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66話 ローゼン商会設立へ

 対策会議が終わっても、俺たちの生活に変化はない。

 いつものようにロゼ・クラウンに氷を卸し、七日に一回はかき氷の屋台を開き、畑の様子を見守る。

 騎士団の方はいつ襲撃が来ても良いように準備を整えつつ、軍からの依頼をこなすようだ。

 この前ラフィには、


『なんか、副団長からミャリアと魔物討伐へ行くように指示されて遠くまで行かないといけなくなったから、シータ姉たちのことは任せる』


 と言われたので、おそらく、はぐれ退治とか周辺地域の問題を解決しているのだろう。

 アブドラハは辺境にあるとはいえ、国境にあり、貿易が盛んな商業都市でもある。

 移動する商隊の安全を守るのは重要な役目だ。


 俺の訓練の方も今はルインスが忙しくしているので、体力づくりがメインだ。

 冬になれば今よりも時間はできるだろうし、それから本格的になっていくだろう。

 ルインスからは鬼ごっこの後、


『思った通り、魔法については自分が教える必要はなさそうっすね。本当は魔法の話もしようと思ってたんすけど、やめとくっす。詳しいことは魔法学園で学んでください。自分は逃げ方を教えるっす』


 と言われて、理由は分からないが、魔法について教えてもらうことはできなかった。

 ただ、対人戦での魔法を使った戦い方は分かったし、思いついた魔法の実験台にはなってくれるみたいだから、自分なりに魔法を練習していこうと思う。


 個人的には戦うために魔法を使うより、生活のために魔法を使う方が性に合ってるし、

 体力づくりばかりで不安だったこともあって、最初は文句を言っていたが、その理由が分かった今、ルインスの指導はなんだかんだしっくりきている。


 なんというか、前までは俺も戦うことでみんなを守ることが後継者の役割なのかと思っていたが、色々な経験を経て、純粋な武力の強さは周りが担ってくれているから、“俺は俺にしかできない形でみんなを守る”っていう意識に変わってきた感じだ。

 昔、ラフィにもそんなことを言われた覚えがあるが、後継者になるっていうプレッシャーで忘れていた原点を思い出したということだろうか。


 さて、俺もやるべきことをやろう。


「アミル、ちょっといいか?」

「どうしたの?」

「土地が枯れるのを防ぐような植物とか、何か心当たりはないかな?」


 海人族の秘宝の豊穣の力が、この土地にどれほど影響しているのかは分からない。しかし、会議でも話したように、それに頼り切るのは危険だ。秘宝が狙われている現状では、最悪それを失ったときの対策も必要だろう。


 そして、それは俺たち商人の役割だ。

 水脈を引く案については会議で具体的な見通しが立ったが、それだけでは不十分だ。他の手段も考え、土壌改良に役立つ植物を探す必要がある。自然の力で土地を循環させ、豊かさを維持できる仕組みが理想だ。


 そう考え、俺はアミルに相談することにした。


「うーん、僕が詳しいのは薬草だから……。でも、何か事情があるんでしょ?」

「そうなんだよ。聞いてくれるか?」


 俺は、過去にこの土地が枯れていたことやこれからいつそうなるか分からない危険性を話した。


「今すぐにって話じゃないけどな。今は俺たちなりにこの畑を広げていこう」

「分かった、どれだけ力になれるか分からないけど協力するよ。これから従業員も増えていくんでしょ?」

「うん。ようやく一年前に言ってたことが実現するな」

「実感はまだ湧かないけど、僕も一員として頑張るから」

「頼りにしてるよ、相棒」


 この世界で生きていく決意を固め、アミルと出会ってから一年間で色々な変化があった。

 お互い目指す方向は違うが、俺の商売の相棒はアミルだ。




 *****




「父さん、いよいよだね」

「そうだね。ちょっと緊張するな……よし、行こうか」


 俺とジョゼフ父さんは商業組合の建物の入り口に立ち、深呼吸をしてから中へ入った。

 これまでも商売をするうえでお世話になってきた場所だが、今日はいつも以上に重要な用事でここに来た。

 そう、前から言っていた商会登録だ。


 ジョゼフ父さんのフリーズドライ食品事業もマルハバ商会の手助けや出資している貴族や軍からの支援もあり、見通しが立ってきたようだ。

 登録したからといってすぐに何か変化があるわけではないが、それでも大事な一歩目になるのだから、気合も入る。


 商業組合の様子は立派な石造りの外観とは裏腹に、中は商人らしき人たちが書類や何が入っているか分からない大きな袋を抱えて行き交い、複数ある受付にはそれぞれ列ができている。

