第13話 『再び王都の噂』
ある日の朝、メルとリスたちが森を越えて急いで戻ってきた。
少し息を切らしながら、メルは私のもとに駆け寄ってきて、心配そうな表情をしている。
かなり緊迫した様子だがどうしたのだろうか。
「聖女さま、また王都の噂を聞いちゃったんだ…」
「また何か起きてるの?」
メルはうなずきながら話し始める。
前は疫病が流行りだした、という噂だったが今現状はどうなっているのだろうか。
少し気になるところではある。
メルと他のリス達によると、王都では疫病がさらに広がり、貴族や王族までもが感染して混乱しているという。
人々は不安を募らせ、王都全体が大混乱になっているようだった。
「王都の上の人達が聖女さまを探してるって噂もあるよ。『聖女さまの力があれば病が治る』って信じてるみたい」
私は少し複雑な気持ちになったけれど、メルの心配そうな顔が目に入った。
メルは今の自分たちとの生活を捨てて私がどこかへ行ってしまわないか不安に思っているのだろう。
私はメルを安心させるようにゆっくりと息をついて笑顔を向けた。
「……でも、今の私には関係ないよ。ここにはみんながいるし、森での生活が何より大事だから」
私の言葉にメルとリスたちはホッとしたように笑顔を浮かべ、近くで聞いていたティオも少し鼻で笑いながら言った。
「そうだ。君は私たちとここで暮らしていこう。王都なんて気にする必要なんてないさ」
ティオの言葉に、私の心はまた温かくなった。かつて王都にいたときの孤独や不安は、今ではすっかり過去のものだ。
今の私には、毎日一緒に支え合ってくれる大切な仲間がいる。それだけで十分だと、改めて感じた。
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その後、私たちは森を歩きながら日々の生活について話し合った。
新しい薬草の使い方や、季節ごとの食材を探す場所、みんなで工夫して進めている冬支度のことなど、ここでの生活がますます楽しく、安定しているのを感じる。
「新しい薬草があるから、ちょっとした風邪や傷にも対応できるし、ここでの生活は不便なんて全然ないよね」
私がそう言うと、ポルカが自信満々にうなずいて、笑顔を見せてくれた。
「そうさ!俺たちには森の恵みがあるし、料理も工夫して作れるからね」
ポルカの誇らしげな表情を見て、私もまた嬉しくなった。
王都では気づけなかったけれど、今の生活は、ただ暮らしているだけじゃなく、仲間たちと支え合い、楽しみながら過ごせるかけがえのない場所なんだと心から思う。
夕方、皆で新しい住居に戻り、ポルカが作ってくれたスープを囲んで食事をした。
シオンが狩ってきた肉や、メルが摘んできた野草も加わり、香ばしい香りが漂う。
こうして仲間たちと一緒に食事を楽しんでいると、自然と笑顔があふれてくる。
「こうしてみんなと過ごしていると、王都のことなんてどうでもよくなるなぁ……」
私がぼそっと言うと、メルやティオも笑顔で「その通り!」と声をそろえてくれた。
「なぁ、聖女さま。もう王都のことなんて気にするなよ。俺たちと楽しくやってりゃいいんだからさ」
ポルカがそう言って笑い、みんなも楽しげにうなずく。
その温かい言葉に、私は胸がいっぱいになり、改めてここが自分の「居場所」だと感じた。
夜、焚き火を囲んで仲間たちと話していると、森の静けさが心に染み込んでくる。
リュカが教えてくれた「森の音に耳を傾ける」時間を楽しみながら、風が葉を揺らす音や遠くでさえずる鳥の声に耳をすませた。
森と一体化。宗教信仰の時間だ……。
まぁ冗談はさておき。
「この森にいると、本当に心が落ち着くなぁ」
つぶやいた私の言葉に、仲間たちは優しい表情でうなずいてくれる。
王都で私を探しているという噂も、今では遠くの話にしか感じられない。
夜が更け、焚き火の温もりの中で仲間たちが次第に眠りに落ちる中、私はそっと空を見上げた。
かつて私がいた王都のことを思い出しながらも、今は全く後悔も不安もない。
ここでの仲間たちとの絆があれば、何があっても大丈夫だと心から思える。
こうして王都の噂を気にすることなく、私は森での生活を楽しみ、仲間たちとの時間を大切にしていくと決めたのだった。