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第18話 『王都に戻るつもりはありません』

 

 ある日の昼、森の入り口近くで動きがあり、メルとリスたちが急いで私のもとに駆け寄ってきた。


 表情は緊張で固まっており、嫌な予感が胸に広がる。


「聖女さま、また……王都からの使者が来た。今度は、すごく必死な様子で君を探してるみたいだ」


 リスたちの言葉に驚きが混じり、少しの間、何も言えなかった。


 王都からの使者はすでに前回訪れ、魔物たちと共に追い返した。


 しかし、今回は前回とは雰囲気がどこか違うようだ。


 他の仲間たちも、報告を聞いて集まってきた。


 リュカが空から状況を確認してくれることになり、彼が戻ってくるのを待つ間、みんな不安げにざわついていた。


 しばらくしてリュカが戻り、いつになく厳しい表情で報告を始める。


「王都の状況はかなり悪化しているらしいです。疫病に加えて、大規模な災害が次々と起こり、街全体が崩壊寸前だと聞いた」


 その言葉に、仲間たちは驚愕し、緊張が一層高まる。メルが不安そうにリュカに尋ねた。


「そ、そんなにひどい状況なんだね……。それで、どうしてまた聖女さまを探してるの?」


 リュカは少し間を置いて、私を真っ直ぐに見つめながら続けた。


「使者たちは、聖女様、あなたがいなければ王国は滅びると言っていました。絶望的な状況で、最後の頼みの綱として聖女である君に助けを求めに来たようだ」


「なるほど……」


 さすがに少しだけ心が痛む。私を追放したのは王都の上層部の人達だ。

 しかし今はもう王都全体が崩壊寸前だと言う。

 助けの手を差し伸べられるのであれば、私を追放に追いやったもの達『以外』に差しのべたい。

 しかしまぁそんな都合の良いことは出来ないわけで。


「もう既にそこまで……」


 そんなこんなで考えていると見回りに行ってくれていたシオンがやってきた。

 彼によると直ぐにそこまで使者たちが来ているらしい。


「何人くらいだった?」


「五人くらいかと」


「五人かぁ……」


 五人くらいなら最悪の場合、もしあっちが攻撃を仕掛けてきてもなんとかなるかな。


「わかった。じゃあ話だけ聞こう」


 その結論を出した私の言葉が意外だったようでみんな驚いていた。

 まぁ話を聞いたところでここを離れるつもりは無い。


 やがて使者がやってきた。

 鎧を纏った騎士五人組だった。


 最初私が仲間たちのたくさんの魔物たちといることに驚いてはいたものの、誠意を見せるためか、兜を外し、彼らは深く頭を下げ、涙ながらに、


「どうか助けてほしい」


 と懇願してきた。


 そんな彼らの顔には絶望と、そして目の前にある希望にすがりつこうとしている様子がうかがえた。


 しかし私は必死の形相で訴える姿に、一瞬だけ心が揺らぐものの、王都に戻るつもりは全くなかった。


「どうか、聖女さま!私たちには、あなたの力が必要なのです。王国が滅びる前に、救ってください……」


 彼らの言葉には絶望がにじんでいたが、私の心はもう揺らがない。

 私は冷静な目で使者たちを見つめ、ゆっくりと首を横に振った。


「私はもう、ここで生きると決めました。王都に戻るつもりはありません」


 冷たくも毅然とした態度で返答すると、使者たちは信じられないような顔をして立ち尽くした。


 彼らが追放した聖女が今や自分たちを救ってくれると信じていたのだろうが、その期待を私の言葉が無情にも打ち砕いたのだった。


 その瞬間、ティオが静かに一歩前に出て、鋭い視線を使者たちに向けた。


「あなたがたは聖女を追い出しておいて、今さら助けを求めるなんて虫が良すぎる。ここで静かに暮らしてるんだ。あんたたちの都合で、もう邪魔はさせない」


 ティオの言葉に、ポルカや他の仲間たちも同意するように「そうだ」「もう追い返そう」と声を上げた。


 リュカも鋭い眼差しで使者たちを見つめ、まるで森全体が私を守るために立ち上がっているような空気が漂う。


 使者たちはその威圧感に押され、悲しそうに


「聖女さま…どうか…」


 と最後の一言を口にしたものの、もはや諦めの色が濃かった。

 彼らは失意の中、森から立ち去るしかなかった。

 彼らにはもうここで争いを起こすような気力も残ってなさそうだった。


 使者たちが森を去った後、仲間たちは私のそばに集まり、温かい目で励ましてくれた。


「聖女さま、ここでみんなと暮らしていこうよ。あんな奴らに振り回される必要なんてないよ」


 メルが優しく言い、ティオも「ここで静かに暮らしていけばいいさ」と力強く言ってくれた。その言葉に、私は心が温かくなるのを感じた。


 私の心が少しでも傷んでいるかもしれないという思いからか、みんな声をかけてくれる。

 とても優しい仲間たちだ。


 こうして、再び訪れた王都の使者を冷たく拒絶した私は、仲間たちと共に森での平穏な生活を守ることを改めて誓うのだった。

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