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73話 戦いのち曇り

少々長めになっております。

 ―――ラフィ視点―――



 今でもたまに夢を見る。

 迫りくる炎から逃げ、大事な両親を置いて、わたしだけが逃げる夢。

 どれだけ自分を偽っても、過去は決して変わらない。


「ラフィ、あなたは魔法というよりも炎に対して恐怖心がありますね?」


 副団長の言葉に心臓がビクッと跳ねた。


「……はい」


 炎を見るたびに、あの時の記憶が呼び起される。


(オーラ)を習得して、火力を出せるようにはなりましたが、肝心の制御の方が相変わらず下手です。そして、その制御はあなたの感情に起因している。このままだと、またいつ暴走するか分かりません」

「……」


 副団長の言葉に私は何も言うことができない。

 いくら感情を押さえようと思っても、恐怖心が勝ってしまう。


「あなたは自分の魔法と過去と向き合わなければいけません。どんな訓練よりもそれがあなたにとって一番大切なことです」

「でも、どうしたらいいか分からなくて」

「まずは私と話しませんか?」


 私は副団長に自分の過去を色々と話した。

 副団長は黙って私の話を聞いていた。


「なるほど。では、もともと火の魔法が使えて、その後、魔物に襲われた時にその力が宿ったということですね」

「はい。シータ姉たちを守ろうって魔法を使おうとしたら、意識を失って、気づいたら副団長達がいて」


 私は生まれつき火の魔法が使えた。

 いまの力が宿ったのはその後だ。


「魔法というのは不思議なもので、同じ炎系統の魔法でも物に火を付与するのが得意な魔法使いもいれば、体の一部だけを燃やすのが得意な魔法使いもいます。魔法の扱いにも得意不得意があるということです。これは子供のころから魔法を使っていくうちに感覚で分かっていくものです。かくいう私も今では視ることのできる範囲は広がりましたが、昔は一部のものしか視れませんでした」

「……?」


 なんで副団長はそんな話をするんだろう?


「結論を言いましょう。あなたは自身が本当はどういう魔法を使えるのか理解していないのではありませんか?」

「っ!?」


 今までなんとなく魔法が使えると思っていた私にとって、その言葉は衝撃的だった。


「先ほども言ったように、本来は子供のころから繰り返し魔法を使うことで、自分の魔法がどういうことをできるのかを、少しずつ体で理解していくものです。そして、その過程で自分にしかできない感覚や技術を見つけ、成長するにつれて魔法にも新たな可能性が生まれる。それを『魔法の進化』と呼びます。

 しかし、あなたの場合は、自分の記憶と共に魔法を封印してしまった。あるいは、あなたが意図していないなら、無意識のうちに『あなたの本来の魔法と混ざって生まれたその力』自体が、あなたを守るために眠りについたのかもしれません。どちらにせよ、魔法が使えなくなったあなたは、自分の魔法を理解する期間があまりなかったはずです」

「なんで力の方が眠りにつくんですか?」


 自分の力が私の魔法を使えない原因になったなんて、信じられない。


「あくまでこれは可能性の話です。ですが、防衛本能が働いてもおかしくはないでしょう。それだけの力を感情のままに振り回せば、あなた自身が飲み込まれてしまうのですから」

「……」


 心当たりはある。

 私はあの時から何度も自分の弱さを呪い、嘘で身を固め、力に執着した。

 そんな感情のままこの力を使えば、私だけじゃなく、家族や仲間、そして無関係な人たちまで巻き込んでしまったはずだ。


「この話をしようと思ったのは、今のあなたなら向き合えると判断したからです。そして、あなたの力もそう判断したからこそ、少しずつあなたに応えるようになってきているんだと思いますよ。後は、あなたが向き合うだけです」

「……はい。頑張ってみます」


 私は思い通りにならなくて、あの時の記憶を連想させてきて、私を飲み込もうとしてくるこの力が怖い。

 一方で、副団長は私を守るために自ら眠りについたという。


 逃げるのはやめよう。

 過去は変えられないし、この恐怖心がなくなるかは分からない。

 でも、私はこの力と向き合いたい。

 今度こそみんなを、大事なものを守るために。




 *****




 氷の鏡で囲まれた空間の中、私は精神を研ぎ澄ませる。


 今だ!


