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93話 演奏者アリア

「……くふっ、くふふふ」

「何がおかしい」


 自身の攻撃手段を一瞬で潰されたアリアは呆然とした様子だったが、再び不気味な笑みを浮かべた。

 それを見て、俺はつい足を止める。


「ご協力感謝します。ここからは我々が」


 遠くから見ていたグレイドール兵団の兵士たちが集まってくる。


「こいつを捕縛しろ!」

「坊や、忘れているんじゃないの? 狂騒を奏でなさい! 亡骸の指揮法コンダクターズ・コード


 アリアは兵士たちには目もくれず、俺を見て指揮棒を振るう。


「あれは!? 雷猫強化ニャンダーボルテックス!」

「クラウ殿ッ!」

「うおっ!」


 気付けば、俺はミャリアさんに抱えられていた。


「あの時は逃げられたけど、今度は逃がさないニャ!」


 その言葉で何が起こった理解できた。

 ミャリアさん達を襲った透明人間が、背後から俺を切り裂こうとしてきたのだ。

 警戒はしていたが、全く気づけなかった。


「ぐわっ」

「うっ」

「誰だ!? どこから狙っている!」

「キャハハハハハハハハ!!」


 この間にも、集まった兵士たちは次々に透明人間によって切り裂かれ、倒れていく。


「リオネル、壁で隔離!」

「はい! 領域防壁(エリア・シールド)


 ミャリアさんの指示に従い、リオネルは兵士たちを光り輝くドーム型の壁で守る。

 リオネルの魔法は進化を続け、広範囲まで守ることができるようになったのだ。


「さっきの死体もそうだけど、匂いは感じないニャ。でも、霧がなければ、少し気配を感じる。リオネル、作戦通りいくわよ!」

「了解です!」


 ミャリアさんは俺から離れると透明人間を探し始めた。


(ここはリオネルとミャリアさんに任せよう)


 俺は透明人間を操っているはずのアリアを止めるために近づく。


「あいつを止めろ!」

「くふっ、嫌よ。この魔法で『指揮』した亡者は、自律的に活動(えんそう)を始めるの。私が止めるまで、永遠にね!」


 死者の尊厳まで踏みにじるなんて。


「なんでこんなことするんだ……」

「あなたもこの芸術が分からないのね。私の魔法は死者を操るものではないわ。私はただ、彼らの“願い”に寄り添っているだけ。兵士は命令に従い続け、狩人は獲物を求め、子を産めなかった母親は、産声を響かせることを夢見て力を振り絞る……。 それが、彼らの奏でる最期の旋律なのよ。私はほんの少し、指揮棒を振るだけ。だって、彼らはもう、自ら奏で始めているのだから」


 気持ち悪い。

 それがアリアと話して、真っ先に感じた感情だ。

 分かり合えるんじゃないかと思ったが、俺の根幹的な部分がこいつを拒絶する。


「よくもやってくれたな! 傷つけるつもりはなかったが、抵抗するなら話は別だ!」


 リオネルの魔法から出てきた兵士たちは、剣を抜き、一斉に斬りかかる。

 その刹那、アリアは静かに耳栓をつけた。


「そろそろかしら」


 アリアはミャリアさんが先ほど首を刎ねた死体の方に目を向ける。

 すると、


『おぎゃー!!!!』


 死体の方から、何かの産声が聞えてきた。


(この声はなんだ?)


 俺は本能的にまずいと感じ、とっさにフードを被る。


「なんだ、これは……」

「力が……入ら、ない」


 アリアに突撃していた兵士たちの顔色が急に青ざめ、足元がふらついて、次々に膝をついて倒れていく。


「きゃはっ、いい気味ね! そこで大人しく、寝てなさい」


 産声の方を見ると、死体の近くに赤子が転がっている。

 そういうことか。おそらく、あの死体は妊婦だ。

 そのお腹の中の子の方に何かしら細工をしていたのだろう。

 俺はこのローブのおかげで無事だが、声を聞いた者を衰弱させる魔法といったところか。


「お前、人を何だと思ってるんだ!」

「あら、まだ起きてたの? そういえば、あの男が魔法に耐性のある布を使ってたわね。そのローブにも使われてるのかしら? まあいいわ、じゃあね、坊や」


 俺の言葉は聞こえていないのか、アリアは無視して独り喋っている。

 ……逃がすわけにはいかない。


凍結(フリーズ)


 覚悟を決め、衰弱の元凶である赤子とアリアの足元を凍らせる。

 そのまま魔法の照準をアリアに向けたところで、あるものが目にチラついた。


(やっぱり来てくれたか)


「チッ、余計なことを。あのお方に頂いたこの力で」


 アリアが言い終わらないうちに、蒼い閃光が空から降ってきた。


(ああ、何とかなったな)


 俺はそれを見て、安堵を覚える。


蒼炎流刃(アズール・ヴェイン)

