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79話 焔の記憶

「偽りの女帝よ! 帝位を我らが神の子に返還せよ! さもなくば、神の怒りが帝国を滅ぼすこととなろう!」

『帝位を返還せよ!!』

「これは何が起こってるんだ!?」


 巨大な帝都の門前で、法衣に身を包んだ者たちが高らかに叫ぶ声が響き渡る。

 兵士たちは緊張した面持ちで集団を見守るが、何もできずに立ち尽くしていた。


「偽りの女帝にこの帝国を統べる資格はない! 神の意志に従い、我らが神の子がこの座に就くべきである!」


 一部の兵士が恐れを感じ、震えながら後退を始める。


「怯むな! まさか、帝都でこのような反乱を起こそうとは……。ここは帝都、我が帝国の心臓だ! 異端者どもめ、覚悟せよ! 諸君、取り押さえろ!」

『はっ!!』


 それを見た指揮官らしき人物が声を張り上げ、兵士たちに指示を出す。


「敬虔なる信徒たちよ、これは聖戦だ! 神の意志に従い、この地を浄化せよ!」

『聖戦だ!』


 法衣を纏った者たちは一斉に声を上げ、帝都の門へと近づいていく。




 ここで場面が移り変わる。


「何だというのだッ! 各地で異教徒どもが反乱を起こしていると報告が来て、わずか数日で帝都まで攻め入ってくるとは!」

「落ち着け、カリオス。君らしくないぞ」

「フェリシア……ふぅ、そうだな」

「まま、だいじょうぶ?」

「ああ、心配するな、ラフィ。普段から怖いカリオスの顔が、さらに怖くなって不安になったんだな」

「なっ、何も怖がることはないぞ! パパが今から悪人をやっつけるから、ラフィは安心していろ」


 大人二人と少女一人が薄暗い部屋の中で話している。

 男性の方、カリオスは輝く鎧を身に着け、顔にはいくつもの傷がついている。女性の方、フェリシアは燃えるような赤髪と力強い目が特徴的だ。

 赤髪の少女はおそらく二人の子供だろう。


「とはいえ、フェリシアはラフィを連れて逃げてくれ」

「カリオス、いくら君の言葉とは言え、それはできない」

「何を言ってるんだ! 君は逃げなければ」

「私はこの国の皇帝だ。逃げることなど許されない。聞きなさいラフィリア、いざとなれば一人で逃げるんだ」

「ラフィに一人で逃げさせるだって!?」

「敵の狙いは私の首だ。どの道逃げられないよ。君がラフィと逃げてくれればいいが、この国のために何人もの兵士たちが命を落としている今、君がそれを選べないことは私も分かっている。この国を守るには君の力が必要だ」

「……」

「えっ……ぱぱ? まま?」


 両親の言葉に、少女は戸惑いを隠せないでいる。


「ラフィ、君は十分に敏い子だ。今から言うことを守るように……」


 フェリシアは少女に何かを伝える。




 また、場面が変わる。


「失礼します! カリオス団長、敵が城内に! うぐっ」

「エドガー!」

「ラフィ、見るな」


 報告に来た男は、背後から何者かに攻撃を受け、上半身と下半身が分断される。

 男の体を分断した刃は液体となり、床を湿らせた。

 フェリシアは少女にその光景は見せないよう抱きかかえる。


「帝国最強の熾獣騎士団(しじゅうきしだん)と少しは期待していたが所詮は人族、名ばかりだな。低能な獣の檻に入れられた気分だ」

「貴様は誰だ!?」


 カリオスが尋ね、扉から現れたのは、海人の男だった。

 その海人の手には、球体の何かが収められている。


「不敬な獣だ。ふむ? なるほど、そこの女、貴様がこの国の王だな? ならば、同じ王として、敬意を払ってやるとしよう。余は、生まれながらにして大海を統べる王、海王シャルヴァス。貴様の首をいただいてやろう。海星霊宮玉(アトランティス)

