第17話 『ここでの暮らしが一番です』
ある日、森に戻ってきたメルとリスたちが、私のもとに駆け寄ってきた。
彼らはどこか不安げで、森に入ってきたばかりなのに、息を整える間もなく話を始めた。
「聖女さま、大変なんだ……王都が、今すごくひどいことになってるよ」
「ひどいことって?」
メルは頷き、リスたちと顔を見合わせながら話を続ける。
「前言ってたように王都で疫病が更に大流行してるんだ。貴族や王族だけじゃなく、王宮の人たちまで感染してるらしい。街中が混乱してるし、治療も追いつかないみたい」
私はメルたちの報告に驚きつつも、心の奥に小さなざまぁ的な感情が沸き上がるのを感じた。
聖女として召喚された私を、力がないと見なして追放した王都。
彼らが今、私のいない中で疫病に苦しんでいるのだ。
「そう……結局、あの人たちが聖女を追放した報いってことだよね」
私は冷静にそうつぶやくと、メルやリスたちは少し驚いた顔で私を見つめた。
けれど、私の決意はすでに固まっていた。
王都で疫病が蔓延していると知っても、今さら彼らを助ける理由などない。
ここで築いた仲間たちとの生活を守ることが、私にとって何よりも大切なのだから。
「でも、王都の人たちは聖女さまを探しているみたい。噂では、聖女さまの力があれば病気を治せるって信じてる王宮の人もいるみたいなんだ」
リスたちが小さな声で話すのを聞いて、胸の奥にわずかに迷いが生じる。
それでも、私は仲間たちがいるこの森での生活を放棄するつもりは全くなかった。
「もう王都の人たちには関係ないよ。私はここで、みんなと一緒に生きていく」
メルやリスたちは私の言葉に安心したように微笑み、他の仲間たちもそれぞれ頷いてくれた。
この森の中で築いた平穏な生活を、私は絶対に手放すつもりはなかった。
その日の夕方、私たちは仲間たちと共に森の中を散策しながら、この地での自給自足の生活を確認していた。
川魚や野草、そしてガルムが提案してくれた保存食も順調に整い、冬支度も着々と進んでいる。
ポルカも色々な食材を使った保存食の新しいレシピを次々と考案してくれているので、ここでの暮らしに何の不安もない。
「私たちは、ここで自分たちだけで生きていけるし君も王都の人たちのことなんて、もういいだろう?」
ティオが私に向かってそう言うと、仲間たちはみんな同意するようにうなずき合っている。
ポルカも「ここにある食材だけで、楽しく暮らしていけるよ!」と明るい声を上げ、メルやリスたちも嬉しそうに笑っている。
夜になり、私たちは焚き火を囲んで食事をしながら、これからの森での生活について話し合った。
リュカが静かに森の様子を観察しながら、これからの安全対策について話をしてくれる。
「王都の人たちが騒ぎ続けるかもしれない。だが、ここを守ることに集中しましょう」
彼の冷静な言葉には、森と仲間たちを守り抜くという強い意志が込められている。
私はリュカの言葉に深く頷き、みんなで力を合わせてここでの暮らしを守っていく決意を新たにした。
こうして王都での騒動に対する関心は薄れ、森での生活がますます充実し、仲間たちとの結束が強まっていった。
疫病に混乱する王都の人々には目を向けず、森で築いた自給自足の生活を楽しみながら、私たちは森での暮らしを優先することに何の迷いもなくなっていた。
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王都での疫病の噂が広がる中、森の仲間たちの間に不満の声が徐々に湧き上がっていた。
ある日、メルが苛立った様子で私のもとにやってきた。
「聖女さま、あの王都の人たち、聖女さまを追い出しておいて今さら助けてほしいなんて……ひどいよ!」
他の仲間たちも集まり、メルに同意するように口々に不満を述べ始める。
ポルカはため息をつきながら「まったく、都合が良すぎるよな」と呟き、ティオも怒りを隠さず、「自分たちのことしか考えてないんだな」と言い放つ。
リスたちも、木の実を抱えたまま「聖女さまがここにいるおかげで、僕たちは平和に暮らせているのに」と小さな声で訴えてくれる。
その言葉が温かく、心に染み渡る。
私は仲間たちの声を聞きながら、王都での出来事を少し思い出した。
私が聖女として召喚され、彼らのために力を尽くそうとした日々。
しかし、何の力も示せないと見なされ、冷たく追い出された過去が胸の奥に再び浮かぶ。
「確かに、今さら助けを求められても、私は王都の人たちに手を貸すつもりはないよ。私にとって大事なのは、ここでの暮らしだから」
その言葉を聞いて、リュカがそっと静かにうなずき、知的な眼差しで私を見つめている。
「ここで、君が私たちと共にいる。それが何よりも大切なことです」
リュカの冷静な言葉には、信頼と安心感が詰まっていた。
その静かな声に、仲間たちも少しずつ落ち着きを取り戻し、みんなで「ここでの生活を大切にしよう」と励まし合うようにうなずいた。
その後、仲間たちはそれぞれ持ち場に戻り、私は森の中を散策しながら、自分が本当に必要とされる場所がこの森であることを改めて実感する。
私の力は、この森の仲間たちを癒し、彼らと平穏に暮らすためにあるのだと、強く感じた。