 私の思いに応えるように、炎は蒼く燃え上がり、気づけば宙を飛んでいる。

 敵を確認し、そのまま地上へ急降下する。


「悪い、待たせたな」


 覚悟と共に、私は前に進む。



 ―――クラウ視点―――



 ふぅー。間に合ったみたいだな。


 リオネルが戦闘不能になり、カリューがレオノーラを標的に定めたところで、ラフィが空から降ってきた。


『私の魔法、どうやら時間が経つほど火力が増していくみたいなんだ』


 カリューへの作戦会議で、みんなの戦い方を聞いていた時、ラフィがそう言った。


『どういうことだ?』

『これまでは、焦って一気に力を引き出そうとして上手くいかないことが多かったんだけど、戦闘中に気づいたんだ。時間が経つにつれて、引き出せる火力が増えている。おそらく、魔素が持つ限り、火力には際限がないと思う』


 ラフィの魔法は、単なる火の魔法ではなく、時間経過によって火力が増すタイプの魔法だった。

 フリード子爵よりも魔素量の多いラフィが、その力を引き出し続けられるとなると、恐ろしいことこの上ない。


 そして、俺はラフィがカリュー戦における切り札になると確信した。

 作戦を立てる上で不安だったのは、カリューがどれほど本気で戦ってくるのかが分からなかったことだ。

 もしカリューが攻撃寄りの戦い方をしてくるなら、人数差で勝機はあると思っていた。

 ただ、防御よりだった場合、俺とリオネル、レオノーラでは攻撃が通らない可能性がある。

 だからこそ、ラフィという火力特化が絶対に必要だった。


 その火力をカリューに気づかれずに高めてもらうため、最初、俺はラフィを氷鏡壁で囲んだ。 

 切り札というだけあって、最初からラフィを戦場に出すよりは、人数の有利が効いていて、カリューもそれなりに削れている状況の方が勝率は上がる。

 それに、カリュー自身、ラフィのことを一番警戒しているはずだから、ラフィが最初に狙われるのを防ぐことも目的の一つだった。

 結果として、カリューは攻防、どちらも上昇させる手段を持っていたので、対策しておいて正解だった。


 俺は二人の様子を見つつ、攻撃の機会を狙う。


「待ちくたびれたぞ。炎使いの小娘よ」

「ふんっ、待ちすぎて満身創痍じゃねえか。すぐに終わらせる」


 ラフィとカリューは剣と拳をぶつけ、激闘を繰り広げている。

 ラフィは前のように炎の扱いに苦戦することなく、ボンッと蒼い爆炎を瞬間的に足元から生み出すことで推進力を得て、高速移動を行い、カリューは持ち前の反射神経と判断力でその動きを見切る。


氷弾達磨(ボムダルマ)