「フェリシア、君はラフィを連れて逃げろ! 焔鱗装(ラグナート)!」


 シャルヴァスの手中で球体が脈打ち、奔流のごとき水が溢れ出す。それに相対するカリオスの指輪は紅蓮に輝き、溢れた炎がカリオスの全身を覆い、竜の鱗のように燃え盛る。

 息をつく間もなく、二人は激しくぶつかり合う。

 その間に、フェリシアは少女を抱えたまま移動する。


「ラフィ、私はカリオスと共に戦わなければならない。前に約束したことは覚えているな?」

「やだっ! わたしものこる!」

「ラフィリア、君はカリオスの強さと、私の美しさを受け継いでいる。辛い思いをさせるが、私もカリオスも君のことをずっと愛しているよ」


 フェリシアは泣きじゃくり、暴れる少女を抱きしめ、その額にキスをする。

 そして、隠し通路に着くと少女を下ろす。


「さあ、行くんだ! 大丈夫、すぐに私もカリオスも後を追う」

「やくそくだよ! わたしもやくそくまもるから!」

「ああ。君の行く末に幸あらんことを」


 フェリシアはそのまま扉を閉め、唇をかみしめた後、燃え盛る戦場へと足を運んだ。




 *****




 通路に事前に用意されていたものを持ち、燃え盛る城を出た少女は帝都から離れる。

 何度も燃えている城を振り向くが、自分を追ってくる親はいない。


「やくそく、まもらなきゃ」


 少女はナイフを取り出すと、長い髪を切り始めた。

 これは高貴な身分であることを隠すとともに、性別を隠すためだ。


「えっと……ぱぱのまね」


 少女はカリオスから『もし心細くなったらパパの真似をしてみろ』という言葉を思い出す。


「オレは……まけない……!」


 そう言いながらも、涙が頬を伝う。


「……ううっ、ぱぱ! まま!」


 その声は誰にも届くことはなく、しばらくして、少女はもう一度歩みを進める。




 どれくらいの時間が経ったのだろうか。

 少女はやっと大人の姿を見つけ、駆け寄った。


「あっ、あの! たすけて! お城がもえてて……!」

「あ? なんだこのガキは?」


 少女は必死に助けを求めたが、その男は険しい目つきで彼女を見下ろした。


「おいおい、いいモン持ってんじゃねえか。どこで手に入れた? ……ま、どうでもいいか。これは俺がいただくぜ」

「やめて!  かえして!」

「騒ぐんじゃねえ!」


 男は少女の荷物を乱暴に奪い取る。少女は抵抗し、必死に暴れた。


「チッ、そんなに暴れるなら、お前も奴隷と一緒に売っちまうか」


 運の悪いことに、少女が助けを求めた男は帝国で反乱が起きたと聞きつけ、奴隷を集めるために動いていた奴隷狩りの一味だった。

 奴隷狩りの男は、暴れる少女を拘束すると、奴隷用の檻の中へと収監した。




「……」


 多くの子供の奴隷は価値が低く、買い手がつかないことが多い。

 少女も例外ではなく、いくつもの奴隷商人や奴隷狩りの手を渡り歩いてきた。

 少女は足枷を着けられ、他の奴隷の子供と共に輸送されている。


「旦那ぁ、こいつら本当に売れるんですか?」

「ああ。今から向かう場所には、物好きな大口の客がいるからな。残ったこいつらも良い値段で売れるだろうよ」


 奴隷商人たちは呑気に雑談をしている。


「……」


 少女はその様子を見ながら、密かに手に持った石で、足枷を壊そうと試みる。

 古く錆びた金属の足枷は何度も使われているためか、一部が脆くなっており、そこをひたすら削る。

 何度も何度もそれを繰り返し、もう少しといったところで、


「おいっ! なんでこんなところに大型魔物が居やがる! お前ら、荷物を置いて逃げるぞ!!」

「ゥオオオオ!!」


 奴隷商人たちが大型魔物と遭遇し、すべてを置いて逃げ出した。


「うわーーーーん!」

「キャーー!!!」


 突然の出来事に、檻の中にいた子供たちも泣き叫ぶ。

 幸いなことに、大型魔物の方は逃げていった奴隷商人たちの方へ向かって行ったが、いつ戻ってくるか分からない。


「……ちょっとまってろ」


 少女は両手で石を握りしめ、足枷に力を込めた。硬い金属が悲鳴を上げ、ついに脆く崩れ落ちた。

 自分の足枷を壊した少女は、他の子供の足枷を外すための鍵を探す。


「た、助けてくれ……」


 自分たちを運んでいる荷馬車の中にはなく、外へ出てみると、魔物にやられたのか、死にかけている奴隷商人の姿を見つけた。


「……」


 少女は何も言わず、落ちていた刃物を拾い、その奴隷商人に止めを刺した。


「……あった」


 その死体の懐を探ると、鍵らしきものを見つけた。

 少女はその鍵を使い、他の子供たちの足枷を外す。


「ありがとう」

「オレがまもる。ついてこい」


 子供たちにお礼を言われた少女は小さく頷く。

 使えるものを集めた後、荷馬車と奴隷商人の死体を魔法で燃やし、その場から離れる。




 逃げてから二日ほどが経ち、奴隷商人から奪った食料はすでに底をつきかけていた。


「えーん、帰りたいよ!」

「もう少しだから、我慢しましょう」


 子供たちは互いに励まし合っているが、自分たちがどこにいるのか分かっておらず、いつまた魔物が現れるか分からない状況で不安も消えない。

 そして、悪い状況は重なる。


「しっ……しずかに」


 少女は魔物の気配を感じ取り、静かにするよう警告するが、


「うわーん!!」


 子供の一人が泣き出した。

 大型魔物はその声に気づき、ドスドスと大きな足音を立て、近づいて来る。


「かくれてろ」


 少女は一人、隠れていた岩場から飛び出す。


「かかってこい!」

「ゥオオオオ!!!!」


 少女が刃物を構え、魔法を使った瞬間、辺り一面が輝く。




 *****




「……ウ様、クラウ様!」

「はっ!」


 目を開けると、シルヴァさんが心配そうに俺を見つめていた。


「お水を」

「ありがとうございます」


 シルヴァさんから水袋をもらい、水を飲む。


「ふう……」

「落ち着きましたか?」

「はい」


 大量に汗をかいたのか、着ていた服は濡れている。


「苦しんでいらっしゃるようでしたので、お声をかけさせていただきました。どうかなさいましたか?」

「悪い夢を見てしまって……でも、もう大丈夫です」

「そうですか。何かあれば、すぐにお申し付けください」

「ありがとうございます」


 まだ、魔臓のあたりが熱いが、すぐに収まることは経験的に分かる。

 とはいえ、ここまではっきりと夢の内容を覚えていることは珍しい。


「一体、あれは何だったんだ?」


 あの少女は間違いなくラフィだ。

 夢にしてはかなりリアルな気もする。

 聖戦? 帝国? よく分からないことばかりだった。


 俺は夢のことについて考えながら、息を整え、また目を閉じた。


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