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第21話 『真の聖女様』

 難民たちは魔物たちの助けと、森の平穏な空気に包まれて少しずつ元気を取り戻し始めた。


 彼らの疲れ切った表情が和らいでいくのを見て、私も安堵の気持ちに包まれた。


その夜、焚き火を囲んで皆で食事をしていると、難民のひとりがポツリと話し始めた。


「私たちは……王都がこんな風になるなんて思いもしませんでした。貴族たちは自分たちだけが助かることしか考えなくて、私たちのような者は見捨てられるばかりで…」


 その言葉に、他の難民たちもうなずく。


 彼らは皆、王都の混乱に巻き込まれ、家族や友人を失い、苦しい生活から抜け出すためにここまで逃げてきたのだという。


 王都での生き延びるための戦いと、それによって失った日々が、彼らの顔に悲しみの影を落としていた。


 そんな彼らの話に、メルやポルカたち魔物たちは静かに耳を傾けていた。

 ポルカが温かいスープを注ぎ、少年に差し出すと、少年は感謝の表情を浮かべながらスープを飲み、ほっとしたように体を休めていた。


「……この森の人たちは、どうしてこんなに優しいんですか?僕たち、人間なのに…」


 少年の疑問に、メルが優しい笑顔を浮かべながら答えた。


「私たちは聖女さまがいるから、ここで穏やかに暮らしているんだよ。聖女さまが、みんなを受け入れてくれるから、僕たちもそうしてるんだ」


 彼の言葉に、難民たちは驚いたように私に視線を向けた。

 王都で「無能」として追放された私が、こうして森で皆と共に生きている事実に、彼らは驚きと感謝の眼差しを向けているのだと感じた。


 夜が更け、難民たちが焚き火のそばで休んでいると、ある女性が私に静かに話しかけてきた。


「あなたが本当の聖女さまだったんですね。王都では、力がないと非難されていたと聞いていましたが……私たちにとっては、まさに『真の聖女』です」


 彼女の言葉に、胸の奥が温かくなるのを感じた。


 彼女が話す「真の聖女」という言葉には、王都での地位や力とは全く異なる意味が込められている。


 それは、ここで仲間たちと築いてきた信頼や愛情に基づくものであり、私が求めていたものそのものだったのだ。


「ありがとうございます。でも、私ひとりでは何もできなかったと思います。ここで皆が助け合って暮らしているからこそ、私も自分らしく生きていられるんだと思うから……」


 私の言葉に、彼女は深くうなずき、感謝の気持ちを込めた微笑みを浮かべた。

 その姿を見ていると、かつての王都での孤独な日々が遠い昔の出来事のように思えてきた。


 その後も難民たちは次第に森での生活に慣れていった。

 少年はメルやポルカと仲良くなり、時折魔物たちの真似をして遊ぶ姿が微笑ましかった。


 他の難民たちも、ティオやリュカたちの案内で森の資源を活用する方法を学び、魔物たちが作ってくれる食事や薬草の知識に驚きつつも、それらを受け入れ始めていた。


「この森って、不思議な場所ですね。まるで全てが整っているような、安心感があります」


 ある難民がそうつぶやくと、ティオが冷静な表情で答えた。


「ここは君たちが知っている世界とは少し違うが、この森には誰でも受け入れる寛容さがある。だが、それを守るのは私たちの役目だ」


 ティオの落ち着いた言葉に、難民たちは尊敬の眼差しを向けた。

 彼らは、魔物たちが森を大切にし、ここで暮らすために力を合わせていることに気づき、次第にその思いを理解し始めているようだった。


 そして数日後、難民たちがある程度回復し、再び旅を続けるかどうかを悩んでいる様子を見て、私はそっと彼らに声をかけた。


「ここで新しい生活を始めるのもいいと思います。無理に出て行かずに、しばらくここで休んでいてもかまわないですよ」


 意外だったのか難民たちは驚いた表情を浮かべ、感謝の言葉を口にした。

 自分たちがここで本当に受け入れられているのだと感じている様子だった。


 難民たちの中には、今後の暮らしに不安を感じていた者も多かったが、次第に私や魔物たちとの交流を通じて心の安らぎを見出し始めていた。


 彼らが「真の聖女」として私を受け入れ、感謝の気持ちを伝えてくれることで、私自身もまた、ここでの暮らしが新しい希望に満ちたものであることを実感することができた。


 こうして、森の中に新たな繋がりが生まれ、私たちの生活はさらに豊かで温かなものとなっていく兆しが見え始めた。

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