」


 私がそう言うと、難民たちは深くうなずき、魔物たちも微笑みを浮かべて賛同してくれた。


 この森が、すべての生き物にとっての「家」として根付いていくことを私は確信した。


 王都での辛い日々が、今では遠い過去のことに感じられ、この森での新しい生活こそが、私にとっての本当の居場所であると、心の底から実感した夜だった。

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