 俺も隙をうかがい、攻撃を仕掛けるが、熱気と水の鎧に阻まれ、攻撃は届かない。

 しばらくすると、視界が水蒸気で覆われ、周囲の状況が掴みにくくなった。

 ほとんど役目は終わったが、ラフィの蒼い炎を目印に、嫌な位置取りだけは徹底しておく。

 常にラフィ、レオノーラ、そして俺が三方向から攻撃できるような位置取りを維持し続ける。


「決める! 蒼炎閃刃(アズール・セイヴァー)!!」

「極義、熱海波龍昇ねっかいはりゅうしょう!!」


 二人の技が衝突した瞬間、爆発的な衝撃波が四方に広がる。


「うおっ! イテッ」


 俺は転がると、木にぶつかって止まった。

 どうなったのか、木の陰から様子を見ようとするが、白煙で何も見えない。


「カリューの戦闘不能で戦いは終了です!」


 サターシャの声が響き、ようやく終わったのだと実感する。

 煙がなくなるのを待って、爆発の中心地に行くと、カリューは大の字で倒れ、ラフィは離れた場所で目を丸くして座り込んでいた。

 俺に気づくと立ち上がり、近づいて来る。


「やったな! でも、なんでこんなになったんだ?」

「多分だけど、水の温度が急激に上昇したせいで、爆発したんだよ」

「どういうこと? よく分かんない」

「学園に行くためにこれから勉強すると思うよ」

「うげえ」

「二人とも無事でよかったですわ」


 そんな雑談をしていると、レオノーラもやってくる。


「体が動かん……茨の小娘、貴様の仕業か」


 レオノーラが来たところで、カリューが口を開いた。


「美しいものには毒があるのは当然ですわ。とはいえ、弱い麻痺毒ですけれど。なかなか効かなくて焦りましたわ。クラウのおかげで効いてきたようですわね」

「被弾を選んだ時点で、我の敗けだったか……。完敗だ」


 レオノーラの茨は麻痺毒を注入することも出来るとのことだ。

 この話を聞いた時、レオノーラを一番活かせる森にしようと決めた。

 リオネルが守り、レオノーラがそれを支援しつつ、弱らせ、俺もそれに加わる。そして、最後にラフィが削り切るという流れが上手く行って良かった。


「禁忌を冒してまで敗れたのだ。我を殺せ」


 突然、カリューがそんなことを言い出した。


「は? 何言ってんだ?」


 ラフィもその言葉に反応する。


「海人の戦士は、誇りにかけて他の種族に敗北することは許されぬ。前に貴様らに敗北を喫したその日から、我はただの死に損ないだ。この身に宿る忌々しい魔法のせいで、自ら死を選ぶことすら許されぬのだ」

「だから、この戦いを条件に出したってわけか?」

「ああ。本来、我はあの時、死ぬ定めだったのだ。もし殺すことが叶わぬと言うのなら、我一人を襲撃の主犯として突き出し、法の裁きに委ねるがいい。その方が貴様らにとっても都合が良いのだろう?」


 俺たちの間で沈黙が広がる。

 これが海人の戦士の価値観という奴だろうか。

 俺にはカリューの考えがよく分からない。

 カリューを首班として襲撃の罪を押し付ければ、ハイネさんが戻ってきやすくなる可能性もある。


「どうする?」


 ラフィは静かに俺に尋ねる。

 俺がカリューを殺すと言えば、ラフィはそれを実行するだろう。

 カリューの戦士としての誇りのために、望むようにするというのも一つの答えだろう。


 だが、本当にそれでいいのか?


 頭で何度も考えるうちに、俺の中でブチッと何かが切れる音がした。


「いい加減にしろよ!」


 気付けば、俺はカリューに馬乗りになり、胸倉をつかんでいた。


「お前は身勝手なんだよ! 戦士の誇り? 知らねえよそんなもん! お前が勝手なら俺も勝手に言わせてもらう。生きろ! 死に損ないだって? 死んだ人達に失礼だろ!」


 カリューが目を見開いて俺を見つめていたが、俺は止まらない。


「世の中には生きたくても生きられない人が大勢いるんだ!  俺だって、お前みたいに死んでいいって思ったことがあった。でも、それが間違ってるって気づかされたんだ! お前にも、お前を大事に思ってくれる奴らがいるはずだ! 誇りだの何だの、勝手なことばっかり言って、死ぬ理由を作るな!」


