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71話 盾の決意

 ―――クラウ視点―――



 ついに、カリューとの再戦の日がやってきた。


「みんな緊張してるんすか? 表情が硬いっすよ」


 陽気な声が車内に響く。荷馬車を操るルインスが、アブドラハから目的地へと俺たちを送迎してくれている。


「うるせえ。集中させろ」

「いい感じっすねー」


 ラフィが鋭い声で応じる。その表情はいつになく険しい。

 俺もラフィに同感だった。カリューを相手に上手く立ち回れるか、その不安が胸を締めつける。

 今回、カリューには俺たちを殺せないよう契約魔法がかけられている。

 それでも、戦いに絶対はない。想定外の出来事が起きる可能性もあるし、万が一の失敗が命取りになる。

 目の前に立ちはだかる壁。俺たちは、その壁を乗り越えなければならないのだ。

 重たい沈黙の中、外の景色が徐々に緑に染まっていく。




「来ましたね」


 決戦の場所である森ではサターシャがすでに待っていた。


「来たか」


 その隣には忘れもしない、あの時、俺たちを本気で殺そうとしてきた海人族の戦士カリューが腕を組み、仁王立ちで待ち構えていた。

 体には水が纏わりついており、その姿からは、圧倒的な威圧感が漂っている。


「……やはり、契約魔法とは厄介なものだな」


 カリューが低い声で呟く。言葉には皮肉と苛立ちが混じっていた。


「そうでしょう。殺害意志を持って攻撃しようとした瞬間に、体の動きが止まります。まあ、そんな真似しようものなら、その前に私があなたの首を落としますが」

「ふっ」

「代わりにあなたたちの先導者のことも聞けていませんがね」

「舐めるな。魔法などなくとも、決して口は割らん」


 サターシャとカリューは何やら不穏な話をしている。


「おい、何話してんだ。早くやろうぜ」

「では、簡単にルールを確認します」


 ラフィが催促し、サターシャがルールの確認を行う。


「殺し以外なら基本的には何でもありです。ですが、降参の意を示した場合や戦闘不能であるとこちらが判断した場合、その相手には攻撃しないように。カリューは一人なので、降参しても戦闘不能になってもその時点で戦闘は終了です」


 これはルール確認という名のカリューへの警告だ。


「どうでも良い。我を楽しませろ」

「てめえこそ、そのでけえ態度を改めさせてやるよ」


 相変わらず尊大な態度のカリューにラフィは剣を抜き、食って掛かる。

 俺たちもカリューをにらみつけ、対峙する。


「準備もできているようなので、始めます。開始!」

「閃光炎《フラッシュ・フレイム》!」


 サターシャの合図とともに、ラフィの剣から眩しい光が放たれ、辺りを一瞬で白く染め上げる。


「ぬっ……!」


 カリューの鋭い目が光を避けるように細められ、大柄な体がわずかに揺らぐ。


「頼んだぞ」

「任せたぞ、リオネル」

「お兄様、頑張ってくださいまし」


 俺たちはその場にリオネルを残し、その場から離れる。



 ―――リオネル視点―――



 訓練は自分の“魔法を受け入れること”から始まった。


 ルフェル男爵家の双子の長男として生まれた自分は、物心ついた時には魔法が使えた。

 妹のレオノーラも同じく魔法を使うことができ、その魔法は母上から受け継いだ力だった。

 それに対して、自分の魔法は両親のどちらからも受け継いだものではなく、平民の身でありながら大迷宮を攻略し、その功績によってルフェル家を築いたとされる初代当主のものに近い魔法だと父上から言われた。