 俺たちも案内を見て整理札を受け取り、順番を待った。


「すみません、商会登録をお願いしたいのですが」

「はい、承知いたしました。この用紙に商会名、代表者名、活動内容を詳しくご記入ください。その後、登録料のお支払いとなります」


 俺たちの順番が来て、案内通りの受付へ移動した。

 受付に座るお姉さんが顔を上げ、微笑みを浮かべながら応じる。

 お姉さんから用紙を受け取り、ジョゼフ父さんが言われた通り、用紙に記入していく。


「お願いします」


 ジョゼフ父さんは書き終わった用紙をお姉さんに差し出す。


「では、確認させていただきますね。本日お越しいただいたのは、代表者のジョゼフ・ローゼン様、御本人でお間違いありませんか?」

「はい」

「では、確認のため商人証の提出をお願いいたします」


 ジョゼフ父さんは商人登録したときにもらう商人証を渡した。


「はい、ありがとうございます。商会名はローゼン商会で間違いありませんか?」

「大丈夫です」


 父さんがそう答えると、お姉さんが一つ一つ内容を確認しながら、作業を進めていく。

 やましいことは何もないが、本当に大丈夫か不安になってくる。

 ジョゼフ父さんも同じような気持ちなのか、いつもより表情が硬い。

 一通り確認を終えたのか、お姉さんは書類と商人証を持って、奥の部屋へと消えていき、しばらくすると、戻ってきた。


「ローゼン商会様の登録が完了いたしました。ありがとうございます。これからのご活躍を心よりお祈りしております」


 心配とは裏腹に手続きは何事もなく終わったみたいだ。


 商会登録する利点はたくさんある。

 その中でも一番大きいのは、商業組合はこの国の公的機関であり、そこから認められるということはこの国で活動する上で大きな信用になることだ。

 それだけで資金調達も容易になるし、商業組合からの情報提供や支援を受けやすくなる。


 当然、誰でも商会登録ができるわけではなく、これまでの経歴に怪しい部分があったり、事業内容が不適切だったりすると登録できないこともある。

 今回、登録が早く順調に終わったのも、事前に商業組合に商会登録をする意思を伝えており、密かに調査が行われていた結果である。


 ジョゼフ父さんのように軍を巻き込んだ大きな事業となると、商会登録は必須になるので、俺が提案しなくてもジョゼフ父さんが商会長になっていただろう。

 他にも、アミルの父親の薬屋のように独立した店舗が傘下に入ることで、事業を拡大することもできるし、商会登録は市場で大きな影響力を持つことにつながる。


 もちろん、これからはうちのロゼ・クラウンもローゼン商会の傘下として経営することになる。

 商会の評判はそのまま傘下の店にも影響するし、逆もまたしかりだ。

 そう考えると身が引き締まるが、俺の“多くの人を笑顔にできる商売をする”という目標は変わらない。

 その目標こそ俺がこの世界で生きるってことなんだと思う。


「クラウ、分かってると思うけど、商会っていうのは助け合いだよ。困っていたら僕を頼るようにね」

「うん。頼りにしてるし、これからは俺も父さんを支えられるよう頑張るよ」


 俺は氷売りから始まった物語の大きな一歩を踏み出した。


今年もよろしくお願いします。

これにて二章は終了です。

本当は二章で三年分をまとめるつもりでしたが、書きたいことが多すぎました。

物語が動く、この物語の土台となる章だったと思います。

三章は奴との再戦やミステリー風な物語を予定していますが、どうなることやら……。

引き続き物語を楽しんでいただけたら幸いです。


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