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72話 森の激闘

 ―――カリュー戦―――



「面白い。その挑発、乗ってやろう! 水霊器(ハイドラ)


 カリューは自身の纏う水を手甲に変形させる。

 そのまま、何も手にしていないリオネルに向かって、拳を放つ。


「カウンタースタイル!」

「っ!?」


 それに対して、リオネルは片手に重厚な突起物の付いた円形のスパイクシールドを生み出し、それに気付いたカリューは咄嗟にその拳を引き戻す。


「ガントレットシールド! はあああ!!」

「ふんっ!」


 リオネルはその隙をつき、ガントレットが嵌められた反対の腕でカリューに一撃を与える。

 カリューは咄嗟に腕を交差させ、水の手甲でその拳の威力を大幅に弱め、受け止める。


「前よりはやるようだな」

「当然だ」

「ふん」


 カリューは先ほどまでの余裕の笑みを消し、リオネルを敵だと認識する。


「波動掌!」

「その技は知っている!」


 何度も頭の中で繰り返した技だと、リオネルは放たれる衝撃波を盾で受け流しつつ、そのままカリューの懐に入る。


「だろうな!」

「フロントシールド!!」


 カリューはその技はフェイントだとでも言うように、近づいてきたリオネルの腹部へ膝蹴りをお見舞いするが、咄嗟に腹部に盾を生み出すことで守る。

 蹴りを受けて、顎を狙ったリオネルの拳は逸れ、カリューの鼻にぶつかり、リオネルはすぐに距離を取る。


『俺たちは素早さじゃ基本的に敵わねえ。だからこそ、磨くべきなのは適応力だ。どんな敵の動きにも適応しろ。一番大事なのは、その瞬間の判断だ』


 師匠の言葉が、リオネルの脳裏に蘇る。

 今の自分の戦闘スタイルも、魔法の使い方も、すべては己と魔法に向き合い続けた日々の積み重ねの結果だ。

 そして、さらにその先へ行くために、今日この場で全てをぶつける。


 まともに一撃を受けたカリューは驚いたように目を開き、フンッと鼻から血を抜く。


「ふっはっはっは! 人族の成長は早いか……。貴様に使うとは思わなかった。滾蒸腕(カイナ)


 カリューの手甲が回転を始め、空気が震えるような音を立てる。

 水の中から次々と気泡が噴出し、その動きに合わせて周囲の空気が熱を帯び始める。しかし、湯気は出ず、ただひたすらに水の体積だけが膨張していく。

 まるで水そのものが怒りを孕み、暴れるかのようだ。


「っ!? 熱くないのか?」

「海人の肉体を舐めるなよ。この程度の熱、何とも思わん!」


 リオネルは空気を介した熱気から、カリューがその熱に耐えられることに驚く。

 まだ技を隠している可能性については、クラウから言われていて警戒していたが、想像以上に危険な技にリオネルは冷や汗を流す。

 そして、一人でできるのはここまでか、と悟った。


「ふんぬっ!」

「ううっ!!」


 勢いよく飛び出したカリューは、反動など関係なしにスパイクシールドごとリオネルを吹き飛ばす。振りぬいた拳からは血が流れるが、痛みをおくびにも出さない。


「バックシールド」


 木に背中を打ち付ける直前、リオネルは背中に盾を生み出し、衝撃を和らげる。


「まだまだ行くぞっ!」

茨鞭打(ソーン・ウィップ)

「……何を企んでいるかと思えば、ようやく来たか」


 追撃を仕掛けようとするカリューに対し、そうはさせないと地面から茨の鞭が伸びる。


「お兄様、私も加勢いたしますわ」


 攻撃を行った張本人であるレオノーラは空中からリオネルに声をかける。


「レオノーラ、助かった! ここからは自分一人じゃない。みんなで戦います」

「なるほど。いい組み合わせだ」

「ガードスタイル」


 リオネルはスパイクシールドを捨て、手をかざして新たな防具を形成し始めた。炎熱の脅威に耐えるべく、厚みと強度を兼ね備えた大きなラウンドシールドが光の粒から生まれる。そして、もう片方の手には、腕全体を覆うような頑強なガントレットが形成される。

 攻めよりも守りを重視し、隙があれば攻撃する構えだ。


「第二開戦といこう」


 カリューの目は完全に本気だ。



 ―――クラウ視点―――



 この作戦の肝は、やはりリオネルだ。

 最初にリオネルがどれだけ時間を稼ぐことができて、カリューに対して脅威だと思わせるかによって勝率が変わってくる。

 そして、リオネルは十分以上に自分の役目を果たした。

 カリューに本気を出させ、隠していた技まで使わせた。

 すでに奴にはこの前みたいな余裕はない。


『人の視野ってのは、余裕がある時は広く、集中すると狭くなるんすよ。どちらにも一長一短があるんすけど、人数差がある時、相手の視野を狭められれば、人数の有利が活きてくるっす』