 今考えれば馬鹿な話だが、当時の自分は魔法を使えることがどれだけ恵まれているのか分かっておらず、両親の魔法とは違う魔法であることにすごく落ち込んだ。

 そして、妹のレオノーラに内心嫉妬していた。


 父上は『鉄腕』のクロード・ルフェルと呼ばれ、軍でも屈指の実力者で、自分にとっては憧れの存在だった。

 だが、その父上の口から、『お前の魔法ならもっと色んな事が出来るはずだ。柔軟に物事を考えろ。レオノーラを見習え』と叱責されるたび、その嫉妬心も大きくなっていった。

 実際、妹の茨魔法は、攻撃と防御を自在に切り替えるだけでなく、相手の動きを封じる応用力も備えている。それに加え、妹は魔法だけでなく初めて挑む課題でも、自分より優れた結果を出す天才だった。

 一方、自分の魔法は盾。守ることしかできない、不器用な魔法だ。それが柔軟性のなさを象徴するように思えて、次第に自分の魔法そのものが嫌いになっていった。

 そんなふうに考えるようになってから、自分は妹を避けるようになり、兄妹の仲も冷めていった。


 憧れだった父上にも変化が起こった。

 昔はよく、『私の同僚にすごい奴がいるんだ。周りからは親の七光りだなんていわれているが、それは違う。あいつほど努力してる奴なんて見たことないし、いずれこの国を背負う軍人になるだろう。だが、私は負けん』と語り、自分もその同僚に負けじと努力している姿を見せてくれた。

 だが、ある時を境に、父上はそうした話をしなくなった。そして、まるで自分に言い聞かせるように、『いいか、リオネル。才能は覆すことは出来ない。だが、柔軟に考えるんだ。力がないなら借りれば良い。才能あるものと同じ土俵で戦うこと自体が間違っていたのだ』と語るようになった。


 それからすぐに、父上が悪党と手を結び、権力を握るために裏で工作を行っていたこと、そして、父上はその悪党に裏切られ、殺されたことを知った。

 同時に、父上の罪により家族全員が捕らえられ、反逆の芽を摘むために全員処刑される可能性があると告げられた。

 何が起きたのか分からない状況で、


「全ては父上の変化に気づいていながら、何もできなかった私の罪です」


 気付けば、自分は母上と妹の命だけは助けて欲しいと懇願していた。

 この時、自分は初めて長男であり、兄であることを自覚した。




 *****




「お前の守りは見かけよりも軽い。そんなんじゃ何も守れねえぞ。何か思うことがあるなら言ってみろ」


 騎士見習いになり、師匠から指導を受けることになって、最初に言われたのが、その言葉だった。


「……自分の魔法が嫌いなんです」


 騎士団の先輩方の魔法はどれも圧倒的だった。風を操り、自由自在に物を宙に浮かせ、炎で相手を斬り伏せる。

 自分の魔法とは比べ物にならない、強力なものばかりだ。

 そんな魔法を前にすると、自分の不器用な力がただただ恥ずかしく思えてくる。


「……なるほどな。そう言うことならあいつのところに行ってこい」




「それで、バッカスさんに言われて俺のところに来たわけか」

「はい」


 師匠から言われた通り、兵舎の厨房に行くと、エリック先輩がいた。


「リオネルはどうして俺が料理をやってると思う?」


 エリック先輩は料理をしながら訪ねてきた。


「料理が好きだからでしょうか?」

「まあ、それもある。だが、一番の理由は親父だな」

「団長ですか?」


 エリック先輩の父親はフロスト騎士団の団長、ガルハルト殿だ。

 まだ戦っているところを見たことはないが、巨大な戦槌を振り回し、魔物の襲撃時には巨獣王竜(ベヒーモス)を一人で抑え込んだと聞いている。


「親父は衝撃を何倍にも膨れ上がらせる魔法の使い手でな」

「えっ、そんな話しても良いんですか?」


 魔法は重要な情報だ。本人がいないところで話して良いものなのか。


「そんなの気にするような男じゃねえよ。で、話を戻すけど、俺の魔法はこれだ」

「……? よく分からないですけど?」

「ほら、包丁をよく見てみろ」

「あっ揺れてる」


 そう言われて包丁を見てみると、振動しているのが分かった。


「気づいたか。俺の魔法は物を振動させる、それだけだ」

「えっ……」

「俺の魔法は親父みたいに戦闘向きじゃねえ。包丁程度なら安定して持つことも出来るが、剣は思ったように振れねえし、他の武器も狙いが定まらねえ。俺にもなんで俺の魔法は親父のとは違うんだって燻ぶってた時期がある」

