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第1話 『ドラゴンが喋った!?』

 森の中で孤独な夜を過ごし、朝が訪れたころ、私はぼんやりとした頭で目を覚ました。


 空腹で体は重く、昨夜の涙のせいで目が腫れているようだった。

 ここは広大な森の中、助けもない。途方に暮れても、現実が変わるわけではない。


「どうしよう……」


 不安を感じながら森を歩き始めたその時だった。どこかから微かにうめき声が聞こえてきた。

 人間の声ではない、何か重く低い、苦しげな唸り声だ。

 何だろう?自然と足が声の方に向かってしまう。

 普段なら警戒するのだろうが、なんだか今は生きることにどうでも良くなってしまっていたので危機管理能力が正常に働いていなかった。


 木々の間を抜けて、声のする場所に近づくと、そこには……傷だらけの大きなドラゴンが横たわっていた。


 灰色の鱗に覆われたその体は、二メートルほどの大きさで、足や体に大きな傷がある。

 どうやら他の生物との戦いで負傷したようだ。

 大きな瞳がかすかに開かれて、私を見上げている。

 まるで、何かを訴えているかのように。


「ドラゴン……?」


 動揺しつつも、私はその場に立ち尽くしてしまった。

 まさかドラゴンと遭遇するなんて想像もしていなかった。


 しかも、目の前にいるこのドラゴンは、今にも命を落としそうなほどに傷ついている。

 恐ろしい姿であるはずのそのドラゴンに、どこか哀れみのような感情が湧き上がった。

 私を襲うような気力も残っていないのだろう。


 次の瞬間、ある考えが私の中に浮かぶ。

 私の「癒しの力」は、人間には全く効果を発揮しなかったけれど、もしかしたら魔物には効くのかもしれない。

 思いつきでしかないが。


「どうせ役立たずって言われて、追い出されたんだし……」


 半ば諦めの気持ちで、私はドラゴンに向かって両手を伸ばし、再び心の中で祈った。


 『癒しの力よ、どうか…このドラゴンに』


 すると、手の中からぼんやりと光が生まれ、ドラゴンの体に降り注いでいく。


「──えっ?」


 驚きの声が漏れる。私の手から放たれた光が、ドラゴンの傷口を包み込むと、次第にその傷がみるみるうちに消えていくのだ。

 体中に広がっていた無数の傷が一瞬で塞がれ、痛々しい痕跡すら残らない。


「すごい……!」


 私の癒しが、確かにドラゴンに届いた。

 初めて、自分の力が役に立った瞬間だった。


 何も起きなかった王都での屈辱的な日々とは違い、ここでは力が発揮されたことが嬉しく、驚きと感動で胸がいっぱいになる。


 その時、目の前のドラゴンがゆっくりと体を起こし、こちらを見つめた。

 そして──


「ありがとう、人間」


 ──え?今、喋った…?


 一瞬自分の耳を疑ったが、目の前のドラゴンがはっきりと私に向かって話している。

 低く優しい声で、まるで人間と会話しているかのように、穏やかな眼差しでこちらを見ている。


「あなた……喋れるの?」


 驚きに声が震える。

 だが、ドラゴンは「癒しの力のおかげだ」と言って、私に微笑むようにして頷いた。


 その巨大な目は、まるで私への感謝の気持ちが込もっているかのようだ。


「私は『ティオ』と名乗っておこう。私がこの森で生きてきた年月は、とうに百年を超えているが、こんなに温かく包み込まれるような癒しは初めてだ」


 ドラゴン──ティオは、そう語りながら、私のそばにゆっくりと寄り添うように体を横たえた。


 ティオの言葉が信じられず、私はただポカンと口を開けていたが、彼の眼差しからは確かに感謝の意が伝わってくる。


「私は追い出されて……ここで一人でどうしようかと思っていたところなの」


 ぽつりと、私の口から愚痴のように出た言葉に、ティオは少しだけ微笑むように口角を上げると、やさしく頷いた。


「人間の城から来た者か。……君が追い出されたということは、よほど愚かな人間が治めているのだろうな」


 その言葉に、胸が少しだけ軽くなった。

 私の無力さを嘲った王族や貴族たちの冷たい視線が頭をよぎったが、それを知るはずもないティオの言葉が、少しだけ私を救ってくれたように感じた。


 無能だった私を追い出した王都の人達ではなく、無能だった私を認めてくれる。


「ティオ……私は、ここで生きていけるかな?」


 不安げな私の問いかけに、ティオはゆっくりと頷く。


「私がいる。君を守ってやろう。それに、君の癒しの力はこの森に住む魔物にとって、かけがえのないものだ。私が保証しよう、この森で生きていけると」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の中で小さな希望が芽生えた。

 王都では無力だった私も、この森では少し役に立つかもしれない。


「ありがとう、ティオ。私、ここで……生きてみる!」


 ティオの大きな翼の下で、私は確かに生きる希望を感じた。







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