「ギャアアアアアア!!!!!」


 蒼の閃光が直撃したアリアの体は燃え盛り、悲鳴を上げる。


「妙な音が聞こえると思ったら、お前が元凶か。裏でこそこそやってるやつが、表に出た時点で負けなんだよ」

「ラフィ! 助かった」


 周りが動いている中、自分だけ寝ているのは我慢できなかったのだろう。

 俺は、空から降りてきたラフィに近づき、声をかける。


「大丈夫だった?」

「こっちはな。あそこでミャリアさんとリオネルが戦ってる」


 俺はリオネルの魔法で作られた光の壁に視線を向け、ラフィもその方向を見る。

 中の様子は見えないが、今でも透明人間と戦っているのだろう。


「なら任せていいな。それよりも」


 ラフィは地面で転がっているアリアに視線を戻す。


「ああ、そうだな。アリア、お前には聞きたいことが山ほどある。氷蛇」


 俺は魔法でアリアを拘束した。

 手に持っていた指揮棒もいつの間にかなくなっている。

 ラフィが斬ったのだろうか。


「お前はなんで魔器を集めている? 死体が複数魔法を使えていたことと関係があるのか?」

「最後にもう一度、先生にお会いしたかった。……ああ、素晴らしい。これこそが芸術。神よ、導きに感謝を……ごふっ」


 俺が質問をした途端、アリアはうつろな目で何かをつぶやきながら、血を吐いて倒れた。


「おい! どうした!?」


 俺とラフィは同時にアリアの元へ駆け寄る。


「チッ、死んでやがる。こいつ毒でも含んだやがったのか」

「えっ……」


 ラフィはすぐに状況を理解し、舌打ちをする。

 俺は目の前の現実が直視できず、頭がグラグラ揺れる感覚に襲われた。

 人が傷つき、倒れる光景は何度も見てきた。だが、人が目の前で死ぬなんて初めてだ。


(俺のせいだ。俺が追いつめたから、死んだ。俺がアリアを殺した……)


「しっかりしろ!」

「……っ」


 気付くと、ラフィに肩を揺さぶられていた。


「クラウのせいじゃない。ただの自殺だし、どのみちこいつは捕まっても死んでいた」

「でも」

「私はクラウの剣だ。私も同罪だし、自分を責めるなら私を責めろ!」

「……ふぅー。悪かった、切り替えるよ」


 深呼吸をし、一旦冷静になる。

 周りを見渡すと、兵士たちが大量に倒れている。


「リオネル達の方は任せて、負傷者を助けよう。人手が足りないから、ラフィは他の兵士たちを呼んできてくれ」

「いや、私はこの街に詳しくないから、クラウが行って。ここは私がやる」

「……悪い、任せた。氷甲虫」


 俺は氷甲虫に乗り、その場から離れた。



 *****



「雷獣気」

「……」

「……見つけたニャ!」


 雷の気を四方八方に飛ばし、わずかな空間の揺れを感じ取ったミャリアは、透明人間の位置に見当つける。


「ハアアアアッ!!」

「……!?」


 ミャリアは一度襲撃された時と同じように、雷の気をその周辺に放つ。

 すると、透明人間は爪を刃物に変え、その雷を防ぐ。


「リオネル! 壁!」

領域防壁(エリア・シールド)!」


 リオネルは、兵士たちを守っていた魔法を解き、ミャリアと透明人間を囲むようにドーム状の壁を作り、自分も中に移動する。

 すでに魔法を解いた透明人間は見えないが、閉じ込めることには成功したようだ。


「よくやったニャ。これであいつは逃げられない」

「この壁は一枚しか出せないので、割られないように気を付けてください」

「その前に()るわよ」

「サポートします! ラウンドシールド」

「じゃあ、作戦通り行くニャ」

「はい!」


 リオネルは、ミャリアの隣に立ち、大きな盾を構える。

 ミャリアは腰の袋から、粉々に砕かれた灰を取り出す。


「口を閉じるニャッ!」


 それを辺り一面にぶちまけると、灰はゆっくりと空中に広がる。

 すると、次第にぼんやりとした人型の光が浮かび上がってきた。


「ゴホッ、ゴホッ。これは、火山灰と霧石を混ぜた特殊な砂ニャ!」

「……魔法が透明化できないということでしたが、霧石の光も透明化できないようですね」


 ラフィによって砕けた霧石は、ぼんやりだが光を放っていた。

 そこから着想を得て、ミャリアとリオネルは火山灰と霧石の砂を混ぜることで、対透明人間用の灰をシルヴァに作ってもらっていたのだ。

 その灰を浴びたリオネルも、服で隠れた部分以外は淡い光を放っている。


「死体だろうと関係ないニャ! これまで多くの女性を傷つけたお前は絶対に許さない!」


 ミャリアは一瞬で透明人間に近づく。


雷猫一閃ニャンダー・スラッシュ!!」

「……」


 透明人間は爪を刃物に変え、ミャリアの斬撃から身を守ろうとするが、重く鋭い一撃は爪をへし折り、そのまま首を刎ねる。

 その瞬間、透明化の魔法が解け、これまで見えなかった人族の姿が現れる。

 その男は仮面をつけ、軽装の姿をしていた。


「……これが、50年前の『霧裂きヴェイル』の正体でしょうか?」


 仮面がはずれた人族の顔は干からびており、昔に亡くなっていたは明らかだった。


「そうかもしれないニャ。爪を刃物に変える魔法に透明化、消音……匂いは分からないけど、聞いていた通り複数の魔法を使っていたわね。後はシルヴァとゼノンさんに任せるニャ」

「そうですね」


 女性を襲撃していた犯人にとどめを刺した二人だが、事件の終結に喜びや安堵の感情はなく、ただ重苦しい後味が残った。


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