「そうだったんですね」

「ああ。それでバッカスさんに『お前の価値を決めてるのはお前自身だ』ってぶん殴られた」

「えっ!?」

「ははっ! 流石に子供は殴らないだろうよ。」


 エリックさんは笑いながら言うが、少し不安になった。


「そんでその後、昔から獣の解体とかはこの魔法のおかげで親父よりも得意だったのを思い出して、なんとなく料理を作ってみたんだ。それを食べた親父がすげえ喜んでるのを見て、毒気が抜けた。俺の魔法でもやれることはあるんだなって。それからは、こうして料理番もやってる」

「それで料理を始めたんですね」

「ああ。とはいえ、今でも戦いになると親父の背中を追っちまうがな」


 エリック先輩は少し自嘲気味に笑いながらそう言った。


「でも、皆さんとは違って、自分の魔法は自分みたいに融通が利かなくて」

「それこそ、リオネルがそう決めつけてるだけなんじゃないのか? 自分の価値を低く見すぎるから、周りの価値が高く見えすぎちまうんだ。結局、魔法を生かすも殺すも自分次第だぞ」

「……自分次第ですか」

「せっかく来たんだ。飯食ってけよ」


 エリック先輩の料理はおいしくて、食べてるうちに心が軽くなっていく気がした。




「はっはっは! エリックの奴、そんなこと言ってたのか。」


 エリック先輩の話をすると、師匠は豪快に笑い飛ばした。


「あいつもお前と同じで魔法で悩んでたから、話を聞いたら何かつかめるかと思ったが、どうだ?」

「まだ、よく分かりません。でも、エリック先輩の話を聞いて、自分も魔法と向き合おうと思いました」

「それでいい。エリックも戦闘向きじゃないと言いながら、今は対人戦なら俺より強いぞ」

「そうなんですか?」

「自分の価値を決めるのは自分なんだよ」




 *****




 自分の魔法と向き合いはじめ、レオノーラにもこれまでのことを謝った。

 レオノーラは、『気づいてましたわ。これを』といって、手編みの帽子をくれた。

 これまでの自分にけじめをつけることができ、それを父上に報告しようと墓参りへ行った。


 父上の墓前で静かに頭を垂れていると、背後から煙草の香りが漂ってきて、振り返ると、軍服を着た金髪で長身の男が静かに立っていた。


「もしかして、あなたはエルネ」


 言いかけた瞬間、男はわずかに目を細め、低い声で遮った。


「それ以上口にするな。今ここにいるのは、ただのクロードの戦友だ」


 男はそのまま、父の墓に一輪の花を供えた。


「あなたのことは父上からよく聞いていました。いつかあなたを超えて見せると」

「……そうか」


 男はそう言うと、自分の隣に立ち、煙草を吸い始めた。


「貴様は軍人にはならんのか?」


 しばらくすると、男が話しかけてきた。


「私は父上の罪を背負い、代わりに騎士としてこの街を守ります」

「お前の父親は立派な男だった。その息子なら、私が言うまでもないだろう」

「たまに花が供えられていたのはあなただったんですね」

「気まぐれだ」


 男は煙草を携帯用の灰皿で処理すると、そのまま立ち去ろうとする。


「私は父上のようにあなたと競うつもりはありません。ですが、父上の果たせなかった思いは私が継ぎます」


 それに応えるかのように男は軽く手を上げた。




 *****




 輝く閃光の中、これまでの出来事を思い出し、集中力を高める。


「頼んだぞ」

「任せたぞ、リオネル」

「お兄様、頑張ってくださいまし」


 先輩と恩人、大事な妹からの応援に力がみなぎるのを感じる。


「……なんだ、小僧だけか?」

「かかってこい、お前の相手は私だ!」


 これは自分自身へ証明するための戦いだ。


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