第16話 『来たる冬に備えて』
ある日の朝、ガルムが新しい提案を持って私たちのもとにやってきた。
森の自然の恵みをもっと活かして生活を豊かにできるのではないかと、彼は思案していたらしい。
もうかなりこの森をふきぬける風も寒くなってきた。
もう少しで冬がやってきてもおかしくないような気候になってきている。
「冬に備えてもっと自給自足の方法を増やそうと思ってね。川の近くに簡単な水場を作って、つねに水が動くようにして凍らないようにする。そこで魚や小動物を捕れるようにしてみたらどうだろう?」
ガルムはその大きな体で器用に地面に地図を描き、川の流れや森の自然な障害物を使って水場を作る構想を説明してくれた。
彼の案に、私たちはみんな興味津々で耳を傾けた。
川魚や水辺に生息する小動物を捕ることができれば、森の食材のバリエーションが増え、冬の備蓄にも大いに役立つだろう。
さっそくガルムとティオを中心に、水場作りが始まった。
ガルムは川沿いに適した木の枝や石を組み合わせ、自然の流れをうまく利用して水場を作り上げていく。
力仕事が得意な彼は、そのたくましい手でしっかりと石を積み上げ、水が静かに流れ込むよう調整していた。
「さすがガルム、これなら魚も捕まえやすくなるね」
私は彼の器用な仕事ぶりに感心しながら声をかけると、ガルムは照れくさそうに笑みを浮かべた。
「この森には、まだまだ活用できる資源がいっぱいあるからな」
一方、ティオもその頃から動物の毛皮を利用した防寒具作りに取り組んでいた。
少しずつ冷えてきた秋の風を感じながら、彼は森の恵みで冬を越す準備を整えようとしている。
「これからもっと寒くなるから、君もちゃんと防寒してもらわないとな」
ティオはそう言って、私に厚手のマントを手渡してくれた。
柔らかくて温かい毛皮のマントは、見ただけでも冬の寒さを防いでくれそうな頼もしさが感じられる。
「ティオ、ありがとう!こんなに温かいマントを作ってくれるなんて……」
私はその厚手の毛皮を羽織りながら感謝の気持ちを伝えると、ティオは小さくうなずきながらも、どこか誇らしげな表情を見せた。
こうして、ガルムの提案で水場ができ、ティオの防寒具も加わり、冬に向けて自給自足の生活がどんどん整っていった。
新しく作られた水場では、川魚や小動物を捕ることができ、ポルカもその食材を使って料理の新たなレパートリーを考案してくれた。
「この魚、焼くと香ばしくてすごくおいしいんだ!調理のしがいがあるよ!」
ポルカは夢中で調理に励み、私たちにさまざまな料理をふるまってくれる。
香ばしい焼き魚や、小動物の肉を使ったスープなど、どれも今までにない味わいで、森の生活がさらに楽しく豊かになっていった。
さらに、メルやリスたちも森で集めた色鮮やかな葉や小さな木の実を使って、住居を飾り付けるアイデアを出してくれた。
彼らは小さな手で葉を編んだり、実を結んだりして、住まいを彩るかわいらしい装飾を施してくれる。
「こうすると、冬になっても明るくて楽しい雰囲気で過ごせるでしょ?」
メルがにこにこと誇らしげに言いながら、住居の入り口にリースを飾りつけるのを見て、私もほっこりとした気持ちになった。
リスたちもみんなで装飾を手伝い、色とりどりの小さな飾りが部屋中に増えていく。
夕方、みんなで出来上がった料理や装飾を囲んで新しい水場のこと、これから迎える冬のことなどを話していると、胸に温かな喜びが広がっていく。
どの瞬間も仲間たちが支え合ってくれていることが嬉しくて、この森が私にとってのかけがえのない居場所であることを改めて感じた。
「ここで、みんなと一緒に生きていくことが、私の喜びなんだ」
静かにそう心の中でつぶやきながら、森の豊かな恵みと仲間たちの温かさに包まれていることに、心からの感謝を感じた。