 これはルインスから教わったことだ。

 前回、こちらが人数的に有利だったにもかかわらず、負けてしまった理由もここにある。

 実力差が大きかったと言えばそれまでだが、カリューには終始余裕があった。

 その余裕を打破できれば、人数の差が有利に働くはずだ。


 今、リオネルとレオノーラが共闘してカリューと戦っているが、リオネルは守りに徹し、レオノーラはカリューの射程外から一方的に攻撃している。

 さらに、攻撃だけでなく、相手の行動を阻害することで、リオネルにも攻撃の選択肢を与えている。


 正直、レオノーラの魔法の使い方には驚かされた。

 そして、一番可能性を感じたからこそ、カリューとの戦場に森を選んだわけだ。

 今回の戦いでは、カリューがリオネルの挑発に乗らず、開けた場所から木々の中に入らない可能性もあった。

 その場合はレオノーラが単独でカリューを引きつけ、そこにリオネルが合流する予定だったが、幸いにも、こちらの作戦通りに事が進んだ。

 もっとも、カリューの性格なら挑発に乗るだろうという読みはあったし、人数不利の状況で明らかに一人だけ孤立している駒を狙わない理由もない。

 そうした性格と状況を見越しての作戦だ。


「波動掌! 五連波!!」


 カリューは茨の鞭とリオネルの射程を避けながら、レオノーラを狙って攻撃を仕掛ける。しかし、空中にいるレオノーラは木々の陰に隠れたり、わずかに位置を変えたりするだけで、その攻撃はことごとく外れる。

 森の木々はレオノーラを守る壁となり、カリューにとっては障害物となる。


 なんとかレオノーラに近づこうとするが、レオノーラとの間に入り、守りに徹するリオネルの壁は厚く、押しのけるのも容易ではない。無視して突き進もうとすれば、レオノーラは素早く木陰へと身を潜め、別の場所へ移動してしまう。


 さらに、大技を放つ隙も与えない。

 リオネルは熱に耐えながら執拗に張り付き、レオノーラは茨での的確な攻撃でその隙を封じる。二人の連携は、カリューのペースを完全に崩しつつあった。


 よし、準備は整った。俺も加勢するぞ。


「氷蟻」

「ぬっ!?」


 カリューの足元は突然、地面から現れた氷蟻によって固定される。


氷弾達磨(ボムダルマ)、発射!」


 さらに、木々の間を縫い、五つの方向から氷の弾が一斉に連射される。


「そこにいたか、波動掌! 五連波!! ぐっ!」


 カリューは氷を振り払い、被弾覚悟でレオノーラの茨の鞭だけを避け、リオネルの拳と氷弾のいくつかをその身で受けながら、氷弾が来た場所へ向けて衝撃波を放つ。

 だが、そこに俺の姿はなく、氷弾達磨(ボムダルマ)だけが壊れる。


 おいおい、リオネルのやつ、こんな熱いのに耐えてるのか?


 氷弾達磨(ボムダルマ)よりもっと後ろに隠れている俺の方にも熱波が届き、その熱さに驚いた。

 近くでこれと対峙しているリオネルはもっとつらいだろう。


 氷弾達磨(ボムダルマ)の仕組みは単純だ。

 達磨を射線が通る位置に設置し、そこに俺の氷で導線を作る。俺は導線の氷を通じて、達磨達から氷弾を発射させている。

 こうすることで相手に自分の位置を悟らせずに、複数方向から一方的に攻撃できる。

 準備できる時間がある時だけ使える魔法だ。


「はあ、はあ、はあ」

「ぜえ、ぜえ、ふう」


 リオネルもカリューもこれまでの戦闘で疲れが溜まっているのか、肩で息をしている。

 両者の違いは、数々の攻撃を受けたカリューの体からはところどころ流血が見られるのに対し、リオネルはまだそれほど傷がないところだろうか。


「気は進まんが……」


 カリューは攻撃を避けながら、近くの木に近づき、触れる。


水霊装(バリアル)


 次の瞬間、木の幹からみるみるうちに水が溢れ出した。それと同時に、葉はしおれ、幹は急速に干からびていく。

 木全体がまるで一瞬で寿命を迎えたかのように枯れ果て、ドサッと地面に倒れ込んだ。

 木から搾り取った水分はカリューの体を包み込み、透き通った水の鎧を形成していく。その鎧は揺らめきながらも、冷たい威圧感を放っていた。


「戦闘場所を森にしたのが間違いだったな!」


 カリューの動きは今までと変わり、海で自由に泳ぐ魚のように、さらりとしたものに変化する。


茨鞭打(ソーン・ウィップ)、好きにさせませんわ」


 レオノーラは操る茨の鞭の本数を増やし、攻撃だけに専念するが、ぬるっと動くカリューに当てるのは難しく、当たってもカリューの身にまとう水の鎧が潤滑油のように機能し、掠る程度で終わってしまう。


「まずは盾の小僧、貴様からだ!」

氷弾達磨(ボムダルマ)

「ぐっうううう、ぐはっ」


 俺は別の場所に用意していた氷弾達磨(ボムダルマ)十個をつなげ、氷弾をとにかく打ちまくる。

 カリューはそんな氷弾を無視して被弾を許し、茨の鞭は避けながら、重い連撃をリオネルに浴びせ、リオネルの盾を割る。

 そして、盾の生成が間に合わず、まともな一撃を浴びたリオネルはその場で倒れ込んでしまう。


「波動掌! 十連波!! 次は茨の小娘だ」


 氷弾達磨ボムダルマを全て壊したとき、カリューの体を覆う水は血で染まっていたが、それでも構わず、次の標的であるレオノーラに向かおうとする。


「……待て」

「なんだ?」


 リオネルは倒れながらも妹の元へ行かせまいとカリューの足を押さえる。


「行かせないぞ」

「そうか……ならば」

「そこまで。リオネルは戦闘不能です」


 敬意を持って最後にもう一撃入れようとしたところで、カリューの体は止まり、サターシャが現れ、気絶したリオネルを抱えてその場から離れる。


「……ふぅ。では、行くぞ。むっ!?」


 思わぬ中断があったものの、カリューはレオノーラに狙いを定める。

 すると、少し離れたところで、ブワッと爆発が起こり、空から一筋の蒼い光が舞い降りた。


「悪い、待たせたな」


 空中からカリューの前に現れたラフィは蒼炎を纏った剣を構えた。


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