第19話 『冬到来』
秋の気配が去り、森に冷たい風が吹き始めたころ、私たちは本格的な冬支度を進めることにした。
ここでの冬を仲間たちと共に快適に過ごすため、食料や薬草、そして暖を取るための準備を整えなければならない。
「冬は寒さが厳しいから、しっかり備えないとね」
私がつぶやくと、リュカが落ち着いた表情で頷き、森の地図を広げて説明を始めた。
「森の北側には枯れ木や落ち葉が多く、南の草地にはまだ使える薬草も残っています。みんなで手分けして集めれば、備蓄を整えられるはずです」
リュカの的確な指示に、メルやリスたちは目を輝かせて「集めに行ってくる!」と元気よく返事をしてくれる。
ティオも大きな袋を用意し、「よし、私も手伝おう」と気合を入れている。
まず、シオンが狩りを担当し、川辺の小さな動物を捕まえてくれることになった。
シオンは黙々と森の奥へと姿を消し、頼もしい背中を見送りながら、私は残りの仲間たちと一緒に、住居の補強に取りかかることにした。
「今年の冬は寒そうだから、木の壁をもっと厚くしておかないとね」
ポルカが落ち葉と木の枝を使って壁を補強し、寒さが入り込まないように細かく隙間を埋めてくれている。
私も一緒に手伝いながら、みんなの協力でこの森がどれだけ住みやすくなるか、心の中で期待が膨らんだ。
やがて、リュカが北側の木々から集めてきた大量の薪を運んできてくれた。
彼は冷静に周囲を見回し、暖炉の配置や、効率的な燃料の使い方についてアドバイスしてくれる。
「これだけあれば、しばらく暖かく過ごせるはずです焚き火も効率よく使いましょう」
リュカの聡明な提案に、みんなで感謝の言葉を伝えながら、焚き火の周りに薪を積み上げる。
リスたちも小さな手で運びやすい枯れ木をせっせと集めて、すっかり準備が整っていった。
次に、食料の備蓄にも手をつけることにした。
ポルカが収穫した木の実や果物を使って、保存食の調理を始める。
メルも「手伝う!」と笑顔で加わり、みんなで調理したものを瓶に詰めて、冬の間に役立つ食料として保存する。
「これで食べ物も困らないね」
ポルカが嬉しそうに言い、ティオも「お腹いっぱいになるくらいは用意できたな」と満足げにうなずいた。
一通りの準備が整い、夜になって焚き火を囲みながら、今日の成果をみんなで確認した。
住居は強化され、食料や薬草も揃い、暖を取るための薪も十分にある。
こうして仲間たちと協力して準備を整えることで、森での冬がどれだけ安心できるものになるかを実感した。
「これで、どんなに寒くなっても大丈夫だね」
私がそう言うと、メルやリスたちはにこにこと笑い、リュカも静かに微笑んでいる。
ティオは改めて「君がここにいてくれるからこそ、皆が一つになれるのだ」と言ってくれ、その言葉に胸が温かくなるのを感じた。
夜空を見上げながら、私はこの森で過ごす日々がどれだけ充実しているかを改めて感じていた。
王都の混乱とは無関係な場所で、仲間たちと助け合いながら暮らすことに、心からの喜びを覚える。
「ここで、みんなと一緒に生きていくことが、私にとっての本当の幸せなんだ」
静かにそう心の中でつぶやき、私は仲間たちと共に暖かな焚き火に包まれて、穏やかな夜を楽しむのだった。
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そして冬が訪れた。
冬が訪れ、森は一面の雪に覆われていた。
凍てついた空気の中で深呼吸をすると、冷たいがどこか澄んだ気持ちになる。
私たちは、仲間たちと協力して備えた冬支度のおかげで、雪の中でも安心して暮らしていける準備が整っていた。
ある朝、暖を取りながら皆で朝食をとっていると、ティオが満足そうに周りを見渡して言った。
「こうしてみんなで食べると、寒さなんてへっちゃらだな!」
ポルカがうなずきながら笑顔を見せ、「本当だよね。冬の間もこうやって美味しいものが食べられるのは、みんなで備えたおかげだね」と応える。
その言葉に、胸がじんわりと温かくなるのを感じた。
昼頃になると、シオンが雪の中での狩りに挑戦しようと提案してくれた。
彼は寡黙な性格だけれど、狩りに関してはどこか自信に満ちている。
シオンが森の奥に向かって黙々と進んでいく姿を見送りながら、私たちは、暖かくして彼が戻ってくるのを待った。
シオンが戻ってくると、彼の手には小さな動物が捕らえられていた。
無言で狩りを終えたことを報告し、少し誇らしげな顔をしている姿に、みんなも拍手と歓声で彼を迎える。
「すごいよ、シオン!雪の中で狩りをするのは簡単じゃないのに」
私が感謝を伝えると、シオンは短く頷き、少し照れくさそうに目をそらした。
嬉しいのかしっぽがめちゃくちゃフリフリしてた。可愛い。
みんなの協力で、美味しい冬の食材がまた増えたことが心から嬉しかった。
夜には、焚き火を囲んで温かな食事を楽しんだ。ポルカがシオンの狩りで得た食材を調理し、香ばしい香りがあたりに漂う。
焚き火に照らされたみんなの笑顔が、いつにも増して幸せそうに見える。
「この森で過ごす冬って、寒さがあっても不思議と心は温かいよね」
メルがそうつぶやきながら、にこにこと焚き火の暖かさに手を伸ばす。
リスたちも小さな手で温まりながら、「ここにいると安心だよね」と小さな声で話している。
その光景を見ていると、私はこの森がどれだけ「本当の居場所」だと感じられるか、改めて実感する。
夜空を見上げると、満天の星が雪に反射して輝いている。
ティオが空を見上げながら、「君がここにいることで、森がより安らぎに満ちているように感じる」と言ってくれた。
その冷静で優しい言葉が、何よりも心に響いた。
「本当に、ここが私の居場所なんだね」
私は静かにそうつぶやき、仲間たちが周りにいてくれることの幸せをかみしめた。
やがて、年の瀬が近づき、森の中でも新年を迎える準備が始まった。
ポルカとメルが森の木の実や花で飾り付けを考え、リスたちは小さなリースを作って部屋を彩ってくれる。
みんながそれぞれに工夫し、新しい年を迎えるための準備を楽しそうに進めていた。
新しい年を迎えるその夜、焚き火を囲んでの温かな食事と、みんなの笑顔に包まれながら、私は森で過ごす日々が何よりもかけがえのないものであることを、心の底から感じた。
「これからも、みんなでここで楽しく暮らしていこうね」
私の言葉に、仲間たちは笑顔で応えてくれた。