 こいつの誇りとか、戦士の価値観なんか関係ない。


「……はぁーー、ふう。とにかく、俺の言いたいことは言わせてもらった」


 深呼吸をして、カリューから離れる。

 そして、やらかしてしまったことに気づいたが、これが俺の考えだ。

 また沈黙が続く。


「話は聞かせてもらいました。後はこちらに任せて休んでいてください」


 気付けばサターシャが近くにいて、俺たちに休むよう指示を出した。





 俺たちはリオネルの無事を確認してから休んだ。

 リオネルはまだ意識が戻っていなかったが、応急処置も終わり、命に別状はないとルインスが教えてくれた。


「クラウも熱くなるんですのね。驚きましたわ」

「あー、うん」


 レオノーラからそう言われ、むず痒い気持ちになる。


「ラフィはどう感じましたの?」

「私はクラウの考えに従う」

「なんだか騎士らしいですわね」


 レオノーラの質問にラフィは短く答えた。


「お前達、よくやったな!」

「おつかれー」

「バッカス先輩、マーディ先輩、見ていらしたの?」

「おう、飛竜を借りて遠くからな」


 この前会ったバッカスさんとマーディさんがやってきた。

 この二人も来ていたのか、気づかなかった。


「後継ぎ君、ちょっといいかな」

「はい? なんですか?」

「ちょっと聞きたいことがあるんだ」

「うわっ、なんだ!?」

「!?」

「待った、行かせてやってくれ」


 俺はマーディさんに魔法で浮かされた。

 ラフィがそれを防ごうとするが、バッカスさんがそれを止める。




「それで聞きたいことって?」

「まず、君の立ち回り、見事だったよ。気配の消し方も相手の視線を意識した動きもルインスの教え子らしい動きだった」

「はあ、ありがとうござます」


 みんなから離れた場所に連れられて、いきなり褒められた。


「作戦も君が考えたらしいね。レオノーラから聞いた」

「はい」

「僕は正直、リオネルとレオノーラの実力では勝つのは難しいと思ってた。ラフィの方は僕の想像以上だったけど、時間が必要となると使い方を間違えれば負けてもおかしくない。全員の強みを理解して役割を決めた良い作戦だったよ。けど、さっきの戦いで疑問が一つある。なぜ、君は全力で攻撃しなかったんだ?」


 これが多分聞きたいことなんだろう。


「5か所から攻撃を打っても10か所から打っても変わらない威力。明らかに威力は調節されていた。もし君が本気で攻撃をしていれば、麻痺毒が効くのを待つんじゃなくて、もっと早くに、それこそリオネルがやられる前に終わらせられたはずだ。生死が絡まないからと手を抜いていたとは思えない。何か理由があるのかい?」


 マーディさんが言うように、氷弾はルインスとの特訓で人が死なない威力になるように調整していた。

 それに気付かれるとは思わなかった。


「確かに、あれは人を殺さないための魔法です」

「なるほど。でも、もしあの戦いが殺しありだった場合、リオネルは死んでいたよ?」

「それは……」

「ルインスも殺すのを避ける節があるけど、出来るけどやらないのとやれないのでは話が違う」

「はい。分かってます」

「君のためを思って忠告しておく。殺す覚悟がないなら、この世界に踏み込むな」

「それは出来ません」

「なんで?」

「後悔するからです。自分の代わりに苦しんでいる人がいるのを知っている癖に何もできない自分自身に」

「……そうか。なら、君はカリューを殺すべきだった。本人がそれを望んでいるんだ。気持ち的にも楽だろう。一度経験すれば」

「それ以上はやめろ」


 いつの間にかマーディの背後にルインスが立っていた。


「何? お前にしてはぬるい指導するじゃん。まあ、覚悟があるのは分かった。じゃあ、これだけ。僕は君が殺せないとは思わない。魔法で人を傷つけられるんだ。後はその威力を上げるだけだ。君はいざとなればやれる人間だよ」


 そのままマーディさんはみんなのところへ行ってしまった。


「すみません。あいつはまだ若くて結果ばかり急いじまうんすよ。それにあいつにも色々あるんす」

「うーん、やっぱり駄目かな?」

「いや、十分やってたっすよ。雑念が入れば、今日みたいな動きは出来なかったはずっす。今は出来ることをやっていきましょう」

「うん」


 こうして、少しの曇りを残し、カリューとの再戦は終